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【税制】新書 「日本の税金 第3版」 三木義一 星3つ

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日本の税金
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1. 日本の税金

2019年10月1日から消費税が10%に引き上げられ、軽減税率も同時に導入されました。

最近ではレジで持ち帰りだと宣言して軽減税率の恩恵を受けながら、実際にはイートインスペースで店内飲食する「イートイン脱税」が問題になるなど、前途多難の様相です。

もちろん、「イートイン脱税」は悪いことですが、「制度設計が人々の行動に及ぼす影響」としては典型的で実感しやすい例にもなっておりまして、これを機に政治・政策分野における「制度設計」の対してもっと関心が集まって欲しいと思うところであります。

さて、上述のようにわたしたちの生活に多大な影響を与える「税金」ですが、こういった個別の問題から派生して、そもそも、いったいどのような税金が日本には存在しているのか、そして、それらはどのような制度設計が為されていて、その制度設計はどのような理念に基づくものなのか、ということに興味が湧いてきました。

そこで、今回読んでみたのが本書となっております。

2003年に初版が発行され、2018年に第3版が発行されているロングセラー。

帯には「定番の入門書」と太字で書いてありましたが、まさにその通りなのでしょう。

著者は三木義一青山学院大学学長。

租税法の専門家として民主党政権下で政府税制調査会専門家委員も務めておられました。

自民党が築いてきた税制への批判と民主党政権で税制改革をやり遂げられなかった無念が所々に感情的な筆致で表れるのはそんな経歴もあってのことなのでしょう。

なんとなくですが、中公新書が淡々と客観的な記述をするのに比べ、岩波新書は(あまり論理的でない)著者の信念・理念や心の叫びを積極的に載せる傾向にある気がします。

個人的には前者が好みであり、本書でもそういった部分が邪魔に感じられますが、それを差し引いても、税金のことを知りたければまずここからという意味でお勧めできる新書になっております。

2. 目次

序章 私たちは誰のために税を負担するのだろう?
第1章 所得税ー給与所得が中心だが
第2章 法人税ー税率引き下げ競争の行く末
第3章 消費税ー市民の錯覚が支えてきた?
第4章 相続税ー取得税方式に徹底すべきでは?
第5章 間接税等ー本当に合理的で必要なのか?
第6章 地方税ー財政自主権は確立できたのか?
第7章 国際課税ー国境から税が逃げていく
終章 税金問題こそ政治

3. 感想

目次で示した通り、本書では税金の種類ごとに章が割り当てられ、解説が進んでいきます。

第1章のテーマは所得税。

働いている人ならば誰しも、自営業者にもサラリーマンにもお馴染みの税金です。

課税対象額は「収入」ではなく「所得」であり、自営業者ならば収入から必要経費を引いた金額が、給与所得者ならば収入から様々な控除を引いた金額が所得となります。

算出された所得に(超過累進課税による)税率を掛けた金額が徴収されるという基礎的な部分から話が始まりまして、その後、様々な控除の仕組みや特別な所得の捉え方が説明されていきます。

サラリーマンの必要経費算出方法や家計を一にする夫婦の所得をどう取り扱うか、生存権を根拠とした基礎控除の金額の妥当性など、普段はあまり意識しないけれども私たちの「手取り」金額にも影響を与える様々な要素が提示され、単に制度の仕組みを淡々と述べるだけに留まらず、どういった考え方・理念からそういった制度がつくられていったのかが述べられているのが良いですね。

そこを理解しなければ単に自力で課税金額を算出できるようになるだけで、そもそも現在の制度は良いのかどうかという議論に入っていけませんから。

税制を改善していくための政治的・経済的議論を理解していくための足掛かりをつくっていくことができるような記述が本書全般の魅力になっています。

第2章のテーマは法人税。

サブタイトル通り、企業誘致の観点から国際的に引き下げが進んでいる税金ですが、法人税引き下げの代償として消費税引き上げが行われてきたのではないかという指摘が前回の参議院選挙で議席を獲得した「れいわ新選組」や最近話題の「中田敦彦のYouTube大学」でもなされていますよね。

しかし、本書での議論はそういった類のものではありません。

引き下げの話から始まるのは変わらないのですが、まず言及されるのは課税ベースについて。

日本では赤字が続いて繰越欠損金により法人税を納付していない企業が全体の7割にのぼり、資本金1億円以上の企業に限定しても5割近いという数字が明かされます。

ごく一部の黒字大企業が法人税全体のかなりの部分を支払っており、まさに「大企業の税」だということが伺えます。

他にも、法人税を課税する際の課税所得の計算に使われる「益金」「損金」という概念(法人税の課税所得は企業の財務会計上の利益からさらに様々な要素を加算・減算した数値を使います)や、法人の形態による課税制度の違いなど、普段はあまり気にすることのない「政府は法人からどのように税金を取っているのか」が簡潔かつ幅広く解説されております。

第3章のテーマは消費税。

私たちは普段、消費税を「払っている」という言葉を使いますが、制度上、実際に国に納めているのは事業者たちです。

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