小説 「荒野」 桜庭一樹 星1つ

荒野
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1. 荒野

もとはファミ通文庫から3冊分冊で出版されていた作品ですが、後に文藝春秋/文春文庫が出版。さらに表紙をリニューアルして再刊行もされています。桜庭一樹さんが一段階有名になるたびに出版されていると言っていいでしょう。

ライトノベルというより少女小説と呼んだ方が相応しい読みやすい文体で、星1つをつけるほどの致命的な落ち度はありません。しかし、「少女の繊細な成長」を描くことに終始しすぎたせいでドラマがなく、また、その「少女の繊細な成長」という側面でも、主人公の家庭環境があまりに特殊なことからリアリティを感じられませんでした。

2. あらすじ

山野内荒野(やまのうち こうや)というちょっと変わった名前の女の子が主人公。家庭環境もかなり変わっていて、鎌倉にある古くて大きな家に、小説家でいつも女性の匂いをさせている父と、若くて痩せた家政婦さんの三人で住んでいる。私立中学校に進学した十二歳の荒野だったが、入学式の日、乗り込んだ電車のドアにセーラー服を挟んでしまう。窮地の荒野を助けた少年の名前は神無月悠也(かんなづき ゆうや)。そして、いざ入学してみると悠也は荒野のクラスメイトだった。当初はクラスで連れない態度をとる悠也に荒野は戸惑っていたけれど、その理由は衝撃と共に判明する。なんと、悠也の母と荒野の父とが突然に結婚したのだ。

悠也との微妙な関係、美人の江里華(えりか)と活発な麻美(まみ)という二人の友達。クラスにおける男子と女子の距離感。父親の愛人たちとの確執、荒野を好きになってくれた男の子との顛末。

12歳から16歳、子供から大人になっていく荒野の物語。

3. 感想

詰め込んだなぁ、という印象です。ふわふわとした文体で繊細な少女を一人称神視点の主人公に据えつつ、美人で男子にもてそうだけど実はレズビアンな江里華に、スポーツ万能で恋に興味なさそうなのに年上の恋人がいる麻美という魅力的な友人が脇を固めます。そして、荒野は何もしていないのにクラスの中心的男子である阿木くんに惚れられ、それを断ってつかみどころのないクールな悠也とプラトニックに結ばれていく。妄想がちな女性読者を掴むのではないでしょうか。

ただ普遍的な視点から見れば、そういった、ちょっと荒野に都合よすぎる設定および展開がこの小説の良くないところです。もし、荒野が荒野自身の言うほどに普通の女の子なら江里華や麻美と友達になることはないでしょう。彼女たちはいわゆるスクールカースト最上位のグループです。また、男子にとって話しやすい人物というわけでもないのにクラスの中心人物たる阿木くんに告白されるのならば、それは荒野がよっぽど美人(というより可愛い)であることの証左です。

そんな荒野が、「男子のことなんてよく分かんない」ということに内心くよくよ悩み、胸が大きくなってきたことに戸惑い、えっちなDVDの鑑賞会で嫌悪感を(それも激しくではなく、「だって、汚いのいやだもん」な感じ)抱く。自分に自信のない、汚れのない女の子として描かれているのですから架空の人物過ぎて感情移入できません。物語の中で一人だけ時代錯誤のヒロインを演じているように見えます。

加えて、身体の成長の悩みや性への嫌悪感をかなり丹念に描こうとしているのに、生理の話がないのは不自然です。自分の性的器官から血が出てくることを荒野はどう受け止めているのでしょうか。この小説のテーマ上、避けては通れないはずですし、作家の腕の見せどころですが、これだけ厚い本に一行の描写もありません(男子がナプキンでサッカーをする描写はありますが)。

また、荒野の家庭環境のリアリティも問題。恋愛(性愛?)小説家で若い女性を惹きつけて多くの恋をしている父親、なんてどこにいるのでしょう。しかもその設定はあまり生かされておらず、荒野が浮気相手の女性と遭遇するシーンがたびたびありますが、荒野がその純真さから反発したりおろおろしたりするだけで物語への影響が少なすぎます。

さらに、「少女の成長」を描こうとしているのだということが文章の端々で主張される小説なのですが、荒野は実のところさっぱり成長していません。荒野のどこが変わったというところは強調されず、あくまで非現実的なまでな純情美少女から見た青春の風景という作品です。

極めつけは、ヒーローである神無月くんがつかみどころのない文学少年であるというところ。顔がいい以外にもてる要素の一切ない人物造形はどうにかならなかったのでしょうか。全く魅力的ではありません。

そして、たまに起こる視点の揺らぎも読んでいて引っかかります。基本邸には一人称神視点で荒野の「現在の気持ち・行動」が描かれるはずなのに、時おり、「荒野にはまだ~だった」「荒野は気づかない」のような三人称完全神視点の表現が挿入されて苛立ちます。

4. 感想

スラスラ読むことはできるため、最後まで何かあるはずと思って粘り強く読んでみたのですが、オチも弱く、正直なところがっかりした作品でした。

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