政治

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☆☆☆☆(教養書)

「昭和史 1926-1945」半藤一利 評価:4点|バランスの取れた筆致で激動の時代を描いた読みやすい通史の前編【日本史】

文藝春秋社でジャーナリストとして長く勤めた半藤一利さんによる、名前もそのまま、昭和時代の歴史について通史的に著した書籍です。半藤さんは1930年の生まれで、2021年に亡くなられています。本作は2004年に出版されており、太平洋戦争を中心に昭和史を研究し続けた半藤さんの集大成的な作品だと言えるでしょう。ずいぶん大きく出たタイトルであり、わたしも手に取る前は極論や決めつけだらけの俗物本であることを危惧していたのですが、実際に読んでみると、講義形式で語りかけてくるような文体でありながら内容は網羅的で深みもあり、主に政治と戦争の面から昭和という時代に何があったのかを学びたい際には最初の一冊として断然お薦めできる書籍でした。目次はじめの章 昭和史の根底には“赤い夕陽の満州”があった―日露戦争に勝った意味第一章 昭和は“陰謀”と“魔法の杖”で開幕した―張作霖爆殺と統帥権干犯第二章 昭和がダメになったスタートの満州事変―関東軍の野望、満州国の建国第三章 満州国は日本を“栄光ある孤立”に導いた―五・一五事件から国際連盟脱退まで第四章 軍国主義への道はかく整備されていく―陸軍の派閥争い、天皇機関説第五...
政治制度・統治機構・法学

【政治学】おすすめ政治学本(その他)ランキングベスト4【オールタイムベスト】

本ブログで紹介した政治学系の書籍から、政治過程論以外に纏わる書籍ベスト4を選んで掲載しています。政治過程論系のおすすめ本はこちらをご参照ください。第4位 「市民政府論」ジョン・ロック日本国憲法が基本的人権の擁護を柱としていること、政府が存在し様々な活動を通じて国民生活を支えていること。これらは中学校の社会の教科書に載っている内容ではありますが、このような言説の中では基本的人権の存在や政府の存在が自明になっており、なぜ、基本的人権は存在する(べきな)のか、なぜ(民主的な)政府が存在する(べきな)のかといったことはなかなか語られません。こういった発想は優等生的ではないのかもしれませんが、なぜ基本的人権や民主的な政府の存在が自明に良いとされているのか、疑問に思ったことがある方もいらっしゃるのではないでしょうか。本書「市民政府論」はそんな疑問に答える著作の一つとなっております。基本的人権や民主的な政府が当たり前ではなかった時代、その存在を論理的に正当化しようとした人々がおりまして、その代表格の一人が本書の著者であるジョン・ロックです。なお、「市民政府論」はロックの著作である「統治二論」のうち後...
社会学・歴史・スポーツ

「やさしくない国ニッポンの政治経済学」田中世紀 評価:2点|人助けもしなければ社会参加もせず、それでいて貧乏な日本とその処方箋【社会学】

日本人の良いところは他人に優しくするところであり、お人好し過ぎる点が国際外交やビジネスの場面で仇になってしまうほど日本人は優しいのだ。こうしたステレオタイプ的な日本人像は、特に日本人のあいだで長く語られてきた典型的日本人像であります。(自分で自分たちのことを「優しい」と思っているなんて、個人的にはどうしようもなく気持ち悪いですが......)東京オリンピックの招致やインバウンド需要取り込みのために近年では「おもてなし」の精神が強調される機会も多く、こうした日本人の自己像はますます強化されているのではないでしょうか。そんな風潮に一石を投じた記事が「Yahoo!ニュース」に投じられたのは2019年10月のこと。本書のプロローグもまた、この記事の紹介から始まります。日本人は、本当のところ世界の中でも全然「優しくない」集団なのではないか。そんな疑念を皮切りに、日本人の利他性/利己性を社会科学的に分析。貧困問題とも絡めながら論じた著作となっております。目次プロローグ序章 人にやさしくない、貧しい国ニッポン第1章 他人を信頼しない日本人第2章 そもそも、なぜ人は他人を助けるのか第3章 日本人の社会...
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GUNSLINGER GIRL

「GUNSLINGER GIRL 第1巻」相田裕 評価:4点|もしも誰かを好きで好きでしょうがなくなって、それでも永遠に満たされないとわかってしまったら【社会派サスペンス漫画】

本ブログで一度紹介した作品ですが、あまりにも感動が深いので単巻ごとのレビューを書いていきたいと思います。全体のレビューはこちらテロリズムの脅威に揺れるイタリアで、政府側の対テロ組織に所属する訳あり元軍人・元警察官、そして、彼らとペアを組むことになる、身体改造手術を施されて「義体」となった少女たちの物語。息の詰まるような葛藤の連続、その果てにある悲壮な感動。そんな本作の魅力がいきなり炸裂する第1巻のレビューです。あらすじ舞台は超近未来のイタリア。貧しい南部と豊かな北部という、イタリアが伝統的に抱える格差問題を巡る政争は熾烈を極め、北部独立派によるテロが横行する事態となっている。豊かな北部から搾取された税金が、怠惰な南部人を食わせるための公共事業や補助金に投下されている。そんな主張には北部人の多くが同調しており、テロリスト側の勢いは止まるところを知らない。そんな折、テロとの戦いに勝利して統一を維持したい中道左派政権は「社会福祉公社」という機関を創立する。表向きは身体に障がいを抱える子供を支援するための福祉組織だが、実態は、身寄りがなく命が助かる見込みもない子供の身体に特別な手術と洗脳を施し...
GUNSLINGER GIRL

