中勘助

小説 「銀の匙」 中勘助 星2つ

1. 銀の匙 大正から昭和にかけて活躍した小説家、中勘助の代表作です。夏目漱石が本書を絶賛して東京朝日新聞への連載が決まったことから中勘助は小説家として見出されていきました。また、灘中学校において橋本武先生が三年間の国語の授業を本作精読に使っていたという、伝説の授業に関連する書籍としても名前を知られています。 2. あらすじ 主人公である「私」は時々、書斎の棚から小さな銀の匙を取り出して眺める。それは虚弱体質だった「私」に薬を飲ませるために伯母が探してくれた特別な匙だった。 痩せぎすでぼんやりとした子供だった「私」。療養のため引っ越した小石川でもその引っ込み思案は続いていたが、伯母の紹介でお国さんという女の子と遊ぶようになる。お国さんと遊ぶうちに積極性が出てきた「私」だったが、学校へ入学する年齢になると「どうしても学校には行かない」と駄々をこねるようになり......。 3. 感想 夏目漱石の絶賛や橋本先生の言葉に違わず、美しい日本語によって書かれているというのは納得できましたし、その濃やかさがひたひたと心に染みわたるような感覚になったのは...
湯神くんには友達がいない

漫画 「湯神くんには友達がいない」 佐倉準 星3つ

1. 湯神くんには友達がいない 2013年から「週刊少年サンデー」で連載されていた作品で、今年(2019年)の7月に最終巻が発売され完結となりました。連載中にアニメ化がされることもなく、超有名作とは言い難いですが、月イチ連載とはいえ週刊誌掲載をやり切って円満完結(おそらく)した作品ということもあり内容はなかなか充実しておりました。 分類としてはコメディ(ギャグ)漫画であり、実際なかなか笑わせてくれるのですが、安易に俗っぽい笑いを取りに来るのではなく、人間心理の深いところを探求し、それをユーモラスに表現しているのが本作独自の魅力になっています。高校生あるあるを交えながら、ときに寂しさや切なさ、やりきれなさといった感情を絶妙に表出させることでほろっとくるような展開もあるという作品で、まさに現代版人情コメディという呼び名が相応しいのではないでしょうか。メタ表現や特定クラスタのネタに頼らず、万民向けの普遍的な笑いと感動を追求している作品です。 2. あらすじ 高校二年生の綿貫ちひろ(わたぬき ちひろ)は転勤族の父を持ち、これまでも転校を繰り返してきた。しかし...
☆☆☆(新書・教養書)

教養書 「単一民族神話の起源」 小熊英二 星3つ その2

1. 単一民族神話の起源 その2 「日本人は1つの民族を起源としている」「日本人は全員、大和民族の末裔である」「 日本人は農耕民族」「日本人気質」「島国根性」「統一性が高い」。 日常生活のから政治の場まで、いたるところで耳にする、ある種の「日本人単一民族」論。 厳密な意味であれ比喩的な意味であれ、日本人が単一の属性を持っている、もしくは、単一の民族から構成されているという言説や意識はどこから来るのか。 明治時代から遡り、その起源を明らかにする「単一民族神話の起源」の感想その2です。 前稿である「その1」はこちら。 「その1」では「第一部 『開国』の思想 」について記述しましたので、本稿では「第二部 『帝国』の思想 」及び「 第三部 「島国」の思想」 を取り上げます。 2. 目次 第一部 「開国」の思想第二部 「帝国」の思想第三部 「島国」の思想 3. 感想 第二部では、日本が「帝国化」していく中で唱えられた様々な民族論が紹介されます。 まず最初に紹介されるのは、歴史家である嘉田貞吉の取り組...
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☆☆☆(新書・教養書)

教養書 「単一民族神話の起源」 小熊英二 星3つ その1

1. 単一民族神話の起源 その1 「日本人は1つの民族を起源としている」「日本人は全員、大和民族の末裔である」。政治に関心のある人ならば、そんな言説をどこかで耳にしたことがあるかもしれません。 あるいは、「日本人は農耕民族」「日本人気質」「島国根性」「統一性が高い」くらいならば政治に関係のない(と言うと政治に関心の高い人からは怒られるかもしれませんが)日常生活の中でも一度は聞いたことがあるに違いありません。 しかしながら、 厳密な意味であれ比喩的な意味であれ、日本人が単一の属性を持っている、もしくは、単一の民族から構成されているという言説や意識はどこから来ているのでしょうか。 よくよく考えるまでもないことですが、人類の祖先はアフリカのとある地域から世界各地へ広がったのですし、定住が始まって以降も世界との様々な交流の中で人類の混血は進んでいて、何がしかの意味で日本人(その定義自体も微妙ですが)の起源が特別に単一であるということはないでしょう。それでも、私たちの日常生活には広く「単一民族意識」的なものが敷衍しています。 「民族」という言葉はそれこそ定義...
天気の子

