第2位 「健康的で清潔で、道徳的な秩序ある社会の不自由さについて」熊代亨
いわゆる昭和の時代とは対照的に、極めて「清潔で健康で道徳的な秩序」に溢れた社会になった令和の現代社会。
ゴミも異臭も浮浪者もいない清潔な街並み、喫煙や暴飲暴食が嫌悪され、健康が美徳にまで昇華された価値観、あらゆる行為にハラスメントか否かのチェックが入り、暴力的行為が抑制されるようになった世界。
一見、素晴らしいように見えるこの世界ではありますが、こういった「秩序だった」世界から零れ落ちる人々の存在(その中には「子供」も含まれる)や、迷惑を極端に忌避することによって生じる繋がりの希薄化があまりにも簡単に見逃されているのではないか。
小奇麗かつ小器用に振舞わなければ「生き残れない/生きづらい」というこの社会に内在する「不自由さ」に着目し、精神科医の立場からその社会を淡々と描写しながら静かに警鐘を鳴らす著作となっております。
現代社会を取り巻く価値観や道徳が、言葉にしづらいけれど、どこか過激なまでに「良質」で「潔癖」なのではないか、それが人間社会の大切な何かを衰退させていたり、却って多くの人々を不幸の廉に追い込んだうえで見捨てているのではないか。
そんな疑問に対する答え(解決策としての答えではなく、状況説明の手法としての答え)になるかもしれない作品として非常に面白く読んでいくことができます。
見栄えはよくても、どこか空虚さを感じるような雰囲気。
そんな令和時代の幕開けに社会学の著作です。
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