教養書

☆☆☆☆(教養書)

「健康的で清潔で、道徳的な秩序ある社会の不自由さについて」熊代亨 評価:4|無菌ゆえに息苦しい社会に適応することの困難【社会学】

精神科医ブロガーである熊代亨氏による現代社会評論。 非常に個性的で長いタイトルは、令和時代を覆う雰囲気への違和感を言語化するという本書の試みを見事に表現していると言えるだろう。 令和時代の、清潔で健康で道徳的な秩序にすっかり慣れた私たちから見て、高度経済成長期の日本社会はおよそ我慢できるものではなかったはずである。 本書の「はじめに」に記載されている文章であるが、高度経済成長期まで遡らずとも、最近の社会が妙に潔癖であると感じている人は少なくないと思う。 街は異様なほど綺麗になり、痰を吐いたり立小便をしたりする人はいない。 浮浪者のような恰好をした人物を見かけることもいよいよ稀になってきた。 人々はどこまでも整然と歩き、公的な空間では異様なくらい静かであることに努めていて、喧嘩や体罰、ハラスメントのようなカジュアルな暴力は滅びつつある。 どんな店に入っても店員の態度は概ね良好で、横柄な接客という概念も姿を消し始めた。 かつてに比べ、あらゆるコミュニケーションが丁寧になっている。 良い世の中になりつつある傾向じゃないか。 そう思...
☆☆☆(教養書)

「教養としての大学受験国語」石原千秋 評価:3点|論説文から読み解く近現代社会【国文学教養書】

2000年に筑摩書房から発売された新書で、著者は早稲田大学教授の石原千秋氏。 「この本は、大学受験国語の参考書の形をとった教養書である」 本書冒頭の言葉であり、本書の性質をよく表現した文章となっている。 テーマごとに2つずつの論説文の過去問が紹介され、著者が解説しながら解いていくという形式で本書は進行していくという構成。 精選された論説文と、その解説の中で表現される「近現代社会というものを国文学者たちはどのように考えているのか」という思考枠組みが本書の核心となっている点が面白いところ。 つまり、近現代社会を分析する視点がなければ大学受験国語を解くことはできないため、大学受験国語の参考書は必然的に近現代社会分析の解説になる、というわけである。 本記事では本書の教養書としての側面を重視し、紹介されている論説文の中から印象に残ったものを取り上げて感想を述べていく。 目次 序章 たった一つの方法 第一章 世界を覆うシステムー近代 第二章 あれかこれかー二元論 第三章 視線の戯れー自己 第四章 鑑だけが知っているー身体 ...
☆☆☆☆(教養書)

【経済学入門の王道】教養書「マンキュー経済学 ミクロ編」グレゴリー・マンキュー 評価:4点【経済学】

目次 第Ⅰ部 イントロダクション 第Ⅱ部 市場はどのように機能するか 第Ⅲ部 市場と厚生 第Ⅳ部 公共部門の経済学 第Ⅴ部 企業行動と産業組織 第Ⅵ部 労働市場の経済学 第Ⅶ部 より進んだ話題 感想 世界で最も有名な経済学の教科書であり、特にアメリカでは長年に渡り有名大学で採用されてきた入門書です。 近年ではその古典派的な傾向が批判され、より(アメリカ的な意味での)リベラルな教科書への置き換えが進む傾向にあるという記事もありますが、本書こそ伝統的な経済学の考え方を学ぶにはうってつけだという証左でもあるのだと思います。 (よりリベラルな教科書となるとクルーグマンあたりでしょうか) オーソドックスな経済学の思考枠組みが丁寧に語られるという内容のため、経済学についての新しい知見という意味での驚きは少なかったのですが、大変優れた「教科書」であることはひしひしと実感できたため、本記事では本書の「教科書」としての美点を3つ語っていきます。 ①一から十まで論理的かつ丁寧に説明する 社会的な事象に...
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生き方・自己啓発

