スポンサーリンク

【空き家問題を考える】教養書「老いた家、衰えぬ街」野澤千絵 評価:2点【住宅政策】

スポンサーリンク
老いた家、衰えぬ街
スポンサーリンク

また、自分が下位の相続人になっているとき、うまく相続放棄ができるか否かも問題になります。

自分より上位の相続人が相続放棄をしても、自分に何らかの形で通知がくることはありません。

つまり、知らず知らずのうちに自分が見たこともないような不動産を相続している可能性があるのです。

さらに、ここからは行政及び住宅政策の問題ですが、相続人全員が相続放棄をした不動産について、「放置」以外の施策が執られることは稀です。

買い手がつかないような空き家に税金を投入して解体するなどの施策を行うハードルは高く、よほどのことがない限りは「放置」になります。

かといって、国庫に帰属となるかというとそういった法律もなく、多くの「空き家」が誰も拾わない火中の栗として残り続けているのが現状です。

スポンサーリンク

第3章 世界でも見られる人口減少という病

第3章は、世界各国における「空き家」対策を個別の事例分析を通して把握する章となっております。

まず紹介されるのが、アメリカはデトロイト市の事例。

地元の大手自動車メーカーであったゼネラル・モータースが衰退したことで財政破綻に陥った市として、世界的に負の名声を獲得している都市です。

そんな事情から急速な人口減少と治安悪化に見舞われたデトロイト市ですが、空き家対策として「ランドバンク」という公的機関が運営されていることが本書では紹介されます。

固定資産税を滞納した物件で、競売も不成立となったものや、放置空き家となっている物件をこの「ランドバンク」が保有し、専門家が調査を行って今後の活用方針を決定、それを実行するという機関です。

そんな「ランドバンク」が擁する様々な解決手法の中で、最も多く利用されているのが「隣の住民に空き地を優先的に譲渡する」という方法です。

一律100ドルという無償に近い価格での譲渡となるのですが、責任を持って管理する担い手を確保し、物件or土地を再び課税対象として蘇らせられるという点で市の負担軽減に繋がるので、双方が得することになります。

他にも、非営利組織やコミュニティ団体に譲渡して、それらの団体が菜園や都市農地などに土地を転換させていくなど、「空き家」や「空き土地」の利活用が進んでいます。

ただし、これらの施策は、連邦政府からの莫大な補助金と有力な民間慈善団体や教会からの支援が前提となっており、また、日本と違ってそれほど少子高齢化が進んでいないアメリカだからこそ可能という側面も言及されています。

参考とするべき事例探索が、却って、支援元が脆弱で少子高齢化が急速に進行しているという日本の弱点を炙りだす結果となるのは切ないですね。

本章において最も手厚くカバーされているのがこのデトロイト市の施策ですが、他にも、ドイツのライプツィヒや韓国の状況が紹介されています。

第4章 空き家を救う支援の現場から

第4章は、日本における「空き家」問題に対する現場レベルでの取り組みの紹介になっています。

いくつか気になった事例をピックアップしてますと、まずは、「特定非営利活動法人空き家コンシェルジュ」の取り組みにおける「お試し賃貸」はよく考えられていると感じました。

「特定非営利活動法人空き家コンシェルジュ」は奈良県を中心に空き家バンク運営などの活動をしている団体で、「貸したい人・売りたい人」と「借りたい人・買いたい人」のあいだに入って連絡や調整などのサポートを行っています。

そんな「特定非営利活動法人空き家コンシェルジュ」が都市部から奈良県の中山間地域に移住したい人向けに取り組んでいるのが「お試し賃貸」。

空き家をいきなり売るのではなく、一定の賃貸期間を挟み、移住者が居住地域の環境を気に入った場合には購入するという制度です。

これにより、地縁の強い地域に溶け込めるか不安な移住者と、どんな移住者が地域共同体に入ってくるか分からず不安な地元住民双方の不安を緩和し、両者のそりが合ったときだけ移住することができます。

いまのところ両者に歓迎されているとのことで、こういった工夫が中山間地域の空き家活用に活かされているのだなと感心しました。

次に面白いと思ったのは、島根県江津市の空き家バンクにおける「江津市ビジネスプランコンテスト」の取り組みです。

江津市の空き家バンクは「空き家」の利活用が進んでいる事例として著者が評価しているのですが、この江津市の空き家バンクが、移住者に対して空き家は紹介できても仕事は紹介できないという事態に直面したときに始めたのが「江津市ビジネスプランコンテスト」です。

その内容は、江津市で新しくビジネスを立ち上げたいという人を公募し、その人に「空き家」を紹介することで、江津市に新しい仕事を作り出そうというもの。

「住民」ではなく「働き手」「起業家」を集めるところにまで空き家バンクがその関与を広めている点は、いかんせん縦割りになりがちな行政の中にあって別格の取り組みのように思われます。

そして、最後に紹介したいのが「家いちば」の取り組みです。

「家いちば」は「空き家」のマッチングサイトで、売り手が物件をサイトに投稿し、買い手はその売り手と直接交渉できるという点が特徴です。

この「家いちば」が成功している要因として、本書では売り手を支援していることが挙げられています。

コメント