トマス・H・クック

小説 「夏草の記憶」 トマス・H・クック 星2つ

1. 夏草の記憶 日本では「記憶」三部作で有名なアメリカのミステリー作家、トマス・H・クック。「緋色の記憶(原題:The Chatham School Affair)」でエドガー賞を獲得し、アメリカでも一定の評価を得ています。本作「夏草の記憶(原題:Breakheart Hill)」も日本では記憶三部作として売り出された三作品の一角で(原題を見ての通り作品間には何の関連もないのですが、プロモーションのため強引な訳出がされています)、いわゆるジュブナイル的青春ミステリのような要素があるため、令和に入ったいま読んでも流行を狙ったのかと思うくらい日本に馴染む作品だと個人的には感じています。もちろんミステリ要素も評価されておりまして、2000年の「このミステリーがすごい! 海外編」では3位に入っています。 さて、そんな「夏草の記憶」ですが、個人的には「普通」だなというのが感想です。決定的な悪い点はなく、良い点は微妙にありまして、☆3つと☆2つで迷ったのですが、ある種ベタすぎる、という部分を欠点と捉えて良い点と相殺し、☆2つに落ち着きました。 2. あらすじ 舞...
アナと雪の女王

アニメ映画 「アナと雪の女王」 監督: クリス・バック 星4つ

1. アナと雪の女王 2013年に公開されたディズニー映画で、世界中で大ヒットした超有名作です。日本でも興行収入歴代3位となる255億円を記録しており、2019年現在でさえ本映画の名前も知らないという人の方が少ないでしょう。 松たか子さんが歌った劇中歌の"Let it go"(の日本語訳版)もブームになりました。 私は今更ながら初視聴してみたのですが、やはり評判に違わずいい映画だったというのが正直な感想。シンプルに「愛」や「勇気」についての物語として観ても面白いですし、これまでのディズニー、あるいは旧い社会の固定観念を振り払うためのメタ社会的な物語としても深みがあります。表面をさらっても楽しむことができ、それでいて真理や深遠さも備えている。そんな作品の一つです。 2. あらすじ 舞台はアレンデール王国、主人公は二人の王女アナとエルサ。姉であるエルサは幼少の頃から氷の魔法に長け、その魔法を使ってアナと一緒に遊ぶことも多かった。しかしある日、エルサは誤って氷の魔法をアナに命中させてしまい、アナは意識不明の重体となってしまう。 二人の両親はトロールに助...
SHIROBAKO

漫画 「SHIROBAKO ~上山高校アニメーション同好会~」 ミズタマ 星3つ

1. SHIROBAKO ~上山高校アニメーション同好会~ 屈指の名アニメとして本ブログでも複数回取り上げた「SHIROBAKO」。主人公格5人の高校時代を描いた、いわば「第0話」として発売されているのが本作。アニメ版を視聴していることを前提として話が進むファングッズなのですが、それに留まらない「物語」としてのクオリティがあります。アニメ版と同様でもすが、特に「ピンチ」の演出が実に上手いですね。 アニメ版の感想は以下の通りです。 2. あらすじ 舞台は山形県にある県立上山高校。この平凡な高校で、3年生の安原絵麻(やすはら えま)は悩んでいた。アニメが好きで、絵を描くことが好きな絵麻だったが、他人に自分の作品を見られることが怖く、自分に自信が持てずにいた。 そんな中、体育祭用にクラスの応援幕を描いた絵麻。体育祭当日に絵麻に話しかけ、その出来を褒めたのが同じく3年生の宮森あおい(みやもり あおい)。同じくアニメ好きである彼女は、アニメーション制作を絵麻に提案する。仲間を集めてアニメーション同好会を発足...
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加納朋子

小説 「少年少女飛行倶楽部」 加納朋子 星1つ

1. 少年少女飛行倶楽部 「日常の謎」を描いたミステリーで定評のある加納さんですが、本作は珍しくミステリー要素なし。あとがきでも「底抜けに明るい、青春物語が書きたくなりました」とあるように、中学生の爽やかな青春譚という雰囲気です。 感想としては、全体的に軽すぎるかなという印象。変わり者の集まった部活である「飛行クラブ」の活動を描いた物語なのですが、登場人物が意味もなく非現実的でいかにも「作り物」感があります。問題の解決方法も軽々しく、どこで心を動かされればよいのだろうかと思ってしまいました。 2. あらすじ 中学一年生になった海月(みづき)、幼馴染の樹絵里(じゅえり)に誘われるがまま入部することになったのは「飛行クラブ」という奇妙な部活。二人以外の部員は部長の斎藤神(さいとう じん)先輩と野球部と兼部の中村海星(なかむら かいせい)先輩だけ。「(飛行機やヘリコプターを使わず、パラシュートなどの「落下」を除いた手段で)飛行すること」を活動内容として掲げているが、実際には何もしていない。部活強制の学校で孤高を貫く神先輩が他の部活に入らないために立ち上げただ...
経済・金融・経営・会計