【メンタリストによる恋愛指南】教養書「イケメンはモテない」仮メンタリストえる 評価:2点【恋愛心理学】

恋愛テクニックについての動画を専門とし、登録者数35万人超を誇る人気YouTuber「仮メンタリストえる」さん。 彼がYouTubeで紹介した恋愛テクニックを凝縮した著作が本作となります。 数多くの「モテテクニック」が紹介されており、ハウツー本として一定の価値はあるのでしょう。 ただ、「恋愛慣れしていない男性」向けであると銘打ちながら不親切な部分が多く、本当に「恋愛慣れしていない男性」が本書を使いこなせるかと言われればかなり疑問です。 加えて、アカデミックな心理学解説本や面白い雑学本という枠組みとしてもイマイチ。 最近流行している心理学ベースの「恋愛テクニック」を知識として仕入れることができるという程度の価値しか持っていない本という評価です。 目次 Part1 出会いPart2 LINE編〈初デートまで〉Part3 待ち合わせPart4 ランチPart5 LINE編Part6 ディナーのお店決めPart7 水族館デートからディナーまでPart8 帰路Part9 告白前Part10 告白 感想 主人公であるリョウタが懇親会会...
教養書特集

【政治学】おすすめ政治学本ランキングベスト3【オールタイムベスト】

本ブログで紹介した政治学系の書籍からベスト3を選んで掲載しています。 政治学を本格的に学びたい人のための学術書が中心となっております。 3位 「二大政党制の崩壊と政権担当能力評価」山田真裕 2009年の総選挙(旧民主党が政権交代を果たした)を中心に、なぜ政権交代が起き、その後、なぜ政権交代が起きる気配さえなくなったしまったのか。 有権者に対するアンケート結果をもとに、その要因を統計的アプローチによって分析した学術書です。 本書では特に、選挙ごとに投票先を変更した「スウィング・ボーター」に着目し、彼らこそが政権交代の鍵になったとして「スウィング・ボーター」の属性や政策選好、各政党への支持態度の変遷を提示しております。 本書を読めば、当時民主党を支持した人々、政権交代の起爆剤となった有権者たちの実像を理解することができます。 菅政権の支持率が下がる中で野党連合は政権交代へと意気込みを高くしている状況ですが、本書を読めば「政権交代」が起こりうる状況についての学術的な造詣を深めることができるでしょう。 ・感想記事はこちら ...
生き方・自己啓発

【転職支援】教養書「転職の思考法」北野唯我 評価:2点【ビジネス書】

博報堂やボストンコンサルティンググループで働き、いまは就職支援サービス会社ワンキャリアの取締役を勤める北野唯我さんの著書。 「転職の思考法」というタイトルの通り、転職するにあたって考えるべきことや、業界・会社選びのコツが述べられているほか、そもそもどのような環境で働くべきなのかという普遍的な「仕事論」にまで言及されている著作です。 一人のサラリーマンが転職について考え始めてから実際に転職するまでの物語に沿って著者の主張が述べられていくという形式を取っており、物語自体もそれなりに面白いので、読み易さという点では万民向けになっております。 ただ、全体としては凡庸なビジネス書であったというのが本ブログにおける評価。 良いことを言っっておりますし、間違ったことを言っているわけではないのですが、巷に溢れる転職論や仕事論からさらにもう一歩踏み込んだ言説に乏しく、やや内容的に薄い本だったと感じました。 目次 プロローグ このままでいいわけがない。だけど...... 第1章 仕事の「寿命」が切れる前に、伸びる市場に身を晒せ 第2章 「転職は悪」...
生き方・自己啓発

