【実写映画】おすすめ実写映画ランキングベスト4【オールタイムベスト】
教養書
「法人税入門の入門 2019年版」辻敢・齊藤幸次 評価:1点|帯に短く襷に長く、実用的でもなければ本質的でもない専門書【税法】
「税務研究会出版局」という聞きなれない出版社から刊行されている書籍。調べたところ「税務研究会」という会社があるらしく、その業務内容は「税務、経理、会計などの実務情報サービスとして、定期刊行物、書籍、データベースなどを展開」。どうやら税務関係の本を出版する専門出版社のようです。このような本を手に取った理由を申し上げますと、以前に「日本の税金 第3版」を読んだ際にその中で法人税のことが少しだけ取り上げられておりまして、仕事柄、法人税の知識が必要な場面があるにも関わらず体系的に勉強したことがないなと手に取ってみた次第です。しかし、結果としては大幅な期待外れに終わりました。目次第1章 法人税の基礎第2章 収益の税務第3章 費用の税務第4章 税額計算と申告・納付第5章 連結納税制度第6章 グループ法人単体課税制度感想ある程度経理の知識があり、なおかつ税務にも興味があってその入門本を探している。そのような場合、本書を手に取ることはお薦めいたしません。まさにその2点にこそ、本書の欠点が凝縮されているからです。第1の欠点は、「会計」に加えて「税務」も知りたいと思って手に取ったにも関わらず、個々の論点や...
【税制】新書 「日本の税金 第3版」 三木義一 星3つ
1. 日本の税金2019年10月1日から消費税が10%に引き上げられ、軽減税率も同時に導入されました。最近ではレジで持ち帰りだと宣言して軽減税率の恩恵を受けながら、実際にはイートインスペースで店内飲食する「イートイン脱税」が問題になるなど、前途多難の様相です。もちろん、「イートイン脱税」は悪いことですが、「制度設計が人々の行動に及ぼす影響」としては典型的で実感しやすい例にもなっておりまして、これを機に政治・政策分野における「制度設計」の対してもっと関心が集まって欲しいと思うところであります。さて、上述のようにわたしたちの生活に多大な影響を与える「税金」ですが、こういった個別の問題から派生して、そもそも、いったいどのような税金が日本には存在しているのか、そして、それらはどのような制度設計が為されていて、その制度設計はどのような理念に基づくものなのか、ということに興味が湧いてきました。そこで、今回読んでみたのが本書となっております。2003年に初版が発行され、2018年に第3版が発行されているロングセラー。帯には「定番の入門書」と太字で書いてありましたが、まさにその通りなのでしょう。著者は...
教養書 「憲法Ⅰ 人権」 青井美帆・山本龍彦 星4つ
1. 憲法Ⅰ 人権法学部や経済学部を卒業した方々にはお馴染み、社会科学・人文科学系学術出版社である有斐閣。基本的には小難しい本ばかりを出版している会社なのですが、「学問と高校までの知識とがどう結びつくのかを理解しながら,じっくり思考を深めるためにまず手にとってほしい1冊」を刊行するレーベルとして「有斐閣ストゥデイア」が2013年に立ち上がっています。アカデミックの正統派に立ちながらも、いわゆる大学で教科書になっているような「~学入門」のような本よりもさらに易しい筆致で書かれた本が多く、私もよくお世話になっています。そんな「有斐閣ストゥデイア」シリーズから刊行された憲法学についての入門書が本書です。憲法学としての正統性を失わず(極論が書かれた俗本ではなく)、法律系の試験対策本でもなく、それでいて過度に重箱の隅をつつくような専門的議論ばかりでもない憲法の入門書は正直なところ「ない」というのがかつての結論だったところ、ついにその位置を射止める本が出てきたなというのが本書への評価となります。まずはこの本から、と胸を張って言える入門本になっております。2. 目次第1編 人権の意義と保障 第1章 ...