「GUNSLINGER GIRL」相田裕 評価:4点|テロリストとの闘いに身を投じるのは「義体」を与えられた少女たち【社会派サスペンス漫画】

2002年から2012年まで「月刊コミック電撃大王」に連載されていた作品。「電撃大王」といえば所謂オタク向けの「萌え」漫画を中心とした雑誌ですが、その中にあって異彩を放っていたのがこの作品。現代イタリアが抱える「南北問題」という政治問題を嚆矢に、北部イタリアの分離独立派テロ組織と政府が創設した対テロ組織である「社会福祉公社」との戦いを描いた硬派な作品となっております。しかし、本作の特色はそういった欧州の政治問題を背景にしたサスペンスという側面ばかりではありません。「社会福祉公社」に所属するのは様々な機関から集められた訳ありの元軍人や元警察官たち。そして、そういった「大人」たちとペアを組むのは、瀕死の状態だったところに身体改造と精神洗脳を施され、テロリストと戦うために蘇った「少女」たちである、という点が他にはないオリジナリティを醸し出しています。社会問題を巡って政治家や軍人、メディア、市井の人々が織りなす政治活劇というマクロな枠組みと、テロとの戦いの中で明かされていく「社会福祉公社」組織員が辿った苦節の人生、「義体」となった少女たちの愛憎劇というミクロな枠組みの双方に魅力のある、他に類を...
社会問題

【政治雑記】日本は残存する大選挙区制(中選挙区制)を全て廃止するべきである

1. 候補者調整の問題2021年7月5日に行われた東京都議会議員選挙は、定数127議席のうち、自民党33議席、都民ファーストの会31議席、公明党23議席、共産党19議席、立憲民主党15議席、その他6議席という結果に終わった。自民党と公明党の議席を合わせた56議席では過半数に届かず、議席の大幅減が予測されていた都民ファーストの会が45議席から14議席減の31議席と踏みとどまって第2党を確保し、立憲民主党が8議席から15議席、共産党が18議席から19議席と議席を増やしたため、自公連立政権の敗北、都民ファーストの健闘、国政野党連合の躍進だというのがマスメディアにおける報道の主たる論調のようである。(自民党は議席増、公明党は議席維持だったため、それほど手痛く敗北した印象は受けないが、本稿の主題ではないのでここでは議論しない)東京都議会議員選挙をはじめ、特に日本の地方議会選挙においてアカデミアの政治学(政治過程論)的に注目が大きいのは、タイトルにも挙げた通りその選挙制度であろう。殆どの選挙区が当選人数二人以上の大選挙区制(※)となっており、しかも、投票者は自分がもつ1票を一人の候補者に対してしか...
帰ってきたヒトラー

「帰ってきたヒトラー」ダーヴィト・ヴネント 評価:2点|現代ドイツ人の心を鷲掴みにする独裁者【政治風刺映画】

2015年に公開されたドイツ映画。世界的ベストセラーとなった同名小説が原作で、タイトルの通り、アドルフ・ヒトラーが2014年のドイツにタイムスリップするというお話です。2014年のドイツといえば、移民排斥運動が勃興し、国家民主党やドイツのための選択肢といった極右政党の勢力が伸長していた時期でもあり、そういった機運への警鐘として製作された映画でもあります。とはいえ、ヒトラーへの画一的な批判一辺倒ではないのが面白いところ。ヒトラーが巧みな弁舌で聴衆からの支持を調達する様子、そして、警戒感の薄さからヒトラーを易々と受け入れてしまう大衆の様子がリアルに描かれ、そのポジティブな言葉遣いから良心的な存在だとさえ見なされるようになる過程が印象深く描かれています。ただ、そうした手法でドイツの政治的現状を描くことには成功している一方、物語としての面白さにはやや欠ける面があると思いました。準ドキュメンタリー的な学習映画としては優秀だと感じられたのですが、演出や伏線の張り方、どんでん返しの技術等に特筆すべき点がなく、観客の興奮を搔き立てるには至らなかった映画なのだと思います。あらすじ1945年、第二次世界大...
社会問題

