「ヱヴァンゲリヲン新劇場版:序」の感想はこちら
あらすじ
エヴァンゲリオン初号機のパイロットとして幾度かの戦闘に参加し、戦果を収めてきた碇シンジ。
彼の住む第3新東京市に新しいエヴァンゲリオンとそのパイロットが現れる。
エヴァンゲリオン2号機と共に現れた少女の名前は式波・アスカ・ラングレー。
シンジとアスカ、そして零号機のパイロットである綾波レイは共闘して使徒と戦い、勝利を得る。
深まる三人の友情と、各所から寄せられる称賛にシンジは充実感を覚えていた。
そんなある日、アスカがエヴァンゲリオン3号機起動実験のテストパイロットとして起用されることになる。
しかし、3号機は突如暴走を開始。
シンジ搭乗の初号機が3号機を止めるために出撃するのだが……。
感想
「序」に引き続き、少年がどのように大人になっていくかが描かれます。
最序盤では精神的に幼いシンジと周囲との差が間接的に描写されることが印象的でした。
3人目のパイロットとしてアスカが来日するのですが、アスカはレイとシンジのことをそれぞれ「えこひいき」「七光」と呼んで馬鹿にします。
確かに、綾波レイも碇シンジも正統な手続きを踏まずに軍属となり、特別な地位であるエヴァンゲリオンのパイロットという任務に就いているので、アスカの言い草は正しいものです。
大学を飛び級卒業しているため年若ではありますが、アスカは正統な手続きを経て軍人となっており、努力を重ねてエヴァンゲリオンパイロットの地位を掴んだのですからこんな物言いをするのも分かるというもの。
しかし、多くの視聴者はここでちょっとした衝撃を受けたのではないでしょうか。
前作まで、エヴァンゲリオンに登場して命懸けで戦うことは「嫌々行うこと」という描写が繰り返しなされてきました。
ただ、この価値観は当然、シンジの視点に偏った見方です。
多くの軍人にとって、最新兵器であるエヴァンゲリオンのパイロットとは目指すべき地位、職業生活上の素晴らしい到達点なわけです。
大きな役割を背負って、能力や個性を発揮しながら汗をかいて組織に尽くす。
それを当たり前とする「普通」で「大人」な価値観を持つパイロットがここでようやく登場します。
役割を強引に引き受けさせられることよりも、役割がないことのほうが不安だし、劣ったことである。
これはなかなか「出来上がった大人」な感性なのではないでしょうか。
「エヴァで戦えなかったことを恥とも思わないなんて無自覚」
ツンツンとした口調でそう言い放つアスカに対して、シンジはこう呟きます。
「エヴァに乗って戦いたい人なんているんだ」
まだまだ幼く、だからこそ成長の余地がある主人公がここに在るわけです。
また、シンジの友人である鈴原トウジがアスカを見た際にこぼした感想も重要になります。
「同い年で大尉なんて、飛び級で大学を卒業だろ」
シンジと違い、大人になること、働くこと、偉くなることへの正常な憧れを持つ人物がトウジなのです。
同い年ながら一歩先に大人となりつつある同級生たち。
そんな彼らよりもやや精神的に幼く、大人になることを半ば拒否気味でさえある碇シンジという主人公。
彼が主人公であり、使徒との戦いにおいて鍵となる存在であり、世界の命運を握ってしまっている。
思春期的な葛藤を抱えていて、精神的に不安定な男子が握る操縦桿。
そこに全人類の命が懸かっていて、彼の克己心がどう発揮されるかが戦いの勝敗を左右する。
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