【承認欲求からの脱却】教養書「嫌われる勇気」岸見一郎他 評価:4点【自己啓発】

19世紀後半から20世紀前半にかけて活躍した心理学者、アルフレッド・アドラー。 その心理学理論を物語形式で紹介する自己啓発本です。 2013年の12月に発売されて以来、長らく人気書の地位を保持し続け、2014年にはビジネス書の売上ランキングで2位を、2015年には1位を獲得するなど、一斉を風靡した書籍となりました。 心理学といえばフロイトやユングが有名ですが、アドラー心理学は彼らの理論と一線を画しており、良く言えば斬新、悪く言えば突飛な理論が連発されて幾度となく読者を驚かせます。 例えば、過去のトラウマが現在の感情及び行動の理由となっている、という心理学では定番の因果関係をアドラーは否定します。 それでは、現在の感情や行動を形作っているのは何なのか。 アドラーに言わせてみれば、それは「目的」です。 つまり、「怒っている人が怒っているのは『怒りたい』という目的(あるいは『怒る』ことによって得られる何らかの目的物)があるからであって、『怒り』を感じる以前に発生した出来事に原因があるわけではないというのです。 なかなか受け入れがたい主張かもし...
生き方・自己啓発

【最優先事項以外は不要】教養書「エッセンシャル思考」グレッグ・マキューン 評価:3点【自己啓発】

シリコンバレーでコンサルティング会社を営むグレッグ・マキューン氏の著書。 2014年の発売(邦訳版)ながらながらいまだに増刷が続くロングセラーとなっております。 非常に有名な書籍ですので、ビジネス書や自己啓発本に興味がある方ならば一度くらいは耳にしたことがあるタイトルなのではないでしょうか。 そんなタイトルに違わず、本当に重要なこと、エッセンシャルな事柄に人生の時間を使えという内容となっております。 そう表現いたしますと、凡庸な本なのでは、と思われるかもしれませんが、多種多様な事例と軽妙で説得的な語り口、さらに、いかにして「エッセンシャル思考」を実行していくかという具体的な思考法が記述されている点に本書の妙味があります。 手軽に読めるうえ、文字通りエッセンスが凝縮された本になっておりますので、「エッセンシャルな事柄に人生の時間を使う」ためには具体的どのような思考・行動をするべきなのかという視点を得るために読んでみる価値があるのはもちろん、「大事なことだけに集中する」「些末なことを切り捨てる」という大胆な生き方が重要だと頭では分かっているけれど、心...
教養書特集

【社会学】おすすめ社会学本ランキングベスト4【オールタイムベスト】

本ブログで紹介した社会学系の書籍からベスト4を選んで掲載しています。 私の好みもあり、「社会経済学」的な本が中心となっております。 第4位 「日本社会のしくみ」小熊英二 日本の独特な雇用慣行がどのようにして生まれたのかを歴史的経緯という観点から説明した新書になっております。 「日本社会のしくみ」というタイトルがついているのは、雇用慣行こそが社会の様々な面を規定しているという著者の分析から来ているとのこと。 日本社会の雇用を「大企業型」「地元型」「残余型」に分類し、特に「大企業型」の特徴について詳しく分析しつつ、そこからはみ出した雇用形態として「地元型」と「残余型」が分析されています。 日本の「大企業」における雇用といえば、終身雇用と年功序列賃金制に代表される職能型の昇進体系が特異な点として挙げられることが多いと思います。 本書において、著者である小熊教授は明治時代から始まった官庁採用にその起源を見出し、軍国主義時代を経て戦後の大企業にその雇用形態が広がっていく様子を描き出しています。 全体的に分析が「広く浅く」になってしまってい...
社会学・歴史・スポーツ

【ブルシット・ジョブ】無意味な仕事ばかりが増大していく背景を社会学的に分析した良書 評価:3点【デヴィッド・クレーバー】

1. ブルシット・ジョブ イェール大学准教授やロンドン大学教授を歴任した社会人類学者、デヴィッド・グレーバー氏の著書です。 グレーバー教授は社会人類学者としてはもちろん左派アナキストの活動家としても知られており、“Occupy Wall Street ”[ウォール街を占拠せよ](※)運動でも主導的な役割を果たしたことで一躍有名になりました。 ※リーマンショックの直後、金融機関の救済等になかりのみ奔走し、若者の高い失業率等に対して有効な対策を打てなかったアメリカ政府に対する抗議運動。 本書の他にも「負債論──貨幣と暴力の5000年」や「官僚制のユートピア──テクノロジー、構造的愚かさ、リベラリズムの鉄則」といった著作があり、刺激的な理論を通じてアカデミズムと現実社会を積極的に繋ごうとしていた学者でもあります。 そんなグレーバー教授が2018年に著したのが、本作「ブルシット・ジョブ クソどうでもいい仕事の理論」。 原題は“Bullshit Jobs”のみですが、邦題では「クソどうでもいい仕事の理論」という副題が付されています。 さて、この「クソど...
生き方・自己啓発

