マイノリティ

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風子のいる店

「風子のいる店」岩明均 評価:2点|吃音の少女が働く喫茶店には珍客が多く訪れる【青春漫画】

「寄生獣」や「ヒストリエ」で有名な漫画家、岩明均さんが著した青春漫画です。岩明均さんの作品としては歴史漫画だった「雪の峠・剣の舞」に続いてのレビューとなりますが、やはり歴史漫画に比べると青春漫画はやや苦手としているのかなという印象を受けました。全4巻の中でこれといったエピソードやキャラクターを排出できず、小粒な作品として纏まってしまっております。吃音で悩む内気な女子高生が喫茶店でアルバイトを始める、という掴みそのものは悪くないのですが、吃音設定も喫茶店設定も活かしきれておらず、学校での事件に焦点を当てたエピソードもありきたりな話ばかりで、もっと構成や登場人物を練ってから連載を初めてもよかったのでは、と感じてしまう作品でした。あらすじ有沢ありさわ風子ふうこは吃音に悩んでいる女子高生。学校でも吃音を馬鹿にされ、逃げ込むようにして選んだアルバイト先は「ロドス」という喫茶店。しかし、アルバイトを始めたからといって吃音がすぐに治るわけもなく、鈍くさい性格と相まって「ロドス」でも失敗ばかり。そんな風子も、「ロドス」を訪れる奇妙な客たちが引き起こす騒動に巻き込まれながら少しずつ精神的に成長していく。...
三島由紀夫

「仮面の告白」三島由紀夫 評価:2点|同性愛者であることの苦悩と官能が青年の人生を蝕んでいく【古典純文学】

「潮騒」や「金閣寺」等の作品で知られ、戦後を代表する作家の一人として挙げられることが多い三島由紀夫の著した小説。三島由紀夫を文壇の寵児へと押し上げた記念碑的作品であり、代表作を一つ選ぶとすれば本作か「金閣寺」になるというくらいの有名作品です。同性愛を描いた刺激的な作品ということで、私もその革新性に期待して読んでみたのですが、いまとなっては凡庸だなというのが率直な感想。小難しい書きぶりは良くいえば芸術的で妖艶なのでしょうが、個人的には無駄に装飾的なように思われましたし、自分自身が同性愛者であることを主人公が徐々に理解しながら苦悩する、という筋書きにもそれほど衝撃を受けませんでした。つまらないわけではないですが、今日において特段に持て囃されるべき作品かと言われれば、それは違うという印象です。あらすじ病弱な身体に生まれた「私」は、祖母によって外遊びを禁じられ、祖母の眼鏡に適った女友達とばかり遊ぶ幼少期を過ごすことになる。そんな「私」はしかし、幼い頃から女性に惹かれることがなく、魅力を感じるのは専ら逞しい男性の肢体ばかりであった。しかし、大学生になった「私」には園子という恋人ができる。園子に対...
社会問題

差別をテーマにしたNIKEのCMがなぜ放映されたのかを考える【メディア論】

NIKEといえばスポーツ関連製品やスニーカーで有名なグローバル企業ですが、2020年の11月末、NIKEが製作した自社製品のコマーシャル映像がSNSで話題となりました。YouTubeでも公開されておりますので、リンクを貼っておきます。ご覧の通り、CMのテーマは「差別(に立ち向かって自分らしく生きる)」であり、在日韓国・朝鮮人や黒人、あるいは女性全体に対する、とりわけ日本における差別が少女たちの視点を通じて表現されています。「差別」は様々な意味で世論を二分する繊細なテーマであり、SNS上でも「マイノリティに対する差別を告発し、それに立ち向かう勇気を貰える良いCMだ」のような書き込みもあれば「まるで日本に不合理な差別があるかのような表現であり、NIKEは嘘を放映している」「(マイノリティを過度に優遇する)逆差別のほうが酷いのに」のような書き込みもあり、論争の種になっておりました。本稿では、このCMが日本における差別の実態を反映しているか否か、あるいは、このCMが道徳的・倫理的に正しいか否には立ち入りません。その代わり、なぜ、いまこのタイミングで、どのようなプロセスを経てこのCMが放映される...
ジョゼと虎と魚たち

