第6位 「砂漠」伊坂幸太郎
【楽しく切なく愛おしい大学生活】
・あらすじ
大学入学直後に知り合った5人。北村、西嶋、鳥井の男三人と、東堂、南の女二人。
奇妙な正義感に溢れた西嶋と軽いノリのトラブルメーカーである鳥井が引っ張ってくる騒動はどれも変わったものばかり。
悪徳ホストとの賭けボウリングや、通り魔犯の謎、超能力者と超能力否定派の対決ショー。物語の語り手である北村はそれらの事件に否応なしに巻き込まれていく。
くだらないことに熱心な西嶋や鳥井のから騒ぎに、不愛想だが絶世の美人である東堂と、超能力が使える南の存在が加わり、事件はときに深刻な、ときに軽妙な方向へと二転三転する。
がむしゃらに生きた大学生活を通じて築き上げられた友情と、各人の成長を描く、愛おしくも懐かしい青春群像劇。
・短評
テンポの良い語り口と、あっと言わせる意外な展開、二転三転するスリリングな構成と、心温まる結末。
連作中編形式で描かれる仲良し大学生5人組の4年間はまさに「愛おしくも懐かしい」と表現すべきもので、青春時代独特の無鉄砲さが生む楽しさに溢れています。
これほど愉快で個性的な仲間たちと、これほど起伏に富んだ大学生活を送れるなんてことはまずないだろう、あくまで想像の産物だ、と頭の半分には思わせる一方で、残りの半分は、もしかしたら、こんな面子と騒げたんじゃないか、という気持ちにさせるような、繊細なノスタルジーをくすぐる作品になっております。
「砂漠に雪を降らせることだって、余裕でできる」
作中で西嶋が吐くそんな台詞の通り、一生懸命で少し滑稽な登場人物たちの努力と友情が小さな奇跡を起こしていく過程には思わず興奮させられます。
タイトルの「砂漠」は作中において人生の例えでもあるのですが、本作はまさに、「砂漠」のような日常に楽しい雪を降らせてくれる作品になっております。
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