小説作家名「さ」行

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島本理生

「ナラタージュ」島本理生 評価:2点|美しい文章と陳腐な少女漫画風の物語【恋愛純文学】

恋愛小説家として著名な島本理生さん。高校在学中に「シルエット」で群像文学新人賞優秀賞を獲得して純文学文壇にデビューした若き俊英であった一方、2018年には「ファーストラヴ」で直木賞を獲得するなど、エンタメ小説家としての顔も持ちながら長きに渡って一線で活躍している作家です。そんな島本さんの作品の中でも、おそらく一番有名なのが本作でしょう。「この恋愛小説がすごい! 2006年版」で第1位、「本の雑誌が選ぶ上半期ベスト10」で第1位、本屋大賞で第6位を獲得した作品で、著名な文学賞を獲得したわけではないものの、島本さんの代表作として挙げられることが多い作品です。それゆえ、期待を持って読んでみたのですが、期待はずれだったというのが正直な感想。文章表現の美しさはさすがと言わざるを得ない一方、陳腐な少女漫画風の物語は面白みもなく鼻につきます。あらすじ主人公は女子大学生の工藤泉(くどう いずみ)。ある日、高校時代の恩師である葉山貴司(はやま たかし)から、演劇部の人数が足りないので助っ人として公演に出てくれないかと誘われる。泉は葉山の申し出を承諾し、高校時代の同級生である黒川博文(くろかわ ひろふみ...
スコット・トゥロー

【波乱の法廷サスペンス】小説「推定無罪」スコット・トゥロー 評価:3点【海外ミステリ】

現役弁護士にして元検事補、作家としても活躍するスコット・トゥローの代表作。ニューヨーク・タイムズの年間ベストセラーリストでは1987年の7位に入り、映画も2億ドル以上の興行収入を得るなど、当時の大ヒット作となった小説です。殺人事件の捜査をしている主席検事補の主人公が、なんとその殺人事件の容疑者として起訴されてしまうという物語。真犯人は誰なのか、というミステリ的な側面はもちろんのこと、米国独特の司法制度のもとで行われる劇的な裁判の展開や、汚職や不倫といったドロドロ要素溢れるサスペンスが興奮をそそります。あらすじ舞台はアメリカの田舎町であるキンドル郡。地方検事局のトップを務める地方検事を決める選挙の真っ最中であり、現職のレイモンド・ホーガンと新人の二コ・デラ・ガーディアとの選挙戦は大接戦となっている。そんな折、キンドル郡及び郡地方検事局を揺るがす殺人事件が発生してしまう。キャロリン・ポルヒーマス検事補が何者かに殺害されてしまったのだ。この事件を見事解決に導いて得点稼ぎをしたいレイモンドは、腹心の部下であるラスティ・サビッチ主席検事補を捜査の担当とする。意気揚々と捜査に当たるラスティだが、あ...
サン・テグジュペリ

小説 「人間の土地」 サン・テグジュペリ 星2つ

1.人間の土地郵便輸送機や偵察機のパイロットとして戦間期から第二次世界大戦にかけて活躍し、その傍らで自身の経験を元にした著作を多数発表した作家サン・テグジュペリの作品。彼の作品では「星の王子さま」「夜間飛行」の次に有名でしょう。新潮文庫版ではカバー絵及び解説を宮崎駿が担当するなど、各方面への影響の大きさが伺えます。「夜間飛行」のレビューはこちら。評価としては「夜間飛行」に一歩劣るといった印象。飛行機乗りとしてサン・テグジュペリが経験した様々な出来事はどれも印象的で烈しいものですが、「物語」としての質を問われるとイマイチです。2.あらすじベンガジを発ったサン・テグジュペリ機は夜空に迷い、砂漠の上に不時着してしまう。機体は炎上し、サン・テグジュペリと同乗していたプレヴォーの二人は着の身着のままで砂上に放置された。街の灯りも見えない砂漠の中、三日三晩彷徨い続ける二人の僚友。食料も水も尽き果て、幻覚が見えるようになる。生きることに挫けそうになりながらも立ち直り、生存への道筋を探していく。「愛するということは、おたがいに顔を見あうことではなくて、いっしょに同じ方向を見ることだ」極限状態に置かれた...
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志賀直哉

