【エンタメ】おすすめエンタメ評論雑記4選【雑記まとめ】
教養書
新書 「中国経済講義」 梶谷懐 星3つ 第2章・第3章
1. 中国経済講義 前稿である「序章・第1章」の続きです。前稿はこちら。2. 目次序章 中国の経済統計は信頼できるか第1章 金融リスクを乗り越えられるか 第2章 不動産バブルを止められるか 第3章 経済格差のゆくえ 第4章 農民工はどこへ行くのか 第5章 国有企業改革のゆくえ 第6章 共産党体制での成長は持続可能か 終章 国際社会のなかの中国と日中経済関係 本記事で感想を述べるのは第2章と第3章です。第4章以下は次稿に続きます。 第2章 不動産バブルを止められるか 最近の「中国崩壊論」の主流といえばこれではないでしょうか。投機にだけ使われる居住者のいない集合住宅。いわゆる「幽霊マンション」などがいかにも悪質なバブルを象徴しているように描かれることが多い気がします。不動産の値上がりのせいで住居をなかなか見つけられない都市部の庶民が抱える不満という切り口もありますね。 もちろん、「幽霊マンション」や「鬱憤を溜める庶民」の実在を否定するつもりなど毛頭ありませんが、本書の良いところは「そもそも不動産市場への過度な投資が行われるのはなぜなのか」から出発する点です。それは、「中国人が馬鹿だ...
新書 「中国経済講義」 梶谷懐 星3つ 序章・第1章
1. 中国経済講義既に中国のGDPが日本のGDPを抜いて久しく、世界の名目GDPの16%を占めるまでになった中国経済。インバウンドで観光客として来日する姿を見ると、立場は明確に逆転したのだなぁと感じてしまいます。中国経済の存在感は外交の舞台でも強く発揮されておりまして、現在進行中の米中貿易協議などはまさに象徴的。アメリカに負けず劣らずの存在感を見せるIT企業群の動向やそれに対する西側諸国の反応、一帯一路を合言葉として世界中にばら撒かれる投資マネーなど、中国経済ニュースを目にしない日はありません。しかしながら、他の国の経済が好調とあらば粗探しをしたくなるのが人間の性というもの。隣国であればなおさらという訳なのか、インターネット上では中国を一方的に見下す論調の記事が溢れかえっておりますし、書店でも中国経済「崩壊」などの文字が躍る本が平積みされています。そんな中、中国経済の「現在」について、特に世間的注目が高い分野を中心にそつなく説明しているのが本書の特徴。極端な理論にのめり込んでしまっている人にとっては「一顧だにする価値もない」書籍でしょうし、極端に触れないよう心掛けながら過ごしている人に...
新書 「忘れられた日本人」 宮本常一 星3つ
1. 忘れられた日本人国際化が進み世界的に人の交流が活発になっていく中で、国境の存在感がますます曖昧になっている現代。欧米では移民に対する反発を通じて、「~国民であること、~民族であること」を強調する集団が力をつけてきています。日本でも観光客のみならず、事実上定住している外国人の数は増え続けており、更に外国人労働者の受け入れ条件が緩和されるなど、国際化の波に乗ろうとしているわけですが、その一方で、外国人への侮蔑的な発言を公然と行う人も、SNS上であれ、路上であれ、増加しているように感じます。もちろん、日本人のマジョリティとは異なる文化的背景の中で育ってきた人々の数が増えてくれば、 お互いの文化が溶け合って、折衷的な良い新文化が生まれることも期待できる一方で、 既存の日本的文化との軋轢も当然に生まれてくるでしょう。そういった点で、差別心とまでは言わないまでも、日本人的に暮らしてくれないなら、日本のルールを守ってくれないなら(この「ルール」は法律というより慣習のことです)、来てくれなくてもいい、あるいは、来るのは仕方がないが、既存の秩序や生活が乱されないか心配だと思う人がいるのもある程度自...
新書 「現代経済学」 瀧澤弘和 星4つ
1. 現代経済学古くは傾斜生産方式や所得倍増計画、最近ではアベノミクスなど、どの政権でも経済政策は中心的な分野として扱われ、人々の生活に大きな影響を与えてきました。海外でも、例えば最近の米国における大幅減税と財政出動はトランプ大統領の目玉政策の一つです。そんな経済政策に理論的枠組みを与えてきたのが経済学という分野。共産主義退潮の後は(新)ケインズ主義と新古典派が主要な流派として語られることが多かったのですが、近年になって経済学の捉え方、経済に対する焦点の当て方が多様化しており、経済学の枠組み自体が決定的に変化しつつあります。本書の副題である「ゲーム理論・行動経済学・制度論」がまさにその変革を代表するキーワードと言えるでしょう。本書の序章でも触れられている通り、最近のノーベル経済学賞はこれらの分野の第一人者が次々と受賞しています。そして、入門レベルの経済学の知識を前提に、そういった「現代」の経済学をこれまでの経済学と対比させながら、古今の繋がりとブレイクスルーを過不足ない記述で分かりやすく伝えてくれているのが本書。新しい経済学の流れを概観するのにうってつけの新書です。2. 目次本書の目次...
