本ブログで一度紹介した作品ですが、あまりにも感動が深いので単巻ごとのレビューを書いていきたいと思います。
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テロリズムの脅威に揺れるイタリアで、政府側の対テロ組織に所属する訳あり元軍人・元警察官、そして、彼らとペアを組むことになる、身体改造手術を施されて「義体」となった少女たちの物語。
息の詰まるような葛藤の連続、その果てにある悲壮な感動。
そんな本作の魅力がいきなり炸裂する第1巻のレビューです。
あらすじ
舞台は超近未来のイタリア。
貧しい南部と豊かな北部という、イタリアが伝統的に抱える格差問題を巡る政争は熾烈を極め、北部独立派によるテロが横行する事態となっている。
豊かな北部から搾取された税金が、怠惰な南部人を食わせるための公共事業や補助金に投下されている。
そんな主張には北部人の多くが同調しており、テロリスト側の勢いは止まるところを知らない。
そんな折、テロとの戦いに勝利して統一を維持したい中道左派政権は「社会福祉公社」という機関を創立する。
表向きは身体に障がいを抱える子供を支援するための福祉組織だが、実態は、身寄りがなく命が助かる見込みもない子供の身体に特別な手術と洗脳を施し、テロと闘う「義体」として復活させ運用する秘密公安組織。
義体となった子供たちは担当官と呼ばれる公社の戦闘員とペアを組み、今日もテロ撲滅のために戦いを続ける。
短い命を公社と担当官に捧げる義体たちの、ささやかな幸せと深い悲しみの物語。
感想
1冊の単行本に雑誌連載5話分が掲載される構成。
第1巻においては、最初の3話が主人公格となる3人の義体とその担当官を紹介しながら物語の文脈が明かされていく言わばイントロダクション、「起承転結」の「起」にあたる話となっております。
そして、最後の2話「エルザ・デ・シーカの死 前編」及び「エルザ・デ・シーカの死 後編」が本作の重大なテーマを示す「承」にあたる話となっております。
第1話のタイトルは「天体観測」。
牧歌的なタイトルとは裏腹に、義体の少女ヘンリエッタが銃を駆ってテロリストのアジトへと突入する血生臭い場面から始まります。
彼女とペアを組むのが、元軍人のジョゼッフォ・クローチェ(通称:ジョゼ)。
アジトへの突入作戦でヘンリエッタはミスを犯してしまうのですが、ジョゼはヘンリエッタを叱ることなく、逆に天体観測を通じて親交を深めようとするのです。
一家六人惨殺事件の生き残りで、自身も重傷を負っていたヘンリエッタ。
そんな彼女を救える唯一の手段だったとはいえ、義体として身体改造を施して戦闘参加させている。
そのことに負い目を感じており、ヘンリエッタを何とか救いたいと思っているジョゼが不器用に距離を詰めていくというお話です。
第1話を読んだ時点では、ジョゼが「優しい」担当官なのだという印象を読者は持つでしょう。
しかし、実は本作の終盤にかけてこの評価を逆転させるようなエピソードが明かされていくことになるからたまりません。
「テロリストと戦う元軍人・少女ペア」の話として、戦闘シーンから義体の説明、そして元軍人と少女の心理的交流までを描いたうえで、更に後半における心理的どんでん返しの伏線にもなっているという、お手本のような第1話です。
第2話のタイトルは「Love thy neighbor」、「汝の隣人を愛せよ」という意味です。
義体の少女リコと、その担当官であるジャン・クローチェの紹介ストーリーとなっております。
リコを仕事の道具としてしか扱わない冷徹な担当官であるジャンと、「条件付け」と呼ばれる洗脳のおかげでジャンのためならどこまでも冷酷な殺人人形になれるリコの様子が描かれます。
同じ「条件付け」されていても、ヘンリエッタはジョゼに「愛情」のようなものを感じていて、リコはジャンに「忠誠心」しか感じていない。
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