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【学園コメディ】漫画 「湯神くんには友達がいない」 佐倉準 星3つ

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湯神くんには友達がいない
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1. 湯神くんには友達がいない

2013年から「週刊少年サンデー」で連載されていた作品で、2019年7月に最終巻が発売され完結となりました。

連載中にアニメ化がされることもなく、超有名作とは言い難いですが、月イチ連載とはいえ週刊誌連載をやり切って円満完結(おそらく)した作品ということもあり内容はなかなか充実しておりました。

分類としてはコメディ(ギャグ)漫画であり、実際なかなか笑わせてくれるのですが、安易に俗っぽい笑いを取りに来るのではなく、人間心理の深いところを探求し、それをユーモラスに表現しているのが本作独自の魅力になっています。

高校生あるあるを交えながら、ときに寂しさや切なさ、やりきれなさといった感情を絶妙に表出させることでほろっとくるような展開もあるという作品で、まさに現代版人情コメディという呼び名が相応しいのではないでしょうか。

メタ表現や特定クラスタのネタに頼らず、万民向けの普遍的な笑いと感動を追求している点でも卓越した作品です。

2. あらすじ

高校二年生の綿貫ちひろ(わたぬき ちひろ)は転勤族の父を持ち、これまでも転校を繰り返してきた。

しかし、今回の転校先である上星高校には長くいられる予定。

いくたびも繰り返される転校生活の中で薄い人間関係しか築いてこられなかったちひろは、今度こそ濃密な友人関係をつくりたいと意気込んでいた。

とはいえ、高校二年生まで人間関係に恵まれていなかった状況がちひろを内気にさせてしまい、まさに高校二年生の途中で転入してきたということもあって、なかなか友達をつくることができない。

そんなちひろが上星高校で出会ったのが湯神裕二(ゆがみ ゆうじ)。

野球部の2年生エースで勉強もできる。

けれども、その捻くれた性格から友達ができない、もとい、友達をつくらない人物。

偶然にも湯神の隣の席に座ることになったちひろは、湯神が周囲との性格のずれから起こしてしまうトラブルに巻き込まれていき、その中で様々な人と出会うことで図らずとも友情を深めていくのだった。

そんな状況の中で、不可抗力的に湯神との関わりが多くなっていくちひろ。

彼女の目には次第に、唯我独尊だと思われている彼の別の側面が見えてきて.......。

3. 感想

基本的には変人である湯神がその性格ゆえにクラスや野球部で引き起こす騒動によるコメディ要素がストーリーの中心となっていて、巻き込まれ役であるちひろが湯神の突飛な行動に振り回されながらもそこから肯定的な影響を受けて寂しかった人生を一歩一歩前に進めていく、という構成になっています。

とはいえ、ギャグマンガ系にありがちな、あまりにも現実離れしたファンタジーな登場人物がいないというのが本作の良い特徴。

物理的に不可能なことが起こったり、いきなりタイムスリップしたりというような不条理な側面もなく、私たちの日常や実際の高校生活に引きつけて楽しむことができる、いわば真の意味での「日常系」となっています。

作者である佐倉さんが心理学に造詣があるのか、それとも作中で鍵となる落語から学んでいるのか、特に登場人物たちの心理の描き方が秀逸で、日常のこまごまとしたことに対する人間らしい俗な反応が笑いを誘います。

厳しくすればそれなりに頑張るけれど、雰囲気が緩くなればそれなりダラダラしようとする野球部の面子。

野球部マネージャーである久住(くずみ)さんをはじめとした湯神を取り巻く人物たちの、変人湯神に対するリアルなあしらいかた("変人"キャラが妙に好かれていたり、盛り上がるやり取りの中心になったりはしません)。

常に成功するキャラ、失敗するキャラといった非現実的な色分けもされておらず、湯神くんが得意の落語で失敗する文化祭編は孤高の人である湯神のこちらまで恥ずかしくなるような惨めな失敗場面が描かれていて印象的でした。

その後に湯神がもう一度落語をやり直そうとするところ、そしてやり直した落語を褒めるちひろという構図で締めるのは実に上手い。

友情が深まっていく様子が丁寧に描かれています。

また、修学旅行編では人の心は移ろいやすく転々とするものだということが上手く描かれていました。

最後まで男女混合班が決められず、出席番号順の班で修学旅行に行くことになるというどこまでも現実的にありそうなぐだぐだ感から始まるのも構成の妙があり、不本意な班分けがなされて普段話さない人同士のぎごちない会話が発生するというのも生々しくて真に迫ります。

友好度最上位の人と喋れない環境では普段「普通」くらいの人と友好的な雰囲気を無理くりつくって喋るなんてのは日常あるあるですよね。

加えて、その後に遭難からの脱出エピソードが誇張されて噂が広まり、結局、本来は英雄であるはずの湯神がちっとも得しないというのも「現実ってそんなもんだよね」と納得が深い展開でした。

現実っぽさの中で穏やかな笑いをとってくる点はエッセイに似ているかもしれません。

そして、内気で不器用なちひろがゆっくりと友達をつくっていく、というほっこり成長ストーリーの線もまた本作の魅力です。

友達ゼロは脱したとはいえ、教室で喋れるのは湯神と久住さんだけ。

体育の授業等ではどうしても浮いてしまう。

そんなちひろが趣味である羊毛フェルトを活かして手芸部に入り、腹を割って話せる相手がようやく見つかるというのも現実的だからこそ心の底からの安心感を覚えてしまいます。

何事もとんとん拍子ではいかないけれど、少しずつ心理が変わっていって、そして行動を変えていくことができるという人間の繊細な部分であり人生を決定づける部分がよく描かれています。

本作のエピソードの定番パターンとして、褒めること、夢を見させることで人は舞い上がってしまい、そこから滑稽な出来事が生み出されていくという展開があるのですが、それも「褒め」に弱いという人間の性質を上手く表現しています。

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