社会学

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社会学・歴史・スポーツ

「やさしくない国ニッポンの政治経済学」田中世紀 評価:2点|人助けもしなければ社会参加もせず、それでいて貧乏な日本とその処方箋【社会学】

日本人の良いところは他人に優しくするところであり、お人好し過ぎる点が国際外交やビジネスの場面で仇になってしまうほど日本人は優しいのだ。こうしたステレオタイプ的な日本人像は、特に日本人のあいだで長く語られてきた典型的日本人像であります。(自分で自分たちのことを「優しい」と思っているなんて、個人的にはどうしようもなく気持ち悪いですが......)東京オリンピックの招致やインバウンド需要取り込みのために近年では「おもてなし」の精神が強調される機会も多く、こうした日本人の自己像はますます強化されているのではないでしょうか。そんな風潮に一石を投じた記事が「Yahoo!ニュース」に投じられたのは2019年10月のこと。本書のプロローグもまた、この記事の紹介から始まります。日本人は、本当のところ世界の中でも全然「優しくない」集団なのではないか。そんな疑念を皮切りに、日本人の利他性/利己性を社会科学的に分析。貧困問題とも絡めながら論じた著作となっております。目次プロローグ序章 人にやさしくない、貧しい国ニッポン第1章 他人を信頼しない日本人第2章 そもそも、なぜ人は他人を助けるのか第3章 日本人の社会...
☆☆(教養書)

「バカの壁」養老孟子 評価:2点|現代人が囚われている愚かさの監獄について老教授が語る【社会学】

400万部以上を売り上げ、日本のベストセラーランキング5位に君臨する伝説的新書である本作。東京大学名誉教授である養老孟司さんの著作で、2006年には「超バカの壁」、2021年には「ヒトの壁」が発売されるなどシリーズ化されており、人気は現在でも健在です。本作は新潮社編集部による口述筆記によって著されており、養老さんの語りを分かりやすく文章化したもの。そのため、確かに文章としては柔らかく読み易いものになっております。ただ、だからといって内容が濃いか、あるいは理解しやすいかと言われればそれはまた別の話。社会批判についての方向性としては個人的に賛同できる部分が多かったですが、あくまで老教授の居酒屋談義という色合いの著作です。目次第1章 「バカの壁」とは何か第2章 脳の中の係数第3章 「個性を伸ばせ」という欺瞞第4章 万物流転、情報不変第5章 無意識・身体・共同体第6章 バカの脳第7章 教育の怪しさ第8章 一元論を超えて第1章 「バカの壁」とは何か第一章では本作のタイトルでもある「バカの壁」について、ある夫婦の妊娠から出産までを追ったドキュメンタリーを見せたときの男子学生と女子学生の反応の違いを...
☆☆☆☆(教養書)

「健康的で清潔で、道徳的な秩序ある社会の不自由さについて」熊代亨 評価:4点|無菌ゆえに息苦しい社会に適応することの困難【社会学】

精神科医ブロガーである熊代亨氏による現代社会評論。非常に個性的で長いタイトルは、令和時代を覆う雰囲気への違和感を言語化するという本書の試みを見事に表現していると言えるだろう。令和時代の、清潔で健康で道徳的な秩序にすっかり慣れた私たちから見て、高度経済成長期の日本社会はおよそ我慢できるものではなかったはずである。本書の「はじめに」に記載されている文章であるが、高度経済成長期まで遡らずとも、最近の社会が妙に潔癖であると感じている人は少なくないと思う。街は異様なほど綺麗になり、痰を吐いたり立小便をしたりする人はいない。浮浪者のような恰好をした人物を見かけることもいよいよ稀になってきた。人々はどこまでも整然と歩き、公的な空間では異様なくらい静かであることに努めていて、喧嘩や体罰、ハラスメントのようなカジュアルな暴力は滅びつつある。どんな店に入っても店員の態度は概ね良好で、横柄な接客という概念も姿を消し始めた。かつてに比べ、あらゆるコミュニケーションが丁寧になっている。良い世の中になりつつある傾向じゃないか。そう思う人もいるだろう。というか、そう思わない人の存在を想像できない人だって少なくないだ...
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ドラゴン桜

