武田綾乃

小説 「その日、朱音は空を飛んだ」 武田綾乃 星1つ

1. その日、朱音は空を飛んだ 大学在学中に「今日、きみと息をする」で日本ラブストーリー大賞の「隠し玉」を射止め、大学生で小説家デビューを果たした武田綾乃さんの作品。本作で吉川英治文学新人賞の候補になるなど、新進気鋭の若手作家として注目を集めております。 代表作はなんといっても「響け!ユーフォニアム」シリーズでありまして、本ブログでも何度か取り上げてきました。 そんな「響け!ユーフォニアム」シリーズの合間に出版された本作ですが、全体としては非現実感やあまりの極端さが強く前面に出てしまっていてイマイチだったという感想。確かに、極端に個性的なキャラクターを出せば突飛な行動を起こしてくれるの物語に起伏はつきますが、そこに読者として感情移入しスリルを感じられるかといえば難しいところ。変わった性格のいかにもフィクション的登場人物が変わったことをするだけの話であり、小説としての技巧や物語から受ける驚きは薄いものでした。 2. あらすじ 舞台はとある進学校、ある日、 2年生の川崎朱音(かわさき あかね)が屋上から飛び降りて自殺してしまう。 何...
ゴールデンライラック

漫画 「ゴールデンライラック」 萩尾望都 星2つ

1. ゴールデンライラック 本ブログでも既に2作品を紹介している萩尾望都さんの作品。往年の少女漫画家らしい、近世ヨーロッパを舞台にした恋物語です。萩尾さんの中では有名な作品ではありませんが、文学作品のような味わいや構成にはやはり萩尾さんらしさがあります。紹介済みの2作品は以下の通り。 本作の評価は「トーマの心臓」より下、「ポーの一族」よりは上、本ブログで「普通」を表す星2つとします。ひねりが少なく、良い意味では定番・王道という印象、悪い意味ではやや退屈という印象を受けました。 2. あらすじ 両親を亡くし、親戚中をたらい回しにされていたビリー・バン。そんなビリーを引き取ったのは裕福なスタンレィ家。そこでビリーが出会った少女こそヴィクトリアであり、ヴィクトリアはビリーの初恋の人になる。 もらわれ子であるものの幸福に過ごしていたビリーだったが、ある日、ヴィクトリアの父が倒れ、運営する銀行が倒産したことを機に生活は一変する。一家は小さなアパートに移り住み、ビリーとヴィクトリアは幼くして働きに出なければならなくなってしまったのだ...
きみと、波にのれたら

アニメ映画 「きみと、波にのれたら」 監督: 湯浅政明 星2つ

1. きみと、波にのれたら 今月(2019年6月)公開されたばかりのアニメ映画で、監督は湯浅政明。初期の「クレヨンしんちゃん」や「ちびまる子ちゃん」における特徴的な作画で知られ、近年はアニメ映画の監督として精力的に作品を発表しています。当ブログでも「夜は短し歩けよ乙女」と「夜明け告げるルーの歌」の記事を書いています。 ヒーロー及びヒロインの声優にGENERATIONS from EXILE TRIBEの片寄涼太と元AKB48の川栄李奈を起用し、湯浅監督としては珍しいストレートな恋愛ものという触れ込みだった本作。ストーリーは凡庸で、台詞回しとファンタジー設定はちょっと無茶という印象を受けました。 2. あらすじ 大学入学を機に引っ越した向水ひな子(むかいみず ひなこ)。サーフィンが大好きで、マンションも海の見える場所を選んでいた。しかし、引っ越し早々、マンションは火事に遭ってしまう。 迫る火の手から命からがら屋上へと向かったひな子を救ったのが消防士の雛罌粟港(ひなげし みなと)。惹かれ合い、恋人なった二人だが、ある日、港は海...
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経済・金融・経営・会計・統計

新書 「平成の通信簿」 吉野太喜 星2つ その4

1. 平成の通信簿 その4 「語り」ではなくデータをもとに平成時代を振り返り、日本を取り巻く事情につき数値でその変遷を示そうという本書。本記事はその感想の「その4」になります。「その3」はこちら。 「その4」で取り上げるのは第4章、「身体・健康から見る30年」。高齢化、医療費、体格及び身体能力、そして死に方といった、成熟社会・高齢化社会で課題となっている諸事項が取り上げられています。 2. 目次 1. 世界の中の日本2. 経済・労働からみる30年3. 家計・暮らしから見る30年4. 身体・健康から見る30年 3. 感想:身体・健康からみる30年 第4章で紹介されるデータのうち、今回取り上げるのは「24. 高齢化」「25. 医療費」「26 身体」「27. 死」になります。 逼迫している一方で繊細な問題のため、普段は目をつぶりがちな日本の課題。それがデータとして赤裸々に表れている章になっています。 「24. 高齢化」と「25. 医療費」では、平成年間における寿命と高齢化率の伸長度合い、そして増え続ける医療費...
経済・金融・経営・会計・統計