教養書 「ウォール街のランダム・ウォーカー」 バートン・マルキール 星2つ
1. ウォール街のランダム・ウォーカー1973年の書版発行以来、投資界隈で読み続けられている本であり、2016年発売の日本語最新版が第11版の訳書になります。ネット証券が台頭し、NISAやiDECOといった個人向けの投資制度も充実してきた昨今、投資についての基礎を身に着けておいて損はないでしょう。年金がGPIFによって運用されるようになったことで、年金の現状について一家言持つにはGPIFのポートフォリオを語れる必要が出てきたため、政治学に興味がある立場としても面白いのではないかと手に取りました。評価としては微妙だった、というところですね。全般的に誤ったことが書いてあるとは思わないのですが、世界史や経済・金融の知識が全くない人向け(大学で学んでいない人)の説明が全般的に目立つ一方で、前半のほとんどを世界史上に起こったバブル事例の説明に消費してしまうなど、レベルの統一感がない構成になっており、どういった層を満足させられるのだろうという疑問を感じてしまいました。ウォール街のランダム・ウォーカー〈原著第11版〉 ―株式投資の不滅の真理posted with ヨメレババートン・マルキール 日本経...
【雑感まとめ】教養書 「福祉資本主義の三つの世界」 エスピン=アンデルセン 星4つ
1. 福祉資本主義の三つの世界以前に紹介した教養書、エスピン・アンデルセンの「福祉資本主義の三つの世界」ですが、読みながらぼんやりと思ったことを備忘のために記事にしておこと思います。福祉資本主義の三つの世界 (MINERVA福祉ライブラリー)posted with ヨメレバイエスタ エスピン‐アンデルセン ミネルヴァ書房 2001-06-01AmazonKindle楽天ブックス
「福祉資本主義の三つの世界」エスピン=アンデルセン 評価:4点|「労働力の脱商品化」と「社会的階層化」に着目した福祉国家論の画期的古典【政治学】
アメリカやイギリスなどのアングロサクソン諸国、ドイツやフランスなどの大陸欧州、スウェーデンやフィンランドなどの北欧諸国。同じ先進国と呼ばれていても、これらの国々はそれぞれ大きく異なる政策パッケージを実施しております。しかし、それらの国々の特徴を厳密に区分する指標はいったい何なのでしょうか。もちろん、イメージ論で語ることはできましょうし、個別具体的な政策についてはそれぞれの専門及び関心ある分野で様々な議論があるのだとは思います。ただ、数理的にこれといった境界線を示せと言われるとなかなか困ってしまうのではないでしょうか。そんな「先進国(=福祉国家)の分類」について論じた政治学の古典が本著です。本書を読破することが、先進国同士の福祉国家としての「質」の違いを学術的に勉強するための第一歩になることでしょう。目次本書の目次は以下の通り・第Ⅰ部 三つの福祉国家レジーム第1章 福祉国家を巡る三つの政治経済学第2章 脱商品化と社会政策第3章 階層化のシステムとしての福祉国家第4章 年金レジームの形成における国家と市場第5章 権力構造における分配体制・第Ⅱ部 雇用構造における福祉国家第6章 福祉国家と労...
教養書 「有権者の選択」 平野浩 星2つ
1. 有権者の選択以前に紹介した「二大政党制の崩壊と政権担当能力評価」と同じく、アンケート調査から日本の有権者の投票行動を研究する本です。「二大政党制の崩壊と政権担当能力評価」は「政権交代期における政治意識の全国的時系列的調査研究」というシリーズでまとめられているのに対し、本書は「変動期における投票行動の全国的・時系列的調査研究」シリーズの一つとして刊行されています。とはいえ、その二つの研究が看板を変えただけの続きものになっているのが実質らしく、むしろ継続性のある統計データとして双方の中で扱われているくらいです。しかし、本書は星を一つ下げて星2つとしています。理由は、「データや統計結果に驚きや新鮮さがないこと」と「論全体に有用で核心的な主張がないこと」です。データセットに近いという点では「二大政党制の崩壊と政権担当能力評価」と同じなのですが、それでも、投票行動についてうまく「説明している」とは言い難い、ピントを外した統計処理の当て方や文章での論証がされているように感じました。有権者の選択―日本における政党政治と代表制民主主義の行方posted with ヨメレバ平野浩 木鐸社 2015...