「ドラゴン桜2」三田紀房 評価:3点|丸くなって復活した現代風教育漫画【青年漫画】

2007年に完結した「ドラゴン桜」の続編。人気ドラマとなった前作に続き、本作もドラマ化されております。低偏差値の高校生を画期的な方法で東大合格に導いていくカタルシスが絶妙だった前作とは違い、本作で東大を受験する生徒たちは偏差値50前後のいわば中偏差値な高校生たち。しかも、東大合格に導く手法もアプリの活用であるなど「現代風」に媚びてしまっているのがやや破壊力不足に感じました。普通の高校生が一年間頑張れば東大に合格することができる、をコンセプトにしているようですが、設定が丸くなったぶん展開も丸くなり、常識破りの方法で驚かせると言うよりも、現代の常識を伝える漫画になってしまっています。それゆえ、やや漫画としての面白さには欠けると思ってしまった次第です。ただ、現代における教育についての啓蒙漫画としてはそれなりによく出来ており、特に家庭教育についての助言や「勉強」の先にあるもの、現代社会を生きるうえで必要な「勉強」以外のスキルについての言及は示唆的であると思います。(14巻までを読んだ感想です)あらすじ桜木,さくらぎ健二けんじの活躍により落ちこぼれ高校から進学校へと生まれ変わった龍山高校。しかし...
☆☆☆(教養書)

「教養としての大学受験国語」石原千秋 評価:3点|論説文から読み解く近現代社会【国文学教養書】

2000年に筑摩書房から発売された新書で、著者は早稲田大学教授の石原千秋氏。「この本は、大学受験国語の参考書の形をとった教養書である」本書冒頭の言葉であり、本書の性質をよく表現した文章となっている。テーマごとに2つずつの論説文の過去問が紹介され、著者が解説しながら解いていくという形式で本書は進行していくという構成。精選された論説文と、その解説の中で表現される「近現代社会というものを国文学者たちはどのように考えているのか」という思考枠組みが本書の核心となっている点が面白いところ。つまり、近現代社会を分析する視点がなければ大学受験国語を解くことはできないため、大学受験国語の参考書は必然的に近現代社会分析の解説になる、というわけである。本記事では本書の教養書としての側面を重視し、紹介されている論説文の中から印象に残ったものを取り上げて感想を述べていく。目次序章 たった一つの方法第一章 世界を覆うシステムー近代第二章 あれかこれかー二元論第三章 視線の戯れー自己第四章 鑑だけが知っているー身体第五章 彼らには自分の顔が見えないー大衆第六章 その価値は誰が決めるのかー情報第七章 引き裂かれた言葉...
雑記特集

【現代社会】おすすめ現代社会評論3選【雑記まとめ】

傾奇者の時代に想う殿下は特別な人間なのですよ古典芸能の正統後継者たちおすすめ社会学本ランキング当ブログを訪問頂きありがとうございます応援クリックお願いします!
社会問題

【現代社会】コロナ禍における大企業・自治体間における従業員の貸し借りについて

コロナウイルスが流行し始めて以降、大企業間及び大企業・自治体間で社員の貸し借りが行われています。ググれば膨大なソースが出てきますので記事引用等は省きますが、製造業のあいだで工員の貸し借りをしたり、航空会社から地方自治体にCAを出向させることが多いようです。何故このようなことをするのでしょうか。一方では人手が余っており、一方では人手が不足しているから、というのは尤もらしい理屈です。しかし、人手不足側は他企業から人を借りずとも、新規に独自採用する手もあるはず。その手を使わない理由は以下の3点にあるのでしょう。コロナが落ち着くと同時にお互いの需給が戻る社会的批難を受けづらい社会人としての「しきたり」を身につけている①コロナが落ち着くと同時に需給が戻る貸す側も借りる側も、コロナウイルス流行の影響で一時的に人員過剰/不足が起こっているということを理解しています。ということは、コロナ収束と同時にその過剰/不足は解消されると予想されます。再び人員が必要/不要になったタイミングで、つまり、お互いにとって最も都合の良いタイミングで労働力を回収/返品できることが確実なため「コロナの影響によって」人員過剰/...
ピックアップ