新書 「平成の通信簿」 吉野太喜 星2つ その3

1. 平成の通信簿 その3 「語り」ではなくデータをもとに平成時代を振り返り、日本を取り巻く事情につき数値でその変遷を示そうという本書。本記事はその感想の「その3」になります。「その2」はこちら。 「その3」で取り上げるのは第3章、「家計・暮らしから見る30年」。消費、教育、観光といったお金の使い方や、会議の長さ、メディアの視聴時間といった時間の使い方、そして貧困という家計の苦難が取り上げられています。 2. 目次 1. 世界の中の日本2. 経済・労働からみる30年3. 家計・暮らしから見る30年4. 身体・健康から見る30年 3. 感想:家計・暮らしからみる30年 第3章で紹介されるデータのうち、今回取り上げるのは「18. 教育」「21. 先進国の貧困」「23 メディア」になります。 また、「17 消費」にも必要に応じて言及いたします。 「家計・暮らしから見る30年 」というタイトルの通り、私たちの幸福に直結し、最も身近に感じる分野の統計ですから、示されるデータの生々しさが目立ちます。1日1日の変化をあまり感じない部分...
経済・金融・経営・会計・統計

新書 「平成の通信簿」 吉野太喜 星2つ その2

1. 平成の通信簿 その2 「語り」ではなくデータをもとに平成時代を振り返り、日本を取り巻く事情につき数値でその変遷を示そうという本書。本記事はその感想の「その2」になります。「その1」はこちら。 「その2」で取り上げるのは第2章、「経済・労働から見る30年」。国際収支の推移や様々な産業の興亡、近年注目の労働生産性などが取り上げられています。 2. 目次 1. 世界の中の日本2. 経済・労働からみる30年3. 家計・暮らしから見る30年4. 身体・健康から見る30年 3. 感想:経済・労働からみる30年 第2章で紹介されるデータのうち、今回取り上げるのは「10. 国際収支」「12 農業」「13 漁業」になります。 世の中(特に年配方々)には製造業のパフォーマンスだけを見て日本の「国力」を測ろうとする風潮があり、日常のニュースやインターネットの論調なんかも製造業中心の説明になりがちですが、それだけに、製造業以外に焦点を当てたこれらのデータからは平成日本を振り返るための興味深い示唆が得られます。 「10. 国際収支」 では、...
経済・金融・経営・会計・統計

新書 「平成の通信簿」 吉野太喜 星2つ その1

1. 平成の通信簿 その1 元号が平成から令和に変わり、様々な「平成総括本」は出版されている今日。本書もそのバリエーションの一つですが、「識者が平成を語る」という形式ではなく、様々なデータをもとに平成という時代において日本がどう変化したのかを数値で見ようという変わり種。最近のベストセラーの一つである「FACTFULNESS」を意識していると著者自身が本書の中で著している通り、二重の意味で流行を追った本です。 感想としては、面白いが薄いといったところでしょうか。なるほど、平成元年から今までというとちょうどバブル崩壊直前からの移り変わりが示されていてなかなか鮮烈なものが多くなります。普通の本でそんなことをすれば恣意的な切り取りとされるのでしょうが、あくまで平成振り返り本ならばそれで正しいわけです。高度経済成長を経験したことで「強い日本」の幻想をいまでも持っている人々や、逆にバブル崩壊以降に生まれて「化け物じみ(ているように見え)た日本」を知らない世代にはいい刺激になるスコープなのだと思います。 ただ、普段から社会問題に興味がある人ならば、見たことがあったり直感通りのデー...
トマス・H・クック

小説 「夏草の記憶」 トマス・H・クック 星2つ

1. 夏草の記憶 日本では「記憶」三部作で有名なアメリカのミステリー作家、トマス・H・クック。「緋色の記憶(原題:The Chatham School Affair)」でエドガー賞を獲得し、アメリカでも一定の評価を得ています。本作「夏草の記憶(原題:Breakheart Hill)」も日本では記憶三部作として売り出された三作品の一角で(原題を見ての通り作品間には何の関連もないのですが、プロモーションのため強引な訳出がされています)、いわゆるジュブナイル的青春ミステリのような要素があるため、令和に入ったいま読んでも流行を狙ったのかと思うくらい日本に馴染む作品だと個人的には感じています。もちろんミステリ要素も評価されておりまして、2000年の「このミステリーがすごい! 海外編」では3位に入っています。 さて、そんな「夏草の記憶」ですが、個人的には「普通」だなというのが感想です。決定的な悪い点はなく、良い点は微妙にありまして、☆3つと☆2つで迷ったのですが、ある種ベタすぎる、という部分を欠点と捉えて良い点と相殺し、☆2つに落ち着きました。 2. あらすじ 舞...
アナと雪の女王