教養書 「制度・制度変化・経済成果」 ダグラス・C・ノース 星3つ

1. 制度・制度変化・経済成果 1993年のノーベル経済学賞受賞者、ダグラス・C・ノースの著書で、原著は1990年刊行ですから当時の業績を纏めた内容となっております。難解な言い回しも目立ちますが(堅い訳だからかもしれませんが)、「制度」を軸に新古典派経済学に対して大きな影響を与えた現代の古典として面白く読むことができます。 2. 目次 第Ⅰ部 制度第Ⅱ部 制度変化第Ⅲ部 経済成果 3. 感想 本書全体が問いかけることとしてまず出てくるのが、当時隆盛を誇っていた新古典派経済学(の競争と淘汰を強調する部分)に対し、「それではなぜ、『既に競争は終わっていないのか』」という語りかけです。身の回りを見たり、あるいは様々な国の経済体制を知識として学んでみたりすると、決して効率的な制度ばかりがあるわけではなく、むしろ、非効率的な制度が多く残存しているという印象を抱くことが多いのではないでしょうか。 なぜ、競争圧力は非効率的な制度の除去を導かないのか、導くとしても、なぜ素早くないのか。なぜ僅かな経済停滞国しか経済発展国のモデルを見習おうとしないのか。 ...
響け!ユーフォニアム

アニメ映画 「響け! ユーフォニアム ~誓いのフィナーレ~」 監督: 石原立也 星3つ(後編)

1. 響け!ユーフォニアム ~誓いのフィナーレ~ (後編) 「響け! ユーフォニアム」のアニメシリーズで第3期に相当するアニメ映画になります。本記事はレビューの後編で、前編はこちらです。 充実していた序盤~中盤に比べ、あまりにも駆け足感が強かった終盤の展開。やや残念だったことは否めません。原作小説2冊分を1本の映画にしている弊害なのかもしれませんが、(リズと青い鳥を別立てで製作しているとはいえ)こちらも前後編でやってほしかったなぁと感じてしまいます。特段「悪い」シーンはないのですが、課題もトラブルもなく進行する映像には退屈さがありました。 2. あらすじ 1年生がもたらした波乱も見事解決し、先輩としての主導力を見せた黄前久美子(おうまえ くみこ)。京都府大会も無事突破し、合宿など部活の練習に打ち込むのはもちろんのこと、あがた祭りでの塚本修一(つかもと しゅういち)や高坂麗奈(こうさか れいな)との交流、父親に問いかけられて将来のことに思い悩むなど、部活以外でも様々な経験や葛藤を積み重ねていく。 そして迎えた関西大会、OBOG達が見守る中、北宇...
響け!ユーフォニアム

アニメ映画 「響け! ユーフォニアム ~誓いのフィナーレ~」 監督: 石原立也 星3つ(前編)

1. 響け!ユーフォニアム ~誓いのフィナーレ~ (前編) 同名の小説を原作とするアニメシリーズの第3期に相当する部分ですが、TVシリーズとしてではなくアニメ映画として公開されました。原作の著者は武田綾乃さん、アニメ版は京都アニメーションが手掛けています。原作はともかくアニメ版は私もファンでありまして、本ブログでも継続して取り上げている作品の一つです。アニメ版の第1期、第2期のレビュー及び原作小説のレビューは以下の通りです。 序盤~中盤にかけての部活人間関係&スポ根の在り方という本作の原点にまつわる展開の良さに敬意を表しつつも、2冊分の小説を1つの映画に纏めているからか、終盤を中心に粗雑さや異様な駆け足感もあってやや「濃密さ」の不足を感じ、星3つとしました。お勧めできる作品ではあります。 2. あらすじ 悲願の全国大会出場を果たした北宇治高校吹奏楽部だったが、全国大会での評価は最低ランクである銅賞。悔しさを噛みしめながらもさらなる躍進を胸に秘める部員たち。しかし、3年生が引退したいま、目下の課題は部員集めだった。私立...
壷井栄

小説 「二十四の瞳」 壷井栄 星2つ

1. 二十四の瞳 戦前から戦後すぐにかけて活躍した作家、壷井栄さんの代表作。1954年に映画化され、そこから人気に火が付いた作品です。舞台となった小豆島にはいまでも「二十四の瞳 映画村」が存在し、当時の流行ぶりが伺えます。 感想としては「やや薄い」と思ってしまったのが正直なところ。壷井さんが持つ切実な反戦への想いや、心温かな子供たちとの交流とその後の悲劇など、描きたいことは分かるのですが、小説の物語として読むにはあまりにエピソードが淡白な割に主張だけが延々と続く部分が長すぎる印象でした。 2. あらすじ 舞台は戦前の小豆島。治安維持法が制定され、世の中が窮屈になっていく中、主人公である大石先生は分校の小学校に新任教師として赴任することになった。五年生以上は本校に通うため、分校に通っているのは四年生以下の小さな子供ばかり。その中でも、大石先生が担当することになったのは入学したばかりの一年生十二人だった。 子供たちとは次第に打ち解け合っていくものの、洋服を着て自転車で分校に通う大石先生の姿に田舎の村人たちは反感を覚え、嫌味を言う者も多い。それでもへこ...
☆☆☆(漫画)