「ピックアップ」真鍋昌平・福田博一 評価:3点|ナンパを通じて描かれる青年の成長と男同士の友情。現代社会特有の歪な男女関係を添えて【青春漫画】

「ナンパ」を題材とした全2巻の短編漫画。「闇金ウシジマくん」の作者として有名な真鍋昌平さんが原作を務めております。とはいえ、チャラいナンパ師がコリドー街や江ノ島で女性を「ピックアップ」してはセックスする様子を描いた漫画、というわけではありません。主人公はいかにも「陰キャ」な新卒社会人であり、そのバディとなるのがデキる先輩という構図。この先輩が主催する「魁ナンパ塾」に主人公が入塾し、様々なナンパ術を学びながら社会を生きる「漢」としての技量を高め、仕事でも成功していくというサクセスストーリーです。へたれ主人公が「師」の導きで成長し、強さを身に着けながら自立して一人前になっていく。そんな少年漫画を彷彿とさせる大枠ながら、自由恋愛と「男女平等」が隅々にまで行き渡った現代社会の闇を何でもないことのように描くことで却って生々しく表現しているという面白い作品。都市部で生きる若手社会人なら共感できること請け合いでしょう。あらすじ主人公の南波みなみ春海はるうみは都内の出版社に勤める新卒社会人。配属希望はマンガアプリの開発部門だったが、実際に配属されたのは女性誌の編集部。当然ながら、おしゃれ感が振りまかれ...
社会問題

差別をテーマにしたNIKEのCMがなぜ放映されたのかを考える【メディア論】

NIKEといえばスポーツ関連製品やスニーカーで有名なグローバル企業ですが、2020年の11月末、NIKEが製作した自社製品のコマーシャル映像がSNSで話題となりました。YouTubeでも公開されておりますので、リンクを貼っておきます。ご覧の通り、CMのテーマは「差別(に立ち向かって自分らしく生きる)」であり、在日韓国・朝鮮人や黒人、あるいは女性全体に対する、とりわけ日本における差別が少女たちの視点を通じて表現されています。「差別」は様々な意味で世論を二分する繊細なテーマであり、SNS上でも「マイノリティに対する差別を告発し、それに立ち向かう勇気を貰える良いCMだ」のような書き込みもあれば「まるで日本に不合理な差別があるかのような表現であり、NIKEは嘘を放映している」「(マイノリティを過度に優遇する)逆差別のほうが酷いのに」のような書き込みもあり、論争の種になっておりました。本稿では、このCMが日本における差別の実態を反映しているか否か、あるいは、このCMが道徳的・倫理的に正しいか否には立ち入りません。その代わり、なぜ、いまこのタイミングで、どのようなプロセスを経てこのCMが放映される...
教養書特集

【社会学】おすすめ社会学本ランキングベスト5【オールタイムベスト】

本ブログで紹介した社会学系の書籍からベスト5を選んで掲載しています。私の好みもあり、「社会経済学」的な本が中心となっております。第5位 「コラプション なぜ汚職は起こるのか」レイ・フィスマン経済学者であるフィスマン教授と政治学者であるゴールデン教授が「汚職」について共同で著した本になっております。「汚職」の発生を一種の均衡として捉え、元々「汚職」の少ない地域では「汚職」が起こりずらく、「汚職」の多い地域ではますます「汚職」蔓延るインセンティブが存在するという前提を下地に、低汚職国と高汚職国の特徴や、「汚職」の高低を左右する条件などが明らかにされていきます。経済的に豊かではない国でも低汚職国と高汚職国に別れるのだという指摘や、政治制度はあまり汚職の蔓延と相関関係がないという分析、高汚職から低汚職に移行するためにはどのような社会的条件が必要なのかといった点が興味深く、珍しい題材だけに「汚職」に関しては鉄板の一冊なのではないかと思います。「汚職」というテーマに興味がある方は是非、手に取って頂きたい書籍です。・感想記事はこちら
社会学・歴史・スポーツ