小説 「暗夜行路」 志賀直哉 星1つ

1. 暗夜行路「小説の神様」とまで称され、近代日本文学を代表する作家とされている志賀直哉。「城の崎にて」などの中短編で有名ですが、長編も一作だけ書いていて、それが本作「暗夜行路」。日本文学を語るうえで避けては通れない作品ということで期待していたのですが、その期待は見事に裏切られました。典型的な拙い私小説という印象で、近代小説「黎明期」に、比較対象が少なかったから評価された作品なのだと思います。現代にも通じる普遍性はなく、現代の小説技術と比べて明らかに劣後しているため、物好き以外は読まなくてもよい作品でしょう。2. あらすじ主人公、時任健作は東京に住む小説家。といっても執筆にはなかなか気乗りせず、芸者遊びに興じるなど放蕩生活を送っている。そんな暮らしから脱しようと、尾道への転居を決意した謙作。尾道での生活の中で、謙作は自分の気持ちを整理し、これまでずっと東京で身の回りの世話をしてくれていたお栄という女性に結婚を申し込むことを決意する。しかし、兄である信行に結婚申込み依頼を頼んだところ、信行から衝撃的な事実が告げられる。謙作は謙作の祖父と謙作の母のあいだに出来た不義の子であり、お栄はそんな...
ジュンパ・ラヒリ

【たおやかなインド系アメリカ文学】小説「停電の夜に」ジュンパ・ラヒリ 評価:2点【海外文学】

インド系アメリカ人の作家、ジュンパ・ラヒリさんの小説。「インド系アメリカ人」という点がこの作家の特徴を端的に表しておりまして、アメリカに住むインド移民を主人公とした作品でアメリカ及びインドでも著名な作家となっております。優れた筆致は確かで、評価は3点をつけようとも思ったのですが、そこに至るにはやはり、小説(=フィクション)としての面白さがやや欠けているように思われました。描写や題材の選択は巧みなのですが、あくまで人生や日常の印象的な一場面を切り取った以上のものがなく、優れたノンフィクション(伝記・ドキュメンタリー・エッセイ)で代替できてしまう印象です。あらすじ・「停電の夜に」シュクマールとショーバは夫婦であるものの、その間にはすきま風は吹いている。激しく対立するのではなく、お互いに不穏な空気を抱えながらも、それを口に出さず、上滑りするような会話と日常を過ごしていた。そんなある日、計画停電の通知が二人の住む家に届く。電気のない、暗い夜。二人はテーブルを挟み、少しだけ踏み込んだ会話をする。ささやかな隠し事を打ち明けあう二人。少しだけ近づいた距離感で、それぞれが最後に明かすこととは........
☆☆☆(小説)

小説 「スタンド・バイ・ミー」 スティーヴン・キング 星3つ

1. スタンド・バイ・ミー映画としても人気を博したスティーヴン・キングの有名作品。小説としての原題は「THE BODY」、つまり「死体」なのですが、映画に倣い、日本で出版される小説では邦題として「スタンド・バイ・ミー」が使われています。内容としては「ひと夏の冒険」もので、ベタといえばベタなのですが、そこはさすがのキングで、まさにこの王道を彼のものとして上手く扱っています。少年から脱皮していく時期の不安、幼性からの決別がノスタルジーを喚起する形で描かれており、やや冗長な部分など見られましたが、十分に佳作といえるでしょう。スタンド・バイ・ミー―恐怖の四季 秋冬編 (新潮文庫)posted with ヨメレバスティーヴン・キング 新潮社 1987-03-25AmazonKindle楽天ブックス
☆(小説)

小説 「ぼくらの七日間戦争」 宗田理 星1つ

1. ぼくらの七日間戦争有名なジュブナイル小説シリーズの第一作です。1988年には宮沢りえさんの女優デビュー作ともなった映画が公開されています。近年でも児童向けのレーベルである角川つばさ文庫でシリーズ最新作が続々と刊行されているようです。そんな往年の人気作ですが、個人的な感想としては古いし拙いという印象。シリーズ各巻のタイトルを見ても、その時その時の流行を安易に取り入れ、廃れることを厭わない、古典であることや普遍的であることを目指さないような著作スタイルを持つ作家さんであるようで、私の好みには合いませんでした。ぼくらの七日間戦争 (角川文庫)posted with ヨメレバ宗田 理 角川書店 1985-04AmazonKindle
☆☆(小説)

