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「第六大陸」小川一水 評価:1点|少女の夢を叶えるため、男たちは月面に結婚式場を建設する【SF小説】

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第六大陸
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本格SF小説の書き手として知られる小川一水さんの作品で、代表作の一つとして位置づけられることが多い作品です。

優秀なSF小説に与えられる賞である星雲賞の第35回日本長編部門受賞作にして漫画化もされている人気作ということで読んでみたのですが、かなり期待外れだったというのが正直な感想です。

SFの部分はかなりリアル(であるように感じられる)にも関わらず、一方で会社組織の在り方や人間関係があまりにもライトノベル風となっているため作中でのリアリティの持たせ方がかなり歪んでおり、真剣な話として読むべきなのか、一種のコメディとして読むべきなのか混乱してしまって全く熱中できない作品となっております。

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あらすじ

(本書は2003年刊行です)

ときは西暦2025年、極地や海底といった厳しい環境での施設建設に定評がある後鳥羽総合建設がある日、規格外の大型案件を受注することとなった。

それは、月に結婚式場を建設するというもの。

月面の有人施設ですら希少という時代において、それはあまりにも壮大で無謀な計画だった。

そんなプロジェクトの担当となったのは、後鳥羽総合建設の建設主任である青峰あおみね走也そうや

そして、走也と行動を共にしてプロジェクトの推進にあたるのは、桃園寺妙という少女。

発注元であるエデン・レジャーエンターテイメント社の会長の孫娘であり、孤高の天才である彼女の夢、それが月の結婚式場であり、エデン社は彼女の夢を叶えるためだけにこの企画を発注してきたのだった。

果たして、走也と妙は結婚式場を完成させられるのだろうか、そして、二人の運命はどこに向かうのであろうか。

前人未踏の大計画がいま始まる......。

感想

2巻構成の文庫本なのですが、久々に1巻で投げました。

冒頭はまずまず期待を抱ける描写から始まります。

後鳥羽総合建設が海底に建設しようとしている「ドラゴンパレス」という設備を見るため、「リヴァイアサン」という深海交通艇が海の底へと潜っていく場面。

それっぽい専門用語が乱発されながら近未来の建設技術水準が描かれ、本格SF物語の幕明けという高揚感を見事に演出しているといえるでしょう。

ところが、「リヴァイアサン」の乗員として場違いな少女が現れるところから雲行きは怪しくなります。

のちのこの少女が月面結婚式場計画の発注主だと分かるのですが、この会長の孫娘(友達のいない天才美少女)がそれなりの権力を握っていて、何百億のプロジェクトを動かせるといういかにもライトノベル的な設定には白けてしまいます。

全体的に、特に「月面に大型施設を建設するにはどうすればよいか?」という点において強力なリアリティを追及しており、その壮大さと緻密さと浪漫に魅力がある物語にも関わらず、その周辺を固める登場人物の人物造形がまさに冗談のような設定で、それがギャグでもなんでもなく真剣に語られるのですから、もはやシュールギャグの領域に到達しています。

しかも、物語開始時には13歳であるこの少女が正真正銘本作のヒロインであり、物語開始時には建設会社の主任であるところの主人公と恋仲になるという気持ち悪さ。

成人男性が女子中高生と良い感じになるというのは、ライトノベルや青年・成人漫画において露骨な表現をする場合以外であれば、少しでも真剣味のある物語の中で登場させるのであれば、ただそれだけでひと悶着あるべき事象であるはずなのに、さも当たり前の素晴らしい本格恋物語であるように本作では描かれます。

その他の登場人物という点においても、月面施設の建築という命題に相応しい真剣さをもって描かれる人物と、いかにもライトノベルっぽい性格や挙動で描かれる人物(本作では女性に多い)が混在しており、どこまでが真面目でどこまでが冗談なのか、悪い意味で分からない小説になってしまっております。

加えて、本格SFの肝になっているロケット技術・建設技術についての描写もやや説明過多に感じました。

技術に関しての克明で繊細な説明はあまりにもハードSF的で、そういった「説明」そのものを読んでいて楽しい人向けとなってしまっており、物理的な「動き」の部分の描写で感動できるような表現力も欠けているように思われます。

結論としては、ライトノベル的な人物及び関係性描写にげんなりする一方で、SF的側面においても説明ばかりでアクション性には欠けるというのが本作の総合的な評価となります、

さて、以下は評価の範囲外としたことなのですが、やはり2003年という日本にまだ勢いのあった時期に刊行された書籍だからか、全体的に日本の技術に対する自信が強く打ち出されているのが印象的でした。

まずもって日本の技術力の高さは疑いようのないものであり、世界的に傑出しているのが当然という感覚。

この感覚が当たり前のものとして小説を書く、なんてことは2022年現在では難しいでしょうし、それだけに、当時はこの描写で「GOサイン」が出ていたのだと思うと感慨深いものがあります。

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