アニメ映画 「天気の子」 監督: 新海誠 星3つ

1. 天気の子 「君の名は。」で記録的な大ヒットを獲得し、アニメーション映画監督としての名声を一気に高めた新海誠監督3年ぶりの新作。今月(2019年7月)に封切られたばかりの作品ですが、既に「君の名は。」を超える速度で興行収入を伸ばしているという情報まであるほどで、映画ファンの新海誠監督に対する期待の高さが伺えるところです。凡庸な少年と天気を自在に操ることのできる少女のボーイ・ミーツ・ガール物語という触れ込みでしたが、公開初日に大雨からの晴れという天気が実際に起こったりと、まさに日本の現在の(異常)気象とマッチした点でも天命に恵まれた作品になっております。 当ブログでも「君の名は。」については2回ほど記事にしており、もちろん、本作「天気の子」についても公開を楽しみにしておりました。 また、同監督の作品では2013年公開の「言の葉の庭」も記事にしています。 そんな「天気の子」ですが、感想としてはストーリーが中の上、キャラクターは中の中から中の下といったところでしょうか。ただ、演出やテンポといった面では優れていたほか、要素要素を...
武田綾乃

小説 「その日、朱音は空を飛んだ」 武田綾乃 星1つ

1. その日、朱音は空を飛んだ 大学在学中に「今日、きみと息をする」で日本ラブストーリー大賞の「隠し玉」を射止め、大学生で小説家デビューを果たした武田綾乃さんの作品。本作で吉川英治文学新人賞の候補になるなど、新進気鋭の若手作家として注目を集めております。 代表作はなんといっても「響け!ユーフォニアム」シリーズでありまして、本ブログでも何度か取り上げてきました。 そんな「響け!ユーフォニアム」シリーズの合間に出版された本作ですが、全体としては非現実感やあまりの極端さが強く前面に出てしまっていてイマイチだったという感想。確かに、極端に個性的なキャラクターを出せば突飛な行動を起こしてくれるの物語に起伏はつきますが、そこに読者として感情移入しスリルを感じられるかといえば難しいところ。変わった性格のいかにもフィクション的登場人物が変わったことをするだけの話であり、小説としての技巧や物語から受ける驚きは薄いものでした。 2. あらすじ 舞台はとある進学校、ある日、 2年生の川崎朱音(かわさき あかね)が屋上から飛び降りて自殺してしまう。 何...
ゴールデンライラック

漫画 「ゴールデンライラック」 萩尾望都 星2つ

1. ゴールデンライラック 本ブログでも既に2作品を紹介している萩尾望都さんの作品。往年の少女漫画家らしい、近世ヨーロッパを舞台にした恋物語です。萩尾さんの中では有名な作品ではありませんが、文学作品のような味わいや構成にはやはり萩尾さんらしさがあります。紹介済みの2作品は以下の通り。 本作の評価は「トーマの心臓」より下、「ポーの一族」よりは上、本ブログで「普通」を表す星2つとします。ひねりが少なく、良い意味では定番・王道という印象、悪い意味ではやや退屈という印象を受けました。 2. あらすじ 両親を亡くし、親戚中をたらい回しにされていたビリー・バン。そんなビリーを引き取ったのは裕福なスタンレィ家。そこでビリーが出会った少女こそヴィクトリアであり、ヴィクトリアはビリーの初恋の人になる。 もらわれ子であるものの幸福に過ごしていたビリーだったが、ある日、ヴィクトリアの父が倒れ、運営する銀行が倒産したことを機に生活は一変する。一家は小さなアパートに移り住み、ビリーとヴィクトリアは幼くして働きに出なければならなくなってしまったのだ...
きみと、波にのれたら

