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アニメ 「SHIROBAKO」 監督:水島努 その②:大人たちの「仕事」 星5つ

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そして、それが明らかになることで、不安を抱えていた後輩原画マンの井口さんや安原絵麻の気持ちも和らぎます。本当はそういった労働環境自体が変わらなければならないのでしょうけど、「他人も苦労していて、尋常ならざる精神コントロールで事態を乗りきったんだ。自分だけがおかしいわけじゃないんだ」と自分に言い聞かせながら仕事をこなさなければならないリアルがここにあります。一見、「極端な造形の深夜アニメキャラクター」に見せかけておいて、実はそこに私たちの現実を落とすという手法は見事ですね。いつか、小笠原さんがゴスロリを卒業できる日が来るのを願うばかりです。

また、そうした悩み/葛藤だけでなく、作品に注ぐ熱さというものもこういったベテラン勢から発揮されます。

監督が出した「えくそだすっ!」最終回絵コンテの作画が大変すぎるとして却下しようとする渡辺プロデューサーに対し、本田さんが「最終回で妥協したらいままでの苦労の意味はない」と熱弁を振るうところはジーンと来ます。制作が遅れると一番困る、スケジュールを管理するべきデスクという立場の人間がスケジュールよりもクオリティだと主張するからこそ胸を衝きます。

加えて、派手なシーンではありませんが、美術の仕事をその道のプロである渥美さんに頼むとき、作品のイメージを木下監督が熱く渥美さんに伝えるのも胸が熱くなる好シーンです。木下監督は交渉事が下手で、新人の宮森あおいが渥美さんへの依頼のイニシアチブをとっているのは監督として情けない状況でしょう。そんな監督が、作品のイメージを伝えるときだけは明瞭な言葉で語る。アニメ制作をやめられない人なんだ、という人物造形がよく伝わってきます。「第3飛行少女隊」では外部のベテランに仕事を頼むことが多くなることで、演出の池谷さんや美術の小倉さんなど、職人たちの仕事に対するスタンスがいい味を出します。木下監督や武蔵野アニメーション自体が過去の失敗から干されてきた期間が長いこともあり、プロジェクトXやガイアの夜明けのような風格さえ感じさせる作品になっています。

その他にも、これは中年以上のクリエイターの感覚ではないか、と思ったのが、今井みどりが女子校における仲直りの仕方(蒸しパンどう?)の話をした直後から著名ライターである舞茸さんの今井みどりへの接し方が変わったところです。脚本家志望で積極的に舞茸さんからのアドバイスを得ようと(弟子入りしようと)頑張る今井みどりですが、「課題を与えてやるから持ってこい」に留まる関係。それが一点、「ディーゼル(=今井みどりの愛称)さん、この時の会話書いてみて」となるわけです。それはやはり女子校での仲直りの方法トークがきかっけでしょう。監督を含む制作陣が「女性同士の関係オンチ」であることは会議の場で示されており、そこで、自分は知らなかった女子校における心情の機微を話してくれた今井みどり。舞茸さんも、自分がさらに成長する機会だと感じたのではないでしょうか。本当に有能な人材とはいつでも貪欲に成長機会を探しているもので、そういった口に出さない情熱をあっさりと描いてしまうのはこの作品のいいところですね。

職場の男女同数感といい、年齢構成といい、近年のアニメではなかなかない全体のキャラクター配置。特殊部隊等を舞台にしたハードボイルドものならばあり得ることでしたが、普通の会社という設定で、美男美女祭りにせず職場を表現した作品がいくつあるでしょう。これには本作における実在の人物をモデルにしたキャラクターデザインが奏功しているのだと思います。それに、深夜アニメ独特の服のダサさもここではリアリティに貢献しているのではないでしょうか。決してハードボイルドなかっこよさを持たないけれども、めちゃくちゃダメな大人ってわけでもない。そんな普通の人々が織り成す情熱的な物語。いつでも誰にでも作れるようで、その実、なかなかない作品。数々のアニメ作品の中でもクオリティは傑出しています。本当にこんなアニメばかりになれば世界にどんどん通用していけるようになるのになと思う気持ちを表明して(ハリウッド映画ではお仕事映画が多いですよね。キャリアウーマンの人生選択の葛藤を描いたり、ウォールストリートで成功する話だったり)、その②を終わりたいと思います。

木村珠莉 (出演), 佳村はるか (出演), 水島努 (監督) 形式: Blu-ray

その③に続く

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