第8位 「六番目の小夜子」恩田陸
【不思議な非公式学校行事を巡る、怪しく切なく劇的な青春小説】
・あらすじ
舞台はとある地方の進学校。
この学校には生徒の間だけで脈々と受け継がれるゲームがあった。
三年に一度、「サヨコ」と呼ばれる生徒が選ばれ、学園生活の中でささやかな任務をこなしていく。
そして、「六番目のサヨコ」の年、三年十組に転校生がやってくる。
その名前は「津村沙世子」。
美しく謎めいたその生徒の出現が、伝統ある「サヨコ」に波紋を起こしていく......。
・短評
「やがては失われる青春の輝きを美しい水晶に封じ込め、漆黒の恐怖で包みこんだ、伝説のデビュー作」
裏表紙に書かれた文句ですが、まさにこの小説を体現した言葉です。
小説は「春」「夏」「秋」「冬」「再び、春」の五章に分かれ、一年間の学園生活を通じて「サヨコ」の謎が深まっていくという形式をとっています。
まず特筆すべきは、特定の主人公がおらず、多視点一人称の形で語られるということです。
「普通の」女子高生である花宮雅子。
バスケ部に所属し、快活で素直な唐沢由紀夫。
行動力のある秀才でサヨコの謎に迫っていく関根秋。
この三人に津村沙世子を加えた四人が主人公として不思議な学園生活をそれぞれの考え方で語っていきます。
他にも、文化祭実行委員の設楽や、「六番目のサヨコ」"だった"加藤。
はたまた、終盤で鍵を握る佐野美香子など様々な人物が物語を「語り継いでいく」方法はまるで学校を舞台にした演劇を見ているかのようです。
そして、その「演劇」こそ本作最大の見せ場。
「秋」の章では、「サヨコ」という行事に欠かせない文化祭での劇が開催されます。
「六番目のサヨコ」の年の劇、それは生徒全員が体育館に集合し、マイクを回しながら短いセリフを次々と読んでいくというもの。
灯りを落とした体育館の中で、時に早まり時に止まりながら台詞が読み上げられていく描写は非常に巧く、「小説でこんなことができるのか」と胸をうたれます。
圧倒的な文章力から生み出される学園生活のアンニュイな雰囲気は流石、恩田陸さんのデビュー作といったところ。
感性が鋭く繊細な年代のうちに読んでもらいたい、そんな小説です。
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