第5位 「ディアナ・ディア・ディアス」新井素子
【高貴な血統と王位の座を巡るファンタジックサスペンス】
・あらすじ
はるか昔、「南の国」では王位継承に特別なルールがあった。
それは高貴な血統である〈ディア〉の純血でなければ王位に就くことができないというもの。
〈ディア〉の純血とは、両親が共に〈ディア〉の純血であり、そのまた両親も〈ディア〉の純血であることを意味する。
純血を守るために繰り返されてきた近親相姦はやがて子を宿す能力さえも先細らせてゆき、ついに〈ディア〉の純血はたった二人、王女ディアナと、左の聖大公家の次男、ティークだけになってしまう。
本来ならばこの二人が結ばれてディアナが王位を継ぐはずであったが、ディアナの叔父であり暫定王のカイオスは、陰謀によりディアナを第一将軍ムールのもとへ嫁がせてしまう。
純血によって継承されてきた高潔な王位は絶体絶命だと思われたが……。
ディアナがティークの不義の子を身籠ったことから運命は狂気の方向へと動き出す。
・短評
中学生の時に読んで衝撃を受けた作品です。
世の中に物語は数多あれど、「近親相姦によって保たれている純血の王位の運命やいかに」 などというものは私の聞く限りこの一冊だけです。
しかも、あまりにも濃すぎる血のために狂気に囚われてしまうディアナや、虚弱体質で見るも痛ましいながら手を尽くして王位を狙うディアナの息子カトゥサ、気弱で芸術家気質ゆえに自分を貫けないティーク、朴訥で実直な将軍ムール、そして巨大な野心で王位の正式な簒奪を図ろうとするカイオスなどの登場人物たちも、明らかに「キャラクター」でありながら、読み応えのある物語を形成するのに欠かせない「生々しさ」を持っており、非常に魅力的です。
親子二代に渡る物語に、「東の国」との争いといった国際関係的要素も加わり、実質的には王宮におけるごく内輪での話にも関わらず、ダイナミズムに富んでいます。
独特な口語体も相まってなかなか説明が難しい作品ですが、読んでみれば、小説という概念を別角度から見られるようになるのではないでしょうか。
1990年代の小説ではありますが、いま読んでも極めて斬新に感じる小説であり、その新規性において輝きを秘めた作品です。ぜひ、ご一読を薦めます。
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