新書 「リサイクルと世界経済」 小島道一 星2つ

リサイクルと世界経済
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1. リサイクルと世界経済

リサイクルという言葉が人口に膾炙するようになってからずいぶん経ちましたが、資源の制約や環境問題がクローズアップされる中で、その概念は今日においてますます輝きを増しているように感じられます。

そして、より一体化する世界経済の中で、リサイクルという行為もずいぶん前から国際貿易の中で行われるようになっております。日本の中古自動車や中古家電が発展途上国でよく利用されているのは有名な話ですし、紙やプラスチックの再生工場も多くは発展途上国に立地し、先進国から廃棄物を輸入し、原料として使用可能な状態にしてから再び先進国に輸出するというサイクルはもはや当たり前のこととなっているのです。

そのような、国際貿易の中でのリサイクル過程がどのように変化し、どのような問題を孕んでいて、どのように解決しているのかということが本書には記されています。著者はジェトロ・アジア経済研究所の小島道一氏。肩書は研究者ですが、本書の筆致には実務担当者として国際貿易の規制や促進に携わってきた側面が色濃く現れております。

2. 目次

第1章 国境を越えてリユースされる中古品
第2章 国境を越えてリサイクルされる再生資源
第3章 中古品や再生資源の越境移動にともなう問題
第4章 国際リサイクルに関する国際ルール
第5章 適切な国際リサイクルに向けて
終章 国際リサイクルの将来展望

3. 感想

第1章は家電や自動車、資本財などが国際的にリユースされている状況についての説明です。

前述の通り、家電や自動車といった製品が日本から発展途上国に輸出されているのは有名な話で、家電ではフィリピンが典型的なケースとして挙げられ、自動車では旧英国植民地で右ハンドルのミャンマーやニュージーランド、ケニアが輸出先として多いほか、中継地であるUAEにも多く輸出されていることが明らかにされます。地デジ化でブラウン管テレビが少なくなりフィリピンへの輸出量が急減した話や、1960年代には中古日本車の評判が悪く、そのために輸出検査が政府により義務化された話なんかが面白かったです。

資本財では農機や建機、工作機械が輸出されているのですが、日本企業がそういった中古機械の輸出で得た資金を新しい投資を行う際の元手にしているという点は、当然といえば当然のことですが興味深いと思いました。中古設備の輸出体制を整えることが製造業のキャッシュフローを助けることに繋がるわけです。摩耗したタイヤに新しくゴムを張ってつくられた更正タイヤの存在や、使用済み製品に補修や修理を施し、新品同様にして再輸出する再製造が注目されているという点も新しい知識になりました。

第2章は廃プラスチックや古紙、鉄スクラップといった資源が国際的にリサイクルされている状況についての説明です。 圧倒的な量の廃プラスチックを輸入していた中国が公害や環境保護を理由に輸入規制を始めているのは時代の流れを感じますし、元々は鉄スクラップの輸入国だった日本が輸出国に転じるのも「工業国」の国際的変遷の結果でしょう。その中で、貴金属スクラップの輸入量が増えているのは面白い現象です。ITでは現在進行形で米中に大敗北しており、家電などでは新興国に次々と追い抜かれている日本の産業界ですが、非鉄精錬技術のようなニッチな分野には希望が残されているのかもしれません。

第3章では環境汚染や健康被害、あるいは輸入国の製造業発展阻害といった国際リサイクルが抱える問題点が論じられます。廃鉛バッテリーが環境対策の行われていない工場でリサイクルされることにより公害を起きたり、古着やボロが感染症の感染源となったり、再生資源の名目で廃棄物が送られてくるなど、ときに国際リサイクルは輸入国側に害をもたらすことがあり、そのためにこういった品目の輸入制限を行っている国は少なくないそうです。また、製造業の発展を阻害するという恐れから、日本がかつて中古機械の輸入制限を行っていたという話も面白いです。国際リサイクルも丁々発止の外交・国際競争という文脈で行われていることが理解できる章になっています。

第4章ではGATTやバーゼル条約でリサイクル品の国際貿易がどのように規制されているのかを説明されているのですが、この章はさすがに書いていることが細かすぎて退屈です。ブラジルの更正タイヤ輸入禁止措置を巡る国際紛争の処理過程、有害廃棄物受け入れ拒否にまつわる国際規制の実効性不足問題など、実際に起こった事件をもとに国際規制の様相が描かれるのですが、条文をやたらに細かく書きつつ、それらの文言の定義や適用範囲の違いによって各国が小競り合いをしている様子を示されたところで「だから?」の一言に尽きます。貿易についての国際紛争解決はもちろん、著者の日常にとっては重大事なのでしょうが、結局、一般市民にとっては何がどう重要なのかが分からないという現象に陥ってしまっています。

第5章は国際リサイクルについての日本の取り組みが紹介されるのですが、この章は第4章に輪をかけて一般市民に馴染みがなく、新書に求めていないレベルの小さくて細かい論点ばかりが並ぶので非常に退屈です。世界のあんな国やこんな国との間でこういう取り決めが結ばれたとか結ばれないという話が延々と続くのですが、やはり、それがどれほど重要なのか、そういった取り決めが日本や世界全体にどれほどのインパクトをもたらすのかが示されないため、読んでいてどうしても他人事に思えますし、全く感情が揺さぶられません。

4. 結論

わざわざこの本を買っておいて恐縮なのですが、全体的に論点が異様に小さく、どれほど我々の世界にとって重要だったりするのかが分からない節が多すぎます。もちろん、個々の国際交渉において実務担当者は苦労しているのでしょうが、実務担当者が苦労する点と読者が興味のある点のあいだにあるズレが著者には理解できていないように感じられました。

前半で述べられている国際リサイクル状況解説はまだ、中古自動車や家電、再生資源という、馴染みがあって想像しやすく、なんとなく重要性が分かることに焦点が当たっているので読めるのですが、特に後半部で述べられている国際規制や国際交渉の仔細はさすがに一般向けではないですね。そしてもちろん、学術出版ほど内容が充実しているわけではないので、非常に中途半端で空虚な内容になっております。

失望するほど、あるいは義憤を感じるほど酷い出来ではなく、新しい観点の発見もあったので星1つは避けますが、全体として面白く読めるという本ではないでしょう。この分野に特段の興味があるというのならば手に取っても良いという程度ではないでしょうか。ただその場合、もっと良い専門書がありそうなものですが。

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