第7位 「湯神くんには友達がいない」佐倉準
【人情味あふれるおひとりさまコメディ】
・あらすじ
高校二年生の綿貫ちひろは転勤族の父を持ち、これまでも転校を繰り返してきた。
しかし、今回の転校先である上星高校には長くいられる予定。
いくたびも繰り返される転校生活の中で薄い人間関係しか築いてこられなかったちひろは、今度こそ濃密な友人関係をつくりたいと意気込んでいた。
とはいえ、転校ばかりで人間関係に恵まれてこなかった状況がちひろを内気にさせてしまい、なかなか友達をつくることができない。
そんなちひろが上星高校で出会ったのが湯神裕二。
湯神は野球部の2年生エースで、勉強もできる。
けれども、その捻くれた性格から友達ができない、もとい、友達をつくらない人物。
偶然にも湯神の隣席に座ることになったちひろは、湯神が周囲との性格のずれから起こしてしまうトラブルに巻き込まれていき、その中で様々な人と出会うことで図らずとも友情を深めていく......。
・短評
変人である湯神がその性格ゆえにクラスや野球部で引き起こす騒動によるコメディ要素がストーリーの中心となっていて、巻き込まれ役であるちひろが湯神の突飛な行動に振り回されながらも、そこから肯定的な影響を受けて寂しかった人生を一歩一歩前に進めていく、という構成が本作の大枠になっております。
分類としてはコメディ(ギャグ)漫画であり、実際なかなか笑わせてくれるのですが、安易に俗っぽい笑いを取りに来るのではなく、人間心理の深いところを探求し、それをユーモラスに表現しているのが本作独自の魅力。
厳しくすればそれなりに頑張るけれど、雰囲気が緩くなればそれなりダラダラしようとする野球部や、クラスメイトたいの変人(湯神)に対するリアルなあしらい方、普段話さない人同士のぎこちない会話、承認欲求の滑稽さ。
そんな高校生あるあるを交えながら、ときに寂しさや切なさ、やりきれなさといった感情を絶妙に表出させることでほろっとくるような展開もあるという作品で、まさに現代版人情コメディという呼び名が相応しいのではないでしょうか。
また、単なるコメディ漫画としてではなく、主人公であるちひろの青春成長物語という側面から見ても珠玉の出来になっているのが本作の特徴です。
自分の本当の気持ちに嘘をついて、友達が欲しい余りに空回りしている、みんなにとって都合のいい人間。
湯神やクラスメイト、部活仲間と関わる中で、自分がそんな人間だったことにちひろが気づき、本当の自分らしい「生き方」を見つけていく過程には胸に迫るものがあります。
「抱腹絶倒の日常コメディ」であり「内気で不器用なちひろが他者との関わり方を会得していく物語」でもあるという、二重の魅力を持つ隠れた佳作です。
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