【生き方】「幸福論」 バートランド・ラッセル 星3つ

1. 幸福論 数学、論理学、哲学、そして文学の世界で多大な功績を残したイギリスの学者、バートランド・ラッセルの著作。 1950年のノーベル文学賞を受賞するほどの文筆家であったラッセルが著す「幸福論」は、ヒルティ及びアランの「幸福論」と並ぶ三大幸福論の一つとして知られています。 その内容は、この「幸福論」こそが様々な自己啓発論の源流になっているのだなと思わせられるものでした。 目新しくはないものの、現代でも様々な本で言及される「人生を幸福に生きるコツ」の最大公約数が網羅されており、やや難解な英文翻訳調の文章に対して抵抗がなければ、安っぽい自己啓発書を読むよりも本書を一読する方が良いと思われます。 また、賢者の誉れ高いラッセルらしく、自己啓発の域を超えた社会論的な側面も記述されています。 ラッセルという賢人が世の中をどのように見ていたのか、世の中がどのように変化していくと考えていたのかという思索を覗き見られるという利点も備えた作品になっております。 2. 目次 ・第1部 不幸の原因 第1章 何が人びとを不幸にするのか第2章 バ...
生き方・自己啓発

【生き方】「人生の短さについて」 セネカ 星2つ

1. 人生の短さについて ローマ帝国時代に活躍したストア派哲学者、ルキウス・アンナエウス・セネカの著作。 人生論とでも銘打つべき随筆であり、過激な衝動を抑え、理性によって生きるべきだというストア派哲学の思想を基盤としつつ、「よい生き方」とは何かが語られております。 とはいえ、その内容は現代の自己啓発本と比しても凡庸というレベル。 随所に顔を出す面白い表現に感心させられることはありましたが、特段に斬新で心に響く書籍というわけではありませんでした。 2. 目次 章分けなし。 岩波文庫版では、表題作「人生の短さについて」のほか、「心の平静について」と「幸福な人生について」を収録。 3. 感想 「人生の短さについて」というタイトルに反し、本書におけるセネカの主張は「人生は本来、十分に長いものだが、多くの人々は人生の時間を浪費してしまうため人生を短いものだと感じてしまっている」というもの。 古典にしてはなかなかタイトルの付け方が上手いですよね。 「人生の長さについて」なんてタイトルにするより、よほどキャッチーで煽り文句と...
教養書特集

オールタイムベスト 「教養書」

当ブログをご覧いただきありがとうございます。 記事数が多くなってまいりましたので、そろそろお薦め作品を纏めた記事があってもよいだろうと思い、本記事を作成することにいたしました。 全体的に辛い評価が多いと思われる当ブログですが、本記事で紹介するのは珠玉の名著ばかり。 是非、紹介記事をご覧いただき、手に取って頂ければと願っております。  (並び順は著者名五十音順です) 「憲法Ⅰ 人権」 青井美帆・山本龍彦 星4つ 【大学レベルのまともな「憲法入門」】 「物語 フランス革命」 安達正勝 星3つ 【「フランス革命」の軌跡を概観する】 「日本の中央―地方関係」 市川喜崇 星4つ 【地方政府が持つ権限の特徴】 「戦争の世界史」 ウィリアム・H・マクニール 星3つ 【技術・軍隊・社会の相互作用による「世界史」】 「福祉資本主義の三つの世界」 エスピン=アンデルセン  星4つ 【「自由・保守・社民」現代福祉国家研究の古典】 「単一民族神話の...
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