アニメ映画 「アナと雪の女王」 監督: クリス・バック 星4つ

1. アナと雪の女王 2013年に公開されたディズニー映画で、世界中で大ヒットした超有名作です。日本でも興行収入歴代3位となる255億円を記録しており、2019年現在でさえ本映画の名前も知らないという人の方が少ないでしょう。 松たか子さんが歌った劇中歌の"Let it go"(の日本語訳版)もブームになりました。 私は今更ながら初視聴してみたのですが、やはり評判に違わずいい映画だったというのが正直な感想。シンプルに「愛」や「勇気」についての物語として観ても面白いですし、これまでのディズニー、あるいは旧い社会の固定観念を振り払うためのメタ社会的な物語としても深みがあります。表面をさらっても楽しむことができ、それでいて真理や深遠さも備えている。そんな作品の一つです。 2. あらすじ 舞台はアレンデール王国、主人公は二人の王女アナとエルサ。姉であるエルサは幼少の頃から氷の魔法に長け、その魔法を使ってアナと一緒に遊ぶことも多かった。しかしある日、エルサは誤って氷の魔法をアナに命中させてしまい、アナは意識不明の重体となってしまう。 二人の両親はトロールに助...
SHIROBAKO

漫画 「SHIROBAKO ~上山高校アニメーション同好会~」 ミズタマ 星3つ

1. SHIROBAKO ~上山高校アニメーション同好会~ 屈指の名アニメとして本ブログでも複数回取り上げた「SHIROBAKO」。主人公格5人の高校時代を描いた、いわば「第0話」として発売されているのが本作。アニメ版を視聴していることを前提として話が進むファングッズなのですが、それに留まらない「物語」としてのクオリティがあります。アニメ版と同様でもすが、特に「ピンチ」の演出が実に上手いですね。 アニメ版の感想は以下の通りです。 2. あらすじ 舞台は山形県にある県立上山高校。この平凡な高校で、3年生の安原絵麻(やすはら えま)は悩んでいた。アニメが好きで、絵を描くことが好きな絵麻だったが、他人に自分の作品を見られることが怖く、自分に自信が持てずにいた。 そんな中、体育祭用にクラスの応援幕を描いた絵麻。体育祭当日に絵麻に話しかけ、その出来を褒めたのが同じく3年生の宮森あおい(みやもり あおい)。同じくアニメ好きである彼女は、アニメーション制作を絵麻に提案する。仲間を集めてアニメーション同好会を発足...
加納朋子

小説 「少年少女飛行倶楽部」 加納朋子 星1つ

1. 少年少女飛行倶楽部 「日常の謎」を描いたミステリーで定評のある加納さんですが、本作は珍しくミステリー要素なし。あとがきでも「底抜けに明るい、青春物語が書きたくなりました」とあるように、中学生の爽やかな青春譚という雰囲気です。 感想としては、全体的に軽すぎるかなという印象。変わり者の集まった部活である「飛行クラブ」の活動を描いた物語なのですが、登場人物が意味もなく非現実的でいかにも「作り物」感があります。問題の解決方法も軽々しく、どこで心を動かされればよいのだろうかと思ってしまいました。 2. あらすじ 中学一年生になった海月(みづき)、幼馴染の樹絵里(じゅえり)に誘われるがまま入部することになったのは「飛行クラブ」という奇妙な部活。二人以外の部員は部長の斎藤神(さいとう じん)先輩と野球部と兼部の中村海星(なかむら かいせい)先輩だけ。「(飛行機やヘリコプターを使わず、パラシュートなどの「落下」を除いた手段で)飛行すること」を活動内容として掲げているが、実際には何もしていない。部活強制の学校で孤高を貫く神先輩が他の部活に入らないために立ち上げただ...
経済・金融・経営・会計・統計

教養書 「制度・制度変化・経済成果」 ダグラス・C・ノース 星3つ

1. 制度・制度変化・経済成果 1993年のノーベル経済学賞受賞者、ダグラス・C・ノースの著書で、原著は1990年刊行ですから当時の業績を纏めた内容となっております。難解な言い回しも目立ちますが(堅い訳だからかもしれませんが)、「制度」を軸に新古典派経済学に対して大きな影響を与えた現代の古典として面白く読むことができます。 2. 目次 第Ⅰ部 制度第Ⅱ部 制度変化第Ⅲ部 経済成果 3. 感想 本書全体が問いかけることとしてまず出てくるのが、当時隆盛を誇っていた新古典派経済学(の競争と淘汰を強調する部分)に対し、「それではなぜ、『既に競争は終わっていないのか』」という語りかけです。身の回りを見たり、あるいは様々な国の経済体制を知識として学んでみたりすると、決して効率的な制度ばかりがあるわけではなく、むしろ、非効率的な制度が多く残存しているという印象を抱くことが多いのではないでしょうか。 なぜ、競争圧力は非効率的な制度の除去を導かないのか、導くとしても、なぜ素早くないのか。なぜ僅かな経済停滞国しか経済発展国のモデルを見習おうとしないのか。 ...
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