「ジョゼと虎と魚たち」タムラコータロー 評価:1点|名作邦画のリメイクアニメは非常に残念な凡庸恋愛映画【アニメ映画】

2020年12月25日に公開されたアニメーション作品。1984年に著された田辺聖子さんの短編小説が原作で、映画通のあいだでは2003年の実写映画版が名作として知られているようです。とはいえ、印象的なベッドシーンやヒロインが抱える障がいに独特の焦点を当てたことで評判になった実写版とは異なり、アニメ映画はクリスマスに相応しい清らかな純愛ものに仕上がっています。加えて、主人公とヒロインの声を俳優の中川大志さんと清原果耶さんが務め、お笑い芸人である「見取り図」の二人もチョイ役で参加しているところからも、大衆受けを狙ったのだろうなという感じは拭えません。そして、そういった大衆受け純愛路線が結果的に奏功していたかと問われれば、かなり失敗していたのではないかと感じました。著しく退屈というわけではないけれども、どうにも底の浅い凡庸な映画に仕上がってしまっていたというのが感想の大枠です。あらすじ主人公は男子大学生の恒夫つねお。大学では海洋生物学を専攻しており、趣味は海に潜ること。メキシコ留学に向けた資金を貯めるため、ダイビングショップでのアルバイトにも励んでいる。そんな恒夫がダイビングショップから帰る途...
さびしすぎてレズ風俗に行きましたレポ

「さびしすぎてレズ風俗に行きましたレポ」永田カビ 評価:2点|自分に自信がない状態を克服する再生物語【コミックエッセイ】

pixivで連載されていたコミックエッセイの書籍化作品。「寂しさのあまり性体験をしたこともないのにレズ風俗に行く」というセンセーショナルな煽り文句と、その切実な内容のコントラストが魅力です。あらすじ大学中退後、精神的な病気を患い、アルバイトも長く続かなかった著者、永田カビ。親との関係も上手くいかず、頭には「死」がよぎる。「なにくそ、立ち直ってやる」。そう意気込み、息苦しさから自分を解放するために選んだ手段。それはレズビアン風俗に行くことだった。生きづらい現代で自分に自信を持つとはどういうことか。レズ風俗での体験を通じ、著者が自分として生きていく方法を掴んでいく物語。感想共感できる人とできない人が真っ二つに分かれる作品でしょう。真っ二つになる基準は「自分に自信を持っているか否か」です。非常に個人的な観点ですが、現代を生きる人々を敢えて二つに切り分けるならば、その基準として「自分に自信を持っているか否か」を使うのはかなり良いアイデアなのではないかと感じます。そこには、個人の性格とそれを形成してきた家庭や社会の環境が如実に反映され、しかも、自信を持っている人/いない人同士は決して相互に理解し...
街の灯

「街の灯」チャールズ・チャップリン 評価:2点|切ないラストシーンが印象的なチャップリンの代表作【コメディ映画】

1931年に発表された映画で、映画好きの間では定番の作品だそうです。チャップリンの代表作の一つということで見てみました。筋書きは面白いのですが、やはり全体的に表現が冗長だと感じます。あらすじチャップリン扮する浮浪者の男は、おふざけばかりの生活で日常を過ごしていた。そんな男はある日、花売りの少女に一目惚れしてしまう。本来ならば見込みがない恋だが、花売りの少女は盲目であり、ひょんなことから男のことを別の大金持ちと取り違えてしまう。貧しい盲目の女性に献身しようと男は身を粉にして働くようになるのだが、男は大富豪の家に入った強盗として逮捕されてしまい.......感想もうちょっと圧縮できるのに、というのが正直な感想です。テンポの良い現代の作品と比べてしまうとかなり冗長に感じてしまいます。各コメディシーンも、当時は斬新だったのかもしれませんが、いまとなってはややグダグダ感があり、一般の視聴には堪えないでしょう。映画好きは細かいところをいろいろ褒めるのかもしれませんが、フィクション作品である以上、気づかれなければ存在しないことと同じです。ただ、ラストシーンはやはりジーンときました。短い「You?」の...
乙一

【暗いところで待ち合わせ】視覚障がい者の住む家に身を潜めた殺人容疑者の運命やいかに 評価:4点【乙一】

人気作家、乙一さんの文庫書き下ろし作品です。類を見ない斬新な設定と普遍的で温かな感情を共存させたこの作品。私としては乙一さんの最高傑作だと思っています。あらすじ視力を失い、保険金で日々を静かに暮らすミチル。そんなミチルは、最近、自宅で奇妙な感覚に襲われていた。擦れるような小さな音が頻繁に聞こえ、誰もいないはずの空間から空気の揺らぎを感じる。一方、とある殺人事件の犯人として追われていたアキヒロは、ミチルの家に逃げ込み、部屋の一角を居場所としていた。偶然が起こした不思議な同居。それぞれが異なる理由で怯える両者だったが、やがてその関係にも変化が訪れる。死んだように暮らしているミチルと、孤独に生きてきたアキヒロ。二人の運命やいかに......。 感想素晴らしい作品、傑作です。人との関りが苦手、という二人が出会う物語なのですが、まず、その「孤独」描写が秀逸。ただ単に「暗いと呼ばれていた」「人を避けがちだった」と描写するだけでなく、馬鹿にされたときの心理や、悔しくやり切れず、怒りを感じながらも何もできない感情。他人に「怯える」とはどういう状態かということが緻密に描かれており、物語に切迫感と現実感を...
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