「かがみの孤城」辻村深月 評価:2点|不登校の少年少女が不思議な空間で深める友情と立ちはだかる「学校」そして「家庭」という苦難【青春小説】

かがみの孤城

「冷たい校舎の時は止まる」でメフィスト賞に選ばれてデビュー、その後も破竹の勢いで大ヒット作を連発し、いまや大人気作家としての地位を盤石とした辻村深月さん。

特に十代から二十代の若者を主人公とした作品が多く、ミステリという枠組みで宣伝される著作が中心ですが、あくまでミステリ成分は「風味」程度に抑えられており、ミステリ作家というよりも若者の繊細な感情を巧みに描く青春小説の名手として認識されている読書子が多いのではないでしょうか。

そんな辻村さんが2017年に著したのが本作です。

不登校の中学生たちが一つの不思議な空間に集められ、あるゲームに参加させられる、といういかにも若者的なあらすじの作品であり、第一印象として特段目新しさを感じる書籍ではないのですが、現実には100万部以上が刷られており、2018年度の本屋大賞を受賞、漫画化もされており、2022年の12月には映画化もされるなど、出版不況をものともしない売れっ子ぶりが発揮された作品となっております。

というわけでそれなりに期待して読んだのですが、思ったよりは凡庸な作品だったなという印象です。

さすがはベストセラー連発作家のエンタメ作品だけあってすいすい読めるのですが、一つ一つのエピソードが創作物としては「ベタ」なものばかりであまり大きな感動がなく、かといって、その組合せが劇的な効果を生んでいるわけでもないように感じました。

ミステリ部分もSF的な仕掛けだったのであまり「やられた」とはならず、全体的に中途半端な作品でした。

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あらすじ

学校で「いじめ」に遭い、不登校になっている中学一年生、安西あんざいこころが主人公。

ある日の昼間のこと、いつも通り自室で過ごしていたこころの目の前で、部屋にある姿見が突然光を放ち始める。

恐る恐る姿見に近づくこころ。

手を伸ばすと、なんと鏡の向こう側まで腕が通り抜け、そのまま鏡の中の世界へとこころは引きずり込まれてしまう。

そこで出会ったのは狼の仮面を被った一人の少女。

彼女曰く、この鏡の世界で「鍵」を見つけることができれば、願いが何でも叶うという。

一度は鏡の世界から逃げ出したこころだったが、再び姿見が光ったとき、こころは鏡の世界に飛び込む決心をする。

そして、そこで出会ったのは六人の少年少女。

狼の仮面を被った少女の話によると、こころを含めた七人のうち、「鍵」を見つけた一人だけの願いがかなうらしい。

おっかなびっくり交流を始める七人は、やがてそれぞれの共通点が不登校であることに気づくのだが......。

感想

最序盤のいじめ描写は流石の迫力があります。

恋愛沙汰の誤解から教室で権力を握ってる女子に目を付けられて仲間外れにされるという流れ自体は非常にオーソドックスでありきたりなのですが、それぞれの場面における演出が上手く、こころが恐怖で学校に行けなくなる様子が説得的に描かれています。

特に、こころが不登校となる最終的なきっかけになる事件、いじめる側の生徒たちがこころの家までやってくる際のこころがとった必死の行動とその心理描写は圧巻です。

その後に訪れる、学校にも行きたくないけど、フリースクールにも行きたくないという、思春期の追い込まれた心情の描き方もまた胸に迫るものがあります。

ただ、緊迫感が強く先が気になったのはこのあたりまで。

鏡の世界での七人の交流はやや退屈に感じられます。

七人が紆余曲折ありながらも心の距離を縮めていく様子は、自然な感じで書かれてはいるのですが、そこにこれといった強いドラマがなく、惰性でページを捲らざるを得ない場面が続きます。

また、次第に明らかになる、こころ以外の子供が不登校になってしまった理由もやや創作物としてのありきたりな理由が多く、ベタな設定の寄せ集めになっている感が否めません。

(もちろん、現実に存在する深刻な理由ばかりなのですが、その説明描写にページを割くわりには本作独自のドラマ性がなく、延々とありがちな「不登校になった理由」を聞かされ続けるのは辟易します)

しかも、そういった「七人が仲良くなっていく」パートが異様に長く、物語が本格的に動き出すのは私が読んだ文庫版では上巻の最終ページ、なんと411ページ目という遅さです。

それまでは七人が抱える背景や、鏡の世界でのルール説明のための描写が続き、端的に言えば下巻への餌撒きに終始するのです。

そして、下巻の冒頭から訪れる物語の山場、七人のうち六人で一斉に登校を試みる場面。

この場面自体は面白いのですが、上下巻合わせて800ページ近くある物語の中で、展開が一変する局面がここ一つだけというのがどうにも寂しい。

下巻ではこの「一斉登校」事件の際に起こったハプニングをもとに七人の関係性を再度ひも解くための推理劇が始まるのですが、これがまた面白くない。

SF的な推測が始まり、最終的には本当にSF的なオチに落ち着くのですが、不登校児たちの繊細な心情の動きを描くのでもなく(各人の過去話は披露されますが、あくまでそれは過去話であって作中「現在」での動きではなく、しかも過去話は上述の通りベタな「不登校話」ななのです)、かといって現実的な条件から本格ミステリ的に推理するのでもないという中途半端な話の流れが一度は盛り上がった物語を再び盛り下げてしまうのです。

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