スポンサーリンク

「ブルシット・ジョブ」デヴィッド・クレーバー 評価:3点|無意味な仕事ばかりが増大していく背景を社会学的に分析 【社会学】

スポンサーリンク
ブルシット・ジョブ
スポンサーリンク

自覚的なブルシット・ジョブ・ワーカーの方々ならば、どきりとさせられるような読書体験になるのではないでしょうか。

一般人インタビュー部分がそれなりに多く、一方でクレーバー教授自身の分析が述べられている箇所が少なく、主張に対する統計データによる補強が少ない、といった点を考慮して評価は3点(平均以上の価値を持つ佳作)に留めますが、令和の労働を語るうえで、私達の心をかなり熱くさせてくれる要素が詰まった良書となっております。

スポンサーリンク

当ブログを訪問頂きありがとうございます

応援クリックお願いします!

にほんブログ村 本ブログ 書評・レビューへ
このエントリーをはてなブックマークに追加
デヴィッド・グレーバー (著), 酒井 隆史 (翻訳), 芳賀 達彦 (翻訳), 森田 和樹 (翻訳)

補論その①

「感想」には入れきらなかったけれども、本書を読んでいて個人的に面白いと思った話を2点ほど挙げておこうと思います。

1つ目は、生産性と賃金の関係です。

1947年以降、アメリカ合衆国における労働生産性は現在に至るまで一貫して増加しているものの、時間あたり報酬/賃金の伸びは1970年代からずっと横ばいだという点が本書では指摘されています。

具体的なデータについては本書を読んでみてほしいのですが、この生産性上昇と時間あたり報酬/賃金不上昇の差分を、資本家や経営者、一部の専門的管理者階級だけではなく、無意味な事務職員の増加も攫っているのだとグレーバー教授は指摘します。

結果として、社会的価値を産出している人々がその価値産出効率を上昇させるために行っている努力の果実は、ブルシット・ジョブ・ワーカーの雇用確保に使われているというわけです。

2つ目は、トランプ支持者の思想と軍隊における奉仕活動の話です。

ドナルド・トランプ元大統領が貧困白人層から強い支持を得ていることは有名ですが、そんなアメリカの貧困層が「単なる金持ち」に抱いている敵愾心は意外に小さいそうです。

そんな彼らが強く憎んでいるのは「リベラル・エリート」と呼ばれる一群。

「リベラル・エリート」たちは単に金持ちだというだけではなく、真実の追究(アカデミズムやジャーナリズム)、美や正義の追究(芸術、出版、社会運動、慈善活動)をすることにより生活している、儲けていることにその特徴があります。

アメリカの貧困層が「リベラル・エリート」という特定の属性を嫌う理由、それは、現代アメリカにおいて、貧乏人が金持ちになることはあっても、「リベラル・エリート」になる道は閉ざされているからだそうです。

つまり「リベラル・エリート」たちは生まれながら彼らの持つ独自の交友関係に組み込まれており、そこで育まれる独特な立ち振る舞いの習得や、閉鎖的人間関係へのアクセスを経ることでしか「リベラル・エリート」な職業に就くことは難しくなってきているというのです。

本書では、ハリウッドの映画産業関係者たちが、もはや前世代の血縁者ばかりに占められていることが殊更に強調されています。

社会的価値の産出量と金銭的報酬が反比例しがちな世の中においても、真実・美・正義を追究しながら高額の報酬を得る仕事が少ないながらも残存はしている。

しかし、そこにアクセスするためには既存「リベラル・エリート」とのコネクションがなければならないという絶望がアメリカ社会には横たわっているのです。

そんな中、コネに恵まれない利他主義者たちにとって最後の拠り所がなんと軍隊になっているとのこと。

米軍は海外基地において様々な奉仕活動を行っており、経費をかけてでも奉仕活動を行う理由は、表向き地域社会との親善を図る(ことにより米軍への反発を減らす)ことだとされています。

しかし、奉仕活動と米軍への信頼度には関係がないことが調査により立証されているそうです。

それでも米軍が奉仕活動をやめない本当の理由、それは、兵士たちの職務に対する満足度を高めることだとグレーバー教授は述べます。

本書によると、公共奉仕プログラムに参加した兵士たちは誰もが瞳を輝かせ「これが軍隊に参加した理由だよ」と語り、二度も三度も再入隊をする者までいるそうです。

それではなぜ、そんな人たちは平和部隊(米国版青年海外協力隊)に参加しないのでしょうか。

グレーバー教授いわく、平和部隊への参加条件には大学卒業資格があるそうです。

コメント