教養書 「映画を書くためにあなたがしなくてはならないこと」 シド・フィールド 星3つ
1. 映画を書くためにあなたがしなくてはならないこと映画脚本の書き方を定式化し、今日においてもその理論は色褪せるどころか「三幕構成」として多くの創作家たちに受け入れられている脚本家、シド・フィールドの著書。映画脚本の指南書として書かれ、著者自身もそのつもりだったものの、映画に関わらず広い意味での物語創作術の古典として知られています。内容はなかなか面白かったですね。言われてみれば当然だけれど確かにそれをやるのとしないのとでは違うだろうなぁという脚本づくりの基礎が述べられており、そもそも脚本の中の要素(主題・登場人物・ストーリーライン)がどうやって生まれてくるのか、それらをどのようなフレームワークに収めればよいのかが書かれています。やや繰り返しが多くて文章が散漫、また、具体例として言及する映画が偏っているという点に難を感じましたが、読後は物語を見る目が少し変わるかもしれません。2. 目次第1章 映画脚本とはなにか第2章 主題(テーマ)を作る第3章 登場人物(キャラクター)を創造する第4章 登場人物(キャラクター)を構築する 第5章 ストーリーと人物設定 第6章 エンディングとオープニングを...
「日本社会のしくみ」小熊英二 評価:3点|終身雇用制と職能給という雇用慣行が生まれた背景を探求する【社会学】
あとがき・参考文献一覧含めると600ページにも及ぶ新書として一部界隈で有名になった作品で、定価も税別1300円と新書らしからぬ値段です。しかしながら、それに値する中身も備わっておりました。著者は慶応大学総合政策学部教授の小熊さん。本ブログでは若き日の傑作「単一民族神話の起源」をレビュー済みです。「単一民族神話」からはうって変わって「日本の雇用慣行」がテーマの本作。しかし、ステレオタイプを退け、データや具体例をもとに社会の構造や傾向を解き明かしていこうとする姿勢は変わっておりません。より現代的なテーマになり、新書という枠組みで著すにふさわしい時機を捉えた作品になっていると感じました。目次序章第1章 日本社会の「三つの生き方」第2章 日本の働き方第3章 歴史の働き第4章 「日本型雇用」の起源第5章 慣行の形成第6章 民主化と「社員の平等」第7章 高度成長と「学歴」第8章 「一億総中流」から「新たな二重構造」へ終章 「社会のしくみ」と「正義」のありか感想「日本社会のしくみ」という極めて大きく出たタイトルですが、本書で語られるのは雇用慣行の形成と変遷が中心。それではなぜタイトルが「日本の雇用慣...
教養書 「千の顔を持つ英雄」 ジョーゼフ・キャンベル 星3つ
1. 千の顔を持つ英雄哲学者・神話学者として有名なジョーゼフ・キャンベル教授の代表的著作で、ジョージ・ルーカス監督が本作を参考にして映画「スター・ウォーズ」シリーズを製作したと述べていることでも有名です。世界各地の神話に見られる「英雄の旅」。一見、それぞれの神話は全く異なる物語や意味を提示しているようで、その実、そこには共通の構造や意味があり、それこそ過去の人々が神話を構築して後世に伝えようとしたある種の「真理」だという画期的な神話解釈で脚光を浴び、今日まで創作者のバイブルとして扱われています。2. 目次プロローグ モノミスー神話の原型第一部 英雄の旅第二部 宇宙創成の円環エピローグ 神話と社会3. 感想神話での「英雄の旅」における典型的な展開が短く説明されたのち、それを立証するために大量の古今東西神話エピソードが紹介されるという流れで基本的には話が進んでいきます。とはいえ、さすが「哲学者・神話学者」という著者の肩書だけあって、決して読みやすい本ではありません。紹介される神話のエピソードはほとんどが断片的なもので、普通の人にとって「ああ、あの話ね」とピンとくるエピソードはほとんどないと...