アニメ映画 「きみと、波にのれたら」 監督: 湯浅政明 星2つ

1. きみと、波にのれたら 今月(2019年6月)公開されたばかりのアニメ映画で、監督は湯浅政明。初期の「クレヨンしんちゃん」や「ちびまる子ちゃん」における特徴的な作画で知られ、近年はアニメ映画の監督として精力的に作品を発表しています。当ブログでも「夜は短し歩けよ乙女」と「夜明け告げるルーの歌」の記事を書いています。 ヒーロー及びヒロインの声優にGENERATIONS from EXILE TRIBEの片寄涼太と元AKB48の川栄李奈を起用し、湯浅監督としては珍しいストレートな恋愛ものという触れ込みだった本作。ストーリーは凡庸で、台詞回しとファンタジー設定はちょっと無茶という印象を受けました。 2. あらすじ 大学入学を機に引っ越した向水ひな子(むかいみず ひなこ)。サーフィンが大好きで、マンションも海の見える場所を選んでいた。しかし、引っ越し早々、マンションは火事に遭ってしまう。 迫る火の手から命からがら屋上へと向かったひな子を救ったのが消防士の雛罌粟港(ひなげし みなと)。惹かれ合い、恋人なった二人だが、ある日、港は海...
経済・金融・経営・会計・統計

新書 「平成の通信簿」 吉野太喜 星2つ その4

1. 平成の通信簿 その4 「語り」ではなくデータをもとに平成時代を振り返り、日本を取り巻く事情につき数値でその変遷を示そうという本書。本記事はその感想の「その4」になります。「その3」はこちら。 「その4」で取り上げるのは第4章、「身体・健康から見る30年」。高齢化、医療費、体格及び身体能力、そして死に方といった、成熟社会・高齢化社会で課題となっている諸事項が取り上げられています。 2. 目次 1. 世界の中の日本2. 経済・労働からみる30年3. 家計・暮らしから見る30年4. 身体・健康から見る30年 3. 感想:身体・健康からみる30年 第4章で紹介されるデータのうち、今回取り上げるのは「24. 高齢化」「25. 医療費」「26 身体」「27. 死」になります。 逼迫している一方で繊細な問題のため、普段は目をつぶりがちな日本の課題。それがデータとして赤裸々に表れている章になっています。 「24. 高齢化」と「25. 医療費」では、平成年間における寿命と高齢化率の伸長度合い、そして増え続ける医療費...
経済・金融・経営・会計・統計

新書 「平成の通信簿」 吉野太喜 星2つ その3

1. 平成の通信簿 その3 「語り」ではなくデータをもとに平成時代を振り返り、日本を取り巻く事情につき数値でその変遷を示そうという本書。本記事はその感想の「その3」になります。「その2」はこちら。 「その3」で取り上げるのは第3章、「家計・暮らしから見る30年」。消費、教育、観光といったお金の使い方や、会議の長さ、メディアの視聴時間といった時間の使い方、そして貧困という家計の苦難が取り上げられています。 2. 目次 1. 世界の中の日本2. 経済・労働からみる30年3. 家計・暮らしから見る30年4. 身体・健康から見る30年 3. 感想:家計・暮らしからみる30年 第3章で紹介されるデータのうち、今回取り上げるのは「18. 教育」「21. 先進国の貧困」「23 メディア」になります。 また、「17 消費」にも必要に応じて言及いたします。 「家計・暮らしから見る30年 」というタイトルの通り、私たちの幸福に直結し、最も身近に感じる分野の統計ですから、示されるデータの生々しさが目立ちます。1日1日の変化をあまり感じない部分...
経済・金融・経営・会計・統計

新書 「平成の通信簿」 吉野太喜 星2つ その2

1. 平成の通信簿 その2 「語り」ではなくデータをもとに平成時代を振り返り、日本を取り巻く事情につき数値でその変遷を示そうという本書。本記事はその感想の「その2」になります。「その1」はこちら。 「その2」で取り上げるのは第2章、「経済・労働から見る30年」。国際収支の推移や様々な産業の興亡、近年注目の労働生産性などが取り上げられています。 2. 目次 1. 世界の中の日本2. 経済・労働からみる30年3. 家計・暮らしから見る30年4. 身体・健康から見る30年 3. 感想:経済・労働からみる30年 第2章で紹介されるデータのうち、今回取り上げるのは「10. 国際収支」「12 農業」「13 漁業」になります。 世の中(特に年配方々)には製造業のパフォーマンスだけを見て日本の「国力」を測ろうとする風潮があり、日常のニュースやインターネットの論調なんかも製造業中心の説明になりがちですが、それだけに、製造業以外に焦点を当てたこれらのデータからは平成日本を振り返るための興味深い示唆が得られます。 「10. 国際収支」 では、...
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