「新築がお好きですか? 日本における住宅と政治」砂原庸介 評価:4点|過度な新築持家推奨政策がもたらした住宅市場の不効率【政治学】
近年、空き家や災害復興を中心に、住宅問題はとみにクローズアップされています。過疎化と少子高齢化が直撃している地方では社会問題化するほど空き家が増えておりますし、(特に東日本大震災の)災害復興においても、「これから人が増えることはない」ことを前提とする非常に困難な住宅や「街」の移転・再建が議論されています。また、住宅問題と関わりの深い「都市計画」という単位にまで視界を広げれば、都会もこの問題とは無縁ではでありません。東京やその周辺ではタワーマンションが林立して価格はバブルの様相。少子化のご時世に小学校が足りないなどという悲鳴が自治体から聞こえてくることさえあり、「保育所建設反対」問題がニュース番組やSNSを騒がせたりもしています。そんな中でタイムリーな出版となったのが本書です。主に戦後の住宅政策について概説しつつ、「持家推奨」「開発優先」な日本政府の政策が今日の状況を招いたことが示唆されます。やや「政治」理論的な面が薄く、新しい概念の提示などがあまりないことは難点ですが、旬の「住宅政策」について総覧した、「これ一冊!」的教科書としては非常に優れた著作だと感じました。以前に平山教授の著書を...
教養書 「二大政党制の崩壊と政権担当能力評価」 山田真裕 星3つ
1. 二大政党制の崩壊と政権担当能力評価 「政権交代期における政治意識の全国的時系列的調査研究」という日本の有権者の投票行動を研究するプロジェクトがあり、その研究成果をまとめたシリーズの一つが本書です。著者は関西学院大学の山田真裕教授。 どのような有権者がどのような考え方をもとに投票行動を行ったかを解き明かすというのが一応の主題ですが、特定の主張をするための本というよりも、上述の調査に寄って得られた生データ・アンケート結果の統計処理後データインデックスのような役割が強いように思えます。いくつかは興味深い分析結果があり、イメージ論で政治を語る前に読んでおきたい一冊です。 二大政党制の崩壊と政権担当能力評価 (〈シリーズ〉政権交代期における政治意識の全国的時系列的調査研究) posted with ヨメレバ 山田 真裕 木鐸社 2017-06-01 Amazon Kindle 楽天ブックス
新書 「スポーツ国家アメリカ」 鈴木透 星2つ
1. スポーツ国家アメリカ著者は慶応大学教授でアメリカ文化研究が専門の鈴木透教授。「民主主義と巨大ビジネスのはざまで」というサブタイトル通り、政治や経済との関わりが意識された内容でした。帯には伝説の野球選手であるベーブ・ルースや、近年興隆するアメリカ女子サッカーの一場面を捉えた写真と共にトランプ大統領がプロレスのイベントに参加する写真も掲載されており、本書の雰囲気が伝わってきます。ただ、内容の質としては、知識面においてWikipedia記事の寄せ集め、論理面においてやや強引なこじつけが多くみられました。「アメリカ・スポーツ・政治・ビジネス」に関心があり、最初からある程度の知識がある人は読む必要がなく、そうでない人にわざわざ推奨するほどの本でもないというのが正直な感想です。スポーツ国家アメリカ - 民主主義と巨大ビジネスのはざまで (中公新書)posted with ヨメレバ鈴木 透 中央公論新社 2018-03-20AmazonKindle楽天ブックス
実用書 「原価計算の本質と実務がわかる本」 関浩一郎 星3つ
1.原価計算の本質と実務がわかる本主に製造業をターゲットとし、原価計算のスタンダードな手法を紹介する実用書。「本質と実務」というタイトルの通り、「なぜその方法が良いとされているのか」を逐一記述しているところが優れています。簿記2級以上を取得しようと考えている方に、工業簿記の勉強と平行して是非、読んで頂きたい本です。図解&設例 原価計算の本質と実務がわかる本posted with ヨメレバ関 浩一郎,菅野 貴弘 中央経済社 2013-09-04AmazonKindle楽天ブックス
実用書 「キャッシュフローと損益分岐点の見方・活かし方」 本間建也 星3つ
1. キャッシュフローと損益分岐点の見方・活かし方タイトルの通り、会計関係の実用書で、売上・利益・変動費・固定費の関係と、営業利益・キャッシュフローのそれぞれでみた損益分岐点について、その計算方法と有用性が紹介されています。関係性の図表と計算式とが各ページに分かりやすく記載されており、辞書的に使用するのも効果的な本だと思います。さて、普段はそんな本をこのブログで紹介することはないのですが、読んでいて思うところがあったので書こうと思います。それは、初等・中等教育における算数・数学の話。「学校の勉強は役に立たないのか」についての話です。キャッシュフローと損益分岐点の見方・活かし方posted with ヨメレバ本間建也 アニモ出版 2010-12-14AmazonKindle楽天ブックス