教養書 「単一民族神話の起源」 小熊英二 星3つ その2
1. 単一民族神話の起源 その2 「日本人は1つの民族を起源としている」「日本人は全員、大和民族の末裔である」「 日本人は農耕民族」「日本人気質」「島国根性」「統一性が高い」。日常生活のから政治の場まで、いたるところで耳にする、ある種の「日本人単一民族」論。 厳密な意味であれ比喩的な意味であれ、日本人が単一の属性を持っている、もしくは、単一の民族から構成されているという言説や意識はどこから来るのか。明治時代から遡り、その起源を明らかにする「単一民族神話の起源」の感想その2です。前稿である「その1」はこちら。「その1」では「第一部 『開国』の思想 」について記述しましたので、本稿では「第二部 『帝国』の思想 」及び「 第三部 「島国」の思想」 を取り上げます。2. 目次第一部 「開国」の思想第二部 「帝国」の思想第三部 「島国」の思想 3. 感想第二部では、日本が「帝国化」していく中で唱えられた様々な民族論が紹介されます。まず最初に紹介されるのは、歴史家である嘉田貞吉の取り組みを通じて語られる「同化政策」です。第一部でも紹介した通り、帝国としての日本で受け入れられたのは「混合民族論」...
教養書 「単一民族神話の起源」 小熊英二 星3つ
1. 単一民族神話の起源 その1「日本人は1つの民族を起源としている」「日本人は大和民族の末裔である」。政治に関心のある人ならば、そんな言説をどこかで耳にしたことがあるかもしれません。あるいは、「日本人は農耕民族」「日本人気質」「島国根性」「統一性が高い」くらいならば政治に関係のない(と言うと政治に関心の高い人からは怒られるかもしれませんが)日常生活の中でも一度は聞いたことがあるに違いありません。しかしながら、 厳密な意味であれ比喩的な意味であれ、日本人が単一の属性を持っている、もしくは、単一の民族から構成されているという言説や意識はどこから来ているのでしょうか。 よくよく考えるまでもないことですが、人類の祖先はアフリカのとある地域から世界各地へ広がったのですし、定住が始まって以降も世界との様々な交流の中で人類の混血は進んでいて、何がしかの意味で日本人(その定義自体も微妙ですが)の起源が特別に単一であるということはないでしょう。それでも、私たちの日常生活には広く「単一民族意識」的なものが敷衍しています。 「民族」という言葉はそれこそ定義が曖昧かつ錯綜しているので、アカデミックな場では...
【政治経済】「平成の通信簿」 吉野太喜 星2つ
1. 平成の通信簿元号が平成から令和に変わり、様々な「平成総括本」は出版されている今日。本書もそのバリエーションの一つですが、「識者が平成を語る」という形式ではなく、平成という時代において日本がどう変化したのかを様々なデータをもとに数値で見ようという変わり種。最近のベストセラーの一つである「FACTFULNESS」を意識していると著者自身が本書の中で著している通り、二重の意味で流行を追った本です。そんな本書に対する感想としては、面白いが薄いといったところでしょうか。なるほど、平成元年から現在までというと、ちょうどバブル崩壊直前から令和元年までの期間ですので、様々な指標の数値的変遷には鮮烈なものが多くあります。そしていまの日本には、高度経済成長を経験した世代から、バブルはもちろん2000年代前半にあった一瞬の好景気すら知らない世代が住んでいるわけで、高度経済成長を経験したことで「強い日本」の幻想をいまでも持っている人々にも、逆にバブル崩壊以降に生まれて「化け物じみ(ているように見え)た日本」を知らない世代にも、非常にいい刺激になる時期の切り取りかたになっております。ただ、普段から社会問題...
【制度・制度変化・経済成果】ノーベル経済学賞を受賞した経済学者による新制度派経済学の礎を築いた古典 評価:3点【ダグラス・C・ノース】
1993年のノーベル経済学賞受賞者、ダグラス・C・ノースの著書。原著は1990年の刊行となっており、ノーベル経済学賞受賞直前までの業績を纏めた内容となっております。難解な言い回しも目立ちますが(堅い訳だからかもしれませんが)、「制度」を軸に新古典派経済学に対して大きな影響を与えた現代経済学の古典として面白く読むことができる著作です。目次第Ⅰ部 制度第Ⅱ部 制度変化第Ⅲ部 経済成果感想ノース教授が教鞭を執っていた1970年代から90年代といえば自由競争の価値を重視する新古典派経済学の全盛期でありますが、本書は巻頭からその「自由競争」について重大な問いを投げかけます。その問いとは「なぜいまだに『競争』が終わっていないのか」という問いかけです。確かに、人類社会は太古の昔から(太古の昔ほど?)様々なレベルにおける「自由競争」に直面してきたはずです。その中で優勝劣敗が決まり、より優れた財やサービスだけが生き残っていくとすれば、現代社会時点で誕生から多くの時間が過ぎた財やサービスの市場においてはもう非効率など残っていないはずです。しかし、現実には様々な非効率が残存しており、ともすれば、非効率な財や...