「ブルシット・ジョブ」デヴィッド・クレーバー 評価:3点|無意味な仕事ばかりが増大していく背景を社会学的に分析 【社会学】

イェール大学准教授やロンドン大学教授を歴任した社会人類学者、デヴィッド・グレーバー氏の著書。社会人類学者としてはもちろん左派アナキストの活動家としても知られている人物であり、“Occupy Wall Street ”[ウォール街を占拠せよ](※)運動でも主導的な役割を果たしたことで一躍有名になりました。※リーマンショックの直後、金融機関の救済にのみ奔走し、若者の高い失業率等に対して有効な対策を打てなかったアメリカ政府に対する抗議運動。本書の他にも「負債論──貨幣と暴力の5000年」や「官僚制のユートピア──テクノロジー、構造的愚かさ、リベラリズムの鉄則」といった著作があり、刺激的な理論を通じてアカデミズムと現実社会を積極的に繋ごうとしていた学者でもあります。そんなグレーバー教授が2018年に著したのが、本作「ブルシット・ジョブ クソどうでもいい仕事の理論」。原題は“Bullshit Jobs”のみですが、邦題では「クソどうでもいい仕事の理論」という副題が付されています。さて、この「クソどうでもいい仕事」ですが、事務職の労働者であれば誰もがピンとくる一節なのではないでしょうか。あまりにも...
☆☆☆(漫画)

漫画 「聲の形」 大今良時 星3つ

1. 聲の形2013年から2014年にかけて週刊少年マガジンで連載されていた作品。小学校における聴覚障がい者への苛烈ないじめ描写から一時は読み切りすら掲載見送りとなりかけたものの、日本ろうあ協会の許可を経て読み切り掲載に漕ぎつけ、それが大反響を生んで連載へと辿り着いた作品となっています。さらに、2016年に京都アニメーションによって製作されたアニメ映画が大ヒットし、本作のさらなる躍進に結びつきます。全七巻の社会派漫画としては異例の総発行部数300万部超となり、漫画史にその名前を残す作品となりました。アニメ映画版は本ブログでレビュー済みです。個人的にも、いじめた側といじめられた側の再生物語として良作だと感じました。少年漫画の王道展開を敢えて避け、世の中の都合よくいかない側面、人間の嫌な部分を描き出そうとしている側面も高評価です。2. あらすじ主人公の石田将也(いしだ しょうや)は小学六年生。親友の島田一旗(しまだ かずき)や広瀬啓祐(ひろせ けいすけ)と一緒に悪ふざけをして過ごすことで活発な小学校生活を送っていた。しかし、小学六年生というのはそんな「子供っぽいこと」から離れていく時期でも...
社会学・歴史・スポーツ

「日本社会のしくみ」小熊英二 評価:3点|終身雇用制と職能給という雇用慣行が生まれた背景を探求する【社会学】

あとがき・参考文献一覧含めると600ページにも及ぶ新書として一部界隈で有名になった作品で、定価も税別1300円と新書らしからぬ値段です。しかしながら、それに値する中身も備わっておりました。著者は慶応大学総合政策学部教授の小熊さん。本ブログでは若き日の傑作「単一民族神話の起源」をレビュー済みです。「単一民族神話」からはうって変わって「日本の雇用慣行」がテーマの本作。しかし、ステレオタイプを退け、データや具体例をもとに社会の構造や傾向を解き明かしていこうとする姿勢は変わっておりません。より現代的なテーマになり、新書という枠組みで著すにふさわしい時機を捉えた作品になっていると感じました。目次序章第1章 日本社会の「三つの生き方」第2章 日本の働き方第3章 歴史の働き第4章 「日本型雇用」の起源第5章 慣行の形成第6章 民主化と「社員の平等」第7章 高度成長と「学歴」第8章 「一億総中流」から「新たな二重構造」へ終章 「社会のしくみ」と「正義」のありか感想「日本社会のしくみ」という極めて大きく出たタイトルですが、本書で語られるのは雇用慣行の形成と変遷が中心。それではなぜタイトルが「日本の雇用慣...
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