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「堀さんと宮村くん」HERO 評価:3点|抑制的な作風が笑いと切なさを誘う、天然色系青春恋愛漫画【ラブコメ】

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堀さんと宮村くん
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2007年からweb上で連載されている四コマ形式のラブコメディ。

いまでこそ大手出版社によるweb漫画雑誌や漫画アプリが乱立しておりますが、当時は各個人がそれぞれのホームページでweb漫画を公開していた時代でした。

そんな「個」の時代において圧倒的な人気を誇った作品のひとつであり、連載開始から1年に満たない2008年にはスクウェア・エニックスから単行本が発売されているなど、web漫画の単行本化による出版という流れの先駆けともなった作品です。

私も一時期、HERO氏のホームページである「読解アヘン」を毎日覗いていたくらいハマっておりました。

2021年にはついにアニメ化されたこともあり、再度手を伸ばしてみようと思い読んでみた次第。

結論としては、当時ほど熱中しなかったにせよ、やはり他の青春漫画(特に最初から商業出版されることを前提に練られた漫画たち)にはない独特の魅力がある作品で、最終話を読んだ後は切なく優しい気持ちになりました。

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あらすじ

学校では生粋のギャルとして通っている堀京子(ほり きょうこ)だが、家になかなか寄り付かない両親に代わって幼稚園児の弟を世話する家庭的で献身的な側面を隠し持っている。

ある日の放課後、耳や唇にまでピアスを付けた男に連れられて帰宅した弟を見て、京子は狼狽を隠せない。

男の説明によると、弟は犬に驚いて転んでしまい、男に慰められながら帰ってきたのだという。

ひとまずは安心した京子だが、男が名乗ったことで堀の狼狽は却って最高潮に達してしまう。

このピアス男こそ、クラスで一番地味な男子である宮村(みやむら)だったのだ......。

感想

一応、青春ラブコメディというカテゴリに入れるのが正解だとは思うのですが、派手なギャグで笑わせるというよりは、地味なボケとツッコミ、的確なキャラクター性で「ふふふ」と笑わせてくれる作品。

恋愛という側面では、少年漫画的でも少女漫画的でもない雰囲気が特徴で、非常にフラットで淡々とした、それでいて青春時代の心理的機微を上手く表現する描写が多い作品になっております。

この「少年漫画的でも少女漫画的でもないのに、中性的で淡白になることなくしっかりと男女の恋愛をしていて、それなのに切なさも表現できている」という絶妙なバランス感こそ、本作が他の作品を引き離している重要なポイントになっていると感じました。

クラスで一番地味な男子である宮村が、実は結構イケメンという要素は少女漫画的でありますが、勉強もスポーツもあまりできず、特技は家業であるケーキ作りという三枚目的な特性もふんだんに盛り込まれています。

それでいて、三枚目的なおふざけキャラでも、作りこまれた「天然」キャラというわでけもなく、彼の自然体がそこにあるのだと感じさせてくれる言動をするのですから、ラブコメディでありながらその空気感にどこか生々しいリアリティが生まれます。

ヒロインである堀さんも、ギャルだけど家庭的で、実は成績優秀。中盤以降は貧乳キャラとして巨乳の友人に嫉妬する側面も見せるという、いかにも少年漫画/ギャグ漫画に出てきそうなスペックになっているのですが、そういった「キャラ」をいたずらに前面へと押し出すことはなく、ギャグパートでも恋愛パートでも等身大の高校生感を失わないのは作者のバランス感覚が卓越していることを感じさせます。

そんな堀さんと宮村くんを取り巻く友人たちも、コメディを行うのに十分なキャラクター性を持っていながら、どこか繊細でたおやかで無暗で情熱的な、薫り立つような「高校生」を演じてくれます。

好きだという気持ちを上手く言えなかったり、そういった感情を心の中でどのように扱ったらよいか分からなかったあの頃。

高校生という時代に、誰もが経験した心情。

それらが巧妙に描かれているという王道さがありながら、物語展開は決して凡庸でなく、登場人物たちが交わす友情や恋情には「こんな高校生活を送ってみたかった」と思えるような眩しさが溢れていますし、それでいて、そのやりとりや心理描写が結構生々しいからこそ、雲の上の眩しさとしてではなく、「自分にもこんな高校生活があり得たのではないか」という悔恨と願望に対して切実に訴えかけてくる、読者の心を掴む眩しさになっています。

小説で言えば、純文学とエンタメ小説を上手にミックスした作品のような感じでしょうか。

底抜けに明るい話があったと思えば、自傷的な感情を静的でほとんど台詞を用いずに描いた話もあるなど、陰陽に幅広い作風、そのどれもが面白いという特徴に「青春の全て」感があって完成度の高い漫画だなと思わされます。

個人的なベストカップルは仙谷翔(せんごく かける)と綾崎レミ(あやさき れみ)で、最も「こんな高校生活を送りたかったな」と思わせられる組み合わせです。

幼い頃はいじめられっ子だった仙谷が、生徒会長とかやってみよう、彼女をつくるんだ、一生懸命に高校生活を楽しむぞ、というポジティブな気持ちで高校生活に臨み、不器用な面がありながらもそんな高校生を実現しているという過程には感動を禁じえませんし、その彼女である綾崎レミが、そんな仙谷の弱さも含めて彼のことを好いている、という点にキュンとしてしまいます。

一生懸命に高校生活を楽しもうと心に決めて、そうなるようポジティブに努力していく。

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