新書 「世論」 W・リップマン 星2つ
1. 世論20世紀を代表するジャーナリストの一人、ウォルター・リップマンによって著された評論エッセイで、タイトル通り「世論」について取り扱っております。華々しい経歴を持つリップマンですが、「ステレオタイプ」という言葉を世に根付かせたと書けばその偉大さが伝わるのではないでしょうか。新聞・ラジオ・テレビという近代型メディアの登場と民主主義の組み合わせが人々の世界に対する「見方」をどのように規定していくのかという箇所に論の重点がおかれ、人々が抱いてしまうバイアスの傾向について現代にも通じる鋭い指摘を行っております。「評論エッセイ」と表現しました通り、かなり散漫で体系だっていないのが決定的難点ですが、それでも1922年という発表年を考えるとその叡智は驚くばかり。「愚者は経験から学び、賢者は歴史から学ぶ」という警句の示す通り、社会に対する考え方が纏まってきた時期に読むと「自分の考えなど車輪の再発明にすぎないなぁ」と思ってしまうこと請け合いです。2. 目次<上巻>第1部 序第2部 外界への接近 第3部 ステレオタイプ 第4部 さまざまの関心 <下巻>第5部 共通意志の形成第6部 民主主義のイメージ...
新書 「中国経済講義」 梶谷懐 星3つ 第6章・終章
1. 中国経済講義 前稿である「第4章・第5章」の続きです。前稿はこちら。 2. 目次 序章 中国の経済統計は信頼できるか第1章 金融リスクを乗り越えられるか第2章 不動産バブルを止められるか第3章 経済格差のゆくえ第4章 農民工はどこへ行くのか第5章 国有企業改革のゆくえ第6章 共産党体制での成長は持続可能か終章 国際社会のなかの中国と日中経済関係本記事で感想を述べるのは第6章と終章です。第6章 共産党体制での成長は持続可能か 大きく出たなぁというタイトルですが、中国崩壊論の極北はここに辿り着きますよね。とにかく、共産党独裁体制が持続するはずもなく、崩壊時のカタストロフィに中国経済は耐えられない、という理論です。本書でも、「財産権保護」や「法の支配」に欠けていること、「政府による説明責任なき市場介入」などを理由に主流派の経済学者は持続不可能だとする見解をとっていることが冒頭で挙げられます。そういった社会経済体制では、例えば特許などが適切に保護されなかったり、相互信頼の欠如から取引が滞ったりする恐れがあり、それが経済発展やイノベーションを阻害する、というのが経済学における王道の考...
新書 「中国経済講義」 梶谷懐 星3つ 第4章・第5章
1. 中国経済講義 前稿である「第2章・第3章」の続きです。前稿はこちら。 2. 目次序章 中国の経済統計は信頼できるか第1章 金融リスクを乗り越えられるか第2章 不動産バブルを止められるか第3章 経済格差のゆくえ第4章 農民工はどこへ行くのか第5章 国有企業改革のゆくえ第6章 共産党体制での成長は持続可能か終章 国際社会のなかの中国と日中経済関係本記事で感想を述べるのは第4章と第5章です。第6章以下は次稿に続きます。第4章 農民工はどこへ行くのか 中国の労働・貧困問題の象徴として取り上げられることの多い「農民工」と呼ばれる人々。低賃金で3K的な労働を行う都市の貧困層、という切り口はステレオタイプ的な分かりやすさもあってドキュメンタリーなんかでもテーマとして採用されることが多いような気がします。日本の高度経済成長期に出稼ぎのため東京や大阪に出てきた人々の姿と被るという点も、文脈を把握できている気になる要因なのかもしれません。この第4章はそんな「農民工」にまつわる様々な問題が列挙されているため、一言で結論を述べることは難しいのですが、①中国の労働市場は「ルイスの転換点」を迎えつつある、...