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アニメ 「SHIROBAKO」 監督:水島努 その②:大人たちの「仕事」 星5つ

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1. SHIROBAKO その②:大人たちの「仕事」

アニメ業界で働く人々を描いたアニメ、「SHIROBAKO」の感想第2弾です。言いたいことが多すぎて一つの記事には纏められず。前回は主人公格の若い女性5人について書きましたので、今回は周囲を取り巻くベテラン勢に焦点を当てたいと思います。

「SHIROBAKO」水島努 評価:5点|アニメ業界で働くことのリアルな苦難、その先にあるのは青春の友情を彩った夢の実現【お仕事アニメ】
名作深夜アニメランキングでも上位に入ることが多い作品で、P.A.WORKSの「働く女の子シリーズ」の第2弾という位置づけ。しかしながら、「働く女の子シリーズ」内ではもちろんのこと、同社の数ある作品の中でも抜きんでた人気を誇っています。2014年から2015年にかけて放送された作品にも関わらず、最近になって映画化の発表があり、再び盛り上がっている作品という側面もあります。内容は評判に違わず名作といってよい出来で、「アニメ」についてのアニメとして一つの業界の魅力を効果的に描き切った作品であり、また、お仕事アニメとして、働く人々の強さや弱さ、成功と失敗の感動が見事に表現されています。あらすじ(第1話)短大を卒業し、アニメーション制作会社「武蔵野アニメーション」に就職した宮森あおい。彼女の夢は「アニメに関わる仕事をする」ことであり、その夢が叶ったのだった。しかし、現場はそんなに簡単ではない。上がらない絵コンテ、慢性的な人手不足の原画、仕事をめぐる現場内の不和、我儘な監督。制作進行として奔走する宮森は、何度もくじけそうになりながらも、そのたびに周囲に支えられ、アニメを完成させていく。「アニメに関...

美少年美少女アニメだらけの中で、現実的に考えてしかるべき年齢の人達がしかるべき仕事をするこのアニメ。しかも、業界は軍隊でも特殊部隊でも農業でも宇宙○○でもなく、泥臭いアニメーション業界。他の作品とは一線を画す素晴らしい労働描写がこのSHIROBAKOの持ち味です。

木村珠莉 (出演), 佳村はるか (出演), 水島努 (監督) 形式: Blu-ray

 

2. あらすじ(第12話)

武蔵野アニメーションが7年ぶりに元請けとして手掛ける「えくそだすっ!」の制作は煮詰まりつつあった。最終回の絵コンテは何とか仕上がったものの、それを完成品に導くための原画マンが圧倒的に足りない状況なのである。

原画マンを探して必死に駆け回る宮森あおいだが、そう簡単に引き受けてくれる人はいない。特に問題になったのはラストシーン。大量の「馬」とともに主人公たちが警察の追っ手を逃れる場面だった。

「馬」をしっかり描ける原画マン。この萌えアニメ全盛時代にそんな人物はどこを探しても見当たらず、宮森あおいが最後に辿り着いたのが、「新世代アヴァンギャルドン」を手掛けた菅野監督。無謀だという忠告を振り切って菅野監督の自宅に飛びこんだ宮森だが、当然、仕事を引き受けてはもらえない。

だが、菅野監督はある人物を推薦して.......。

3. 感想

深夜アニメに関わらず、日本の漫画/アニメ作品は(美)少年(美)少女+あまり現実的ではない大人たちの組み合わせで進行することが多く、しかも、決定的な場面で必ず圧倒的な力を発揮するのは少年少女であるというパターンばかりです。ハリウッド映画ではたとえヒーローものであっても(スパイダーマン、バットマンなど)中年の男性/女性が大きな力を持って活躍することが多いのとは対照的な形になっています。

そんな中で、このSHIROBAKOは多くの作品が無視しがちな側面につき現実に忠実です。それは、「ベテランほど実力がある」ということ。「あらすじ」で記した、ベテラン原画マンである杉江さんがここ一番で圧倒的な実力を見せて作品が完成し大逆転という展開もそうですが、監督にしろ演出にしろ、相応の年齢の人(つまりおっさん)が相応のポジションを占めています。

これにより、物語全体のリアリティが上がるのはもちろんのこと、アニメではあまり描かれることのない壮年・中年の人物が抱く悩みや葛藤がストーリーの柱の一つになるわけです。

前作「ぷるんぷるん天国」で伝説的な現場崩壊をさせてしまった木下監督は6年ぶりにようやくTVアニメシリーズ復帰ですし、その間に離婚も経験していて、いつまでも前妻に未練たらたらです。

杉江さんも、「最近のアニメにはついていけない(しその必要もない)」「自分のようなロートルには若い人のあいだで居場所がない」「自分は孤高の職人なんだ」という意地とプライドに凝り固まってしまった考え方から現場に馴染めない日々が続いていました。後輩への指導も厳しい言葉遣いのために上手くいかない、というのが胸にきます。世代なんて5歳も離れていればもう別の世界を生きてきた人間なのに、孫世代に教えるなんてとても順調にこなせるものではありません。「高齢有能キャラが出てきて颯爽と若手を指導する」ような描写しかできない作品の浅さとは対照的です。

原画の遠藤さんなんかも良い味を出していて、自分が担当するはずだった重要なシーンを手書きではなく3DCGで描く方向で話が進みかけ、3DCGなど認めないと自分の信念を貫いて帰宅するのですが、妻から早く帰ってきた理由を問われて素直にその事情を話せないんですよね。自分のプライドに頑固なのは「自分映え」するかもしれませんが、女性(妻)映え・家族映えはしない。そのことに自覚的なのだけれど、だからといって簡単に己を曲げられない。大人になったって、人間、そういう部分は幼稚なままなんです。そこをギャグにせずシリアスに描いていることで、「仕事とは」「職場とは」というこの作品のテーマが上手く掘り下げられています。

女性キャラクターでもこういった悩みが上手く描かれていて、作品中で典型的なのが小笠原さんです。有能作画監督/原画マンなのですが、いつもゴスロリ服を着ていて、社内でも「ゴスロリ様」と呼ばれている。

なぜ彼女はそのような服を着るのか。
それは、自分を守るため。

かつてキャラクターデザインの仕事を行ったとき、抽象的な理由で却下され続け、精神的に追い詰められた。そんなとき、その作品の主人公が着ていたゴスロリ服を纏うことで精神を保った。いわゆる「別の人格を作る」という心の防衛方法ですね。いま詰られ貶されている自分は本当の自分ではなく、仮初の別人格。精神が窮地に立たされた時、そう思いこむことで人間は自分の心を守ります。社内で杉江さんを除けば最も有能な原画マンである小笠原さんも過去にそういった精神状態に陥ってしまったし、いまでも心の余裕をもって仕事をしているわけではない。仕事をするには誰もが「仮面」を必要としている。そんなサラリーマン精神が示されるのです。

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