【政治雑記】北海道にとって中国は味方で東京が敵である

北海道では山林を中国資本が大規模に買収しているらしい。山林のみならず、例えば観光産業やエネルギー産業(太陽光発電)においても中国資本による土地や建物への投資が増えており、北海道における中国資本の存在感は日増しに強くなっている。当然、国粋主義的な人々にとって怒り心頭な事象に違いない。強硬な論調で「国土防衛策」を論じたくなる気持ちも分からなくはない。しかし、東京のような大都市で愛国者気取りの人々が気炎を上げている光景を、北海道民はどのように見ているのだろうか。北海道はこれまで、さんざん東京に収奪されてきた、なによりも人間を収奪されてきた。1965年から1970年にかけて、北海道は人口の5%を社会減で失っているし、1985年から1990年にかけても3%を失っている。1970年には約7万人が、1987年には4万人近くが流出したのである。(北海道人口ビジョン「」より)近年は社会減が緩やかになっているものの、それでも転出超過は続いている。2020年における北海道人口の社会減は2,331人。全人口が527万人だから、人口の0.04%が流出したことになる。2019年は3,715人の社会減、2018年は...
ビジネス

【メディア論】おすすめメディア論雑記3選【雑記まとめ】

商業主義と価値観社会テレビもニコニコ動画も敗北した公共放送の将来おすすめ社会学本ランキング当ブログを訪問頂きありがとうございます応援クリックお願いします!
雑記特集

おすすめ政治評論雑記5選

リベラル政党は弱者のための政党ではない中選挙区制が諸悪の根源公共事業としてのIT投資日本なんてもういらない不祥事と自民党支持の関係おすすめ政治学本ランキング当ブログを訪問頂きありがとうございます応援クリックお願いします!
社会問題

低所得労働者にバラモン左翼政党以外の選択肢は存在するのか【政治雑記】

「21世紀の資本」で知られるトマ・ピケティ教授が左派政党支持者の属性変化について語っている。1950〜70年代にかけて、西側諸国における左派政党の票田は庶民階級だった。庶民階級とは所得・資産・学歴が低い層のことで、労働者階級と言い換えることもできる。しかし、80年代以降は様相が変わり、高学歴層が左派政党を支持するようになった。無料で見られる部分はここまでだが、この後の動きは政治に関心のある方ならばよく知っているだろう。80年代以降、各国の左派政党は金融自由化や国営・公営企業の民営化を推進するようになる。21世紀に入ると、左派政党の政策主眼はアイデンティティ・ポリティクスに移行していく。そこに再配分政策を掲げていた頃の面影はない。左派政党は社会民主主義政党からリベラル政党に変化した、と言えるだろう。そんな現代的左派政党を支持する高学歴者のことを、ピケティ教授はインドのカースト制度における上位階層になぞらえ「バラモン左翼」と呼んでいる。そして、こうした動きが顕著になるなかで、庶民階級は左派政党を支持しなくなっていく。庶民階級の票は困惑の中で彷徨い続けるものの、ちょうど4年前、トランプ大統領...
社会問題

【政治雑記】COCOA失敗に感じるついに公共インフラ整備ができなくなった日本の惨状

厚生労働省がコロナ対策として製作した接触確認アプリCOCOA。しかし、肝心の接触通知機能に不具合があり、それが放置されてきたとして問題になっています。こういうニュースを見ると、日本は時代に応じた公共インフラ整備さえできなくなってしまったのだなと悲しくなります。昭和から平成前期にかけての「公共事業」といえば、道路敷設のような土木工事だったり、ハコモノづくりのような建設工事でした。こうした公共事業の功績については賛否ありますが、兎にも角にもモノ自体はできていたわけです。道路が陥没したり、橋梁が落下したり、ハコモノ施設が崩壊したり。そんな発展途上国のようなことは滅多に起きず、自動車が通らない道や橋であれ、利用者のいないハコモノであれ、とりあえずモノはしっかりしていたのです。特に土木関連のノウハウは世界でもかなり高いらしく、東日本大震災後の道路復旧速度なんかは技術の高さや管理体制の良さを示す例としてよく挙げられますよね。ただ、こういった土木・建築関係の技術を社会インフラ構築に使う機会は急激に縮小していくでしょう。消滅していくだけの地方に新しい道路やハコモノは必要なく、整備事業等も減少の一途。三...
社会問題

【政治雑記】モリカケや河合夫妻の贈賄では内閣支持率が決定的に下がらなかった理由を考える

朝日新聞が森友学園問題を最初に報じたのは2017年の2月、同じく加計学園問題を報じたのは2017年の5月、週刊文春が河合夫妻の贈賄問題を最初に報じたのは2019年の10月です。下のグラフを見ていただくと分かる通り、モリカケ問題発覚直後には内閣支持率が下落しておりますが、2、3ヶ月もすれば元の水準に戻っています。また、河合夫妻の贈収賄では支持率がほとんど動くことはなく、内閣支持率が下がり始めるのはコロナウイルスに起因する緊急事態宣言が発令されるあたりからです。NHKのホームページより()筆者切抜モリカケ問題には様々な見方があるとは思いますが、自民党にやましいことが一つもなかったと考えている人は流石にいないでしょう。森友学園問題に関しては公文書改竄も為されていたようで、財務省の職員が自殺しているという事実もかなり衝撃的です。そして、河合夫妻の問題についても、程度の差こそあれ自民党が悪いことをしたんだろうという認識は多くの人々が共有するところだとは思います。それではなぜ、それなりの問題にも関わらず、内閣支持率は決定的に下がらないのでしょうか。その理由はおそらく、自民党なんだからこういう不祥事...
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