漫画 「1518! イチゴーイチハチ!」 第7巻 相田裕 星3つ

1. 1518! イチゴーイチハチ! 第7巻 いやはや愕然といたしました。第6巻の感想を辛めに書いたとはいえ、1巻ごとに感想記事を上げるくらいに思い入れのあった本作。驚くべきことに、この第7巻が最終巻となってしまいました。作者あとがきにも無念の思いが滲み出ている通り打ち切り感も漂っているのですが、この名作が打ち切られる(くらいの売り上げ)など信じられません。 第1巻と前巻である第6巻の感想は上の通りです。特に第1巻~第3巻の出来栄えは漫画史に残るといってもよいくらいなので是非読んで頂きたいところ。 さて、本題となる第7巻の感想に入りますと、前半の生徒会役員選挙の話は悪くないのですが、もう少し話を膨らませて盛り上げられたのではないかと感じました。後半は完結に向けての舵取りですね。野球を再開するために髪を切った会長の姿にはぐっとくるものがある一方、世代交代の話はやや唐突感と駆け足感があり、無理やり完結させたのだなぁという印象でした。 2. あらすじ 冬休み明け、晴れて恋人となった幸と烏谷を待ち受けていたのは生徒会役員選挙。非常...
政治制度・統治機構

新書 「世論」 W・リップマン 星2つ 下巻

1. 世論(下巻) アメリカの伝説的ジャーナリスト、ウォルター・リップマンがマスメディア時代の「世論」について記した評論エッセイ。上巻に続いて下巻の紹介です。上巻の記事はこちら。 2. 目次 第5部 共通意志の形成第6部 民主主義のイメージ第7部 新聞第8部 情報の組織化 3. 感想 下巻でリップマンが強調するのは、人々が関心を寄せ、物事を具体的に理解できる範囲の小ささと民主制の理想とのギャップです。 上巻の記事でも述べた通り、人々の思考能力は身近な問題でしかそれを完全に発揮することはできません。村人全員が村のことをよく知っているような状態では確かに、村人たちは村のことについて具体的に考え、物事を決めることができるかもしれません。そして、それこそが当初、民主制の理想を思い描いた人々の頭にあった政治の姿だとリップマンは述べます。 しかし、国全体のレベル、あるいは外交を含めた世界全体のレベルとなると、マスメディアからもたらされる断片的な情報に自らの経験から成るステレオタイプを重ね合わせ、偏った想像力から状況を理解することしかで...
☆☆☆(映像作品)

アニメ映画 「言の葉の庭」 監督:新海誠 星3つ

1. 言の葉の庭 「君の名は。」で一躍有名となった新海監督の作品で、2013年公開。「君の名は。」の一つ前の作品にあたります。「君の名は。」は本ブログでも一度星2つで評価した後、考えを改めて評価を上げています。 新海監督特有の映像美の素晴らしさはもちろんのこと、「人生に迷う高校生」と「追い込まれる社会人」の交流というテーマで(ファンタジー色なく)アニメ映画を描こうとしたのも斬新で評価できます。物語面でやや瑕疵を感じましたが、それでも鑑賞後は胸のすくような気分にさせてくれました。 2. あらすじ 高校生の孝雄は靴職人という一風変わった将来の夢を持っており、現実味のない夢に没頭してしまう自分に思い悩んでいた。そんな孝雄は、雨の日の午前だけは学校をサボってよいという自分ルールを作って新宿御苑のベンチに足を運び一人で靴のデザインを考えるのだった。 ある雨の朝、いつものように孝雄が新宿御苑に行くと、そこには先客がいた。その若い女性はチョコレートをつまみにビールを飲み、スーツを着ていながら「会社をサボっちゃった」と言って新宿御苑に来て...
ルパン3世 カリオストロの城

アニメ映画 「ルパン3世 カリオストロの城」 監督:宮崎駿 星3つ

1. ルパン三世 カリオストロの城 いまでも根強い人気を誇る漫画/TVアニメシリーズ「ルパン3世」のアニメ映画第2作ですが、それ以上に宮崎駿の初監督作品として有名でしょう。 「ジブリ」の原点の一つであるといっても過言ではありません。 1979年の映画でありながらこれまで16回もTV放送されており、直近は2018年というところも宮崎監督の地力を感じさせます。 感想としても「ジブリ」だなぁという印象を受けました。物理法則を無視した充実のアクションと凝ったダンジョンを攻略していく冒険要素。ストーリーの整合性や場面場面の説得力よりも演出と雰囲気で「観させる」映画でしたね。 2. あらすじ いつものようにカジノの金庫から大金を盗み出したルパンと次元。しかし、よく見るとその札束は「ゴート札」と呼ばれる偽札だった。ゴート札とは極めて精巧であることで有名な偽札で、今回もルパンだからこそ気づけたものの、一般的にはその真贋を見極めるのは非常に困難である。 大量のゴート札の出現を怪しんだルパンと次元は一路、ゴート札と関係が深いという噂のあるヨーロッパの小国「カリオスト...
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