小説 「赤と黒」 スタンダール 星2つ

1. 赤と黒フランス人作家、スタンダールの代表作の一つで、サマセット・モームの「世界十六大小説」にも選ばれている作品です。歴史的に評価の高い作品ではありますが、個人的にはあまり楽しめませんでした。特に現代に通じる普遍性の面ではかなり疑問です。とはいえ、時代が変わればまた再評価されるのかもしれません。赤と黒 (上) (新潮文庫)posted with ヨメレバスタンダール 新潮社 1957-02-27AmazonKindle楽天ブックス
☆☆☆(小説)

小説 「1984年」 ジョージ・オーウェル 星3つ

1. 1984年全体主義への警鐘を鳴らす、言わずと知れた有名小説です。不安定な政治状況から近年でもアメリカなどを中心に売り上げを再び伸ばしています。テレスクリーンによる監視や、思考の「幅」を狭める新言語ニュースピーク、「憎悪時間」など、全体主義体制が到る悲惨な政治的状況をこれでもかと描く力の鋭さ・強さにおいては文句のつけようがありませんが、小説としてのストーリーにはやや凡庸な面もあり、評価に迷う作品です。一九八四年 (ハヤカワepi文庫)posted with ヨメレバジョージ・オーウェル 早川書房 2009-07-18AmazonKindle楽天ブックス
桜庭一樹

小説 「荒野」 桜庭一樹 星1つ

1. 荒野もとはファミ通文庫から3冊分冊で出版されていた作品ですが、後に文藝春秋/文春文庫が出版。さらに表紙をリニューアルして再刊行もされています。桜庭一樹さんが一段階有名になるたびに出版されていると言っていいでしょう。ライトノベルというより少女小説と呼んだ方が相応しい読みやすい文体で、星1つをつけるほどの致命的な落ち度はありません。しかし、「少女の繊細な成長」を描くことに終始しすぎたせいでドラマがなく、また、その「少女の繊細な成長」という側面でも、主人公の家庭環境があまりに特殊なことからリアリティを感じられませんでした。荒野 (文春文庫)posted with ヨメレバ桜庭 一樹 文藝春秋 2017-05-10AmazonKindle楽天ブックス楽天kobo
☆☆(小説)

小説 「破戒」 島崎藤村 星2つ

1. 破戒明治時代の作家、島崎藤村の小説です。部落差別問題をテーマとした、その時代にあっては斬新な作品でした。しかし、いま読み返すと、物語そのものはそれほど面白いわけではないと思ってしまいます。歴史的記念碑であることは間違いないのでしょうが、傑作とは言い難いでしょう。破戒 (新潮文庫)posted with ヨメレバ島崎 藤村 新潮社 2005-07AmazonKindle楽天ブックス
☆(小説)

小説 「隣の家の少女」 ジャック・ケッチャム 星1つ

1. 隣の家の少女隣の家に引っ越してきた少女が受ける悲惨な虐待を描いたホラーものです。そこそこ有名な作品のようなので、単なるホラー以上の何かがあるのかと思い手に取りましたが、わたしの好みには全く合わない作品でした。隣の家の少女 (扶桑社ミステリー)posted with ヨメレバジャック ケッチャム 扶桑社 1998-07-01AmazonKindle楽天ブックス楽天kobo
時雨沢恵一

【リリアとトレイズ】期待はずれだった「銃と戦闘機の冒険活劇」の続編 評価:1点【時雨沢恵一】

・リリアとトレイズⅠ&Ⅱ1. そして二人は旅行に行った「一つの大陸の物語」シリーズの第2幕にあたり、第1幕である「アリソン」の続編になります。「アリソン」のレビューはこちら活躍するのは「アリソン」で主人公だったアリソンとウィルの子供世代。「アリソン」が「世界を救うアドベンチャー」だったのに対して、「リリアとトレイズ」は突発的に起こるテロと対決する内容がメインのため、物語全体がスケールダウンしてしまった印象です。加えて、「アリソン」では主人公の二人が共に孤児院育ちの幼馴染であり、「孤児院出身の二人が知恵と勇気と自ら身につけた能力で困難を突破する」という部分が魅力だったところ、「リリアとトレイズ」では「豊かな階層出身の二人が両親から授けられた特殊技能を振るって問題を解決する」になってしまったのが痛いところ。ワクワクドキドキを呼ぶような作品にはなっていませんでした。2. あらすじ大きな海に一つの大陸が浮かぶ世界。その大陸では、山脈と大河を挟んで二つの国が対峙していた。東側がロクシアーヌク連邦。通称ロクシェ。西側がベゼル・イルトア王国連合。通称スー・ベー・イル。長年の対立状態にあった両国だが、...
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