第5位 「1518! イチゴーイチハチ! 」相田裕
【挫折と再生の青春生徒会物語】
・あらすじ
舞台は埼玉県の「私立松栢学院大付属武蔵第一高校」、通称「松武」
県内トップ公立校の併願校であり、部活も行事も盛んな共学校。
そんな松武に入学したのは、主人公の丸山幸。
同じ中学校の先輩であり、松武では生徒会長を務める亘環から誘われて、幸は生徒会入りを決意する。
そんな生徒会にはもう一人、意外な新入生がやって来ていた。
彼の名前は烏谷公志郎。
強豪野球シニア春日部南の元エースであり、怪我がもとで野球ができなくなってしまった人物。
そして、幸の初恋の人でもある。
幸と環は挫折の真っただ中にある公志郎をどう迎え入れるのか。
公志郎は挫折を乗り越えて高校生活を楽しむことができるのか。
そして、幸が抱く恋心の行方は......。
・短評
一度は挫折した者たちが生徒会活動を通じて生きる楽しさを再び発見していく、というコンセプトが非常に魅力的な作品です。
エースを務めるほどの実力でありながら、怪我によって野球の夢を諦めざるを得ない状態になっている公志郎もそうですが、環や幸もまた挫折を経験した者であるという点が面白いところ。
女子でありながら野球シニア(公志郎とは別のチーム)に所属していたものの、容赦なく拡大する男子との実力差に絶望して野球を辞めた環と、一度は初恋に破れ、中学時代に所属していたバスケットボール部でも自分のやりたいことを見つけられなかった幸。
そんな三人を包み込む生徒会の愉快な面々。
彼らのあいだに芽生える、高校生らしい爽やかな友情には心惹かれること間違いないでしょう。
また、本作で描かれる生徒会活動のリアリティもいい味を出しています。
フィクション作品の「生徒会」は得てして巨大な権限を持ってしまいがちですが、本作はあくまでリアリティ志向。
体育祭や生徒総会といった行事の運営だったり、自動販売機設置の許可を取るための活動だったりと、いかにも普通の生徒会が行っていそうな仕事に全力で取り組みます。
そんな活動のささやかな成果に一喜一憂する幸たちの姿を見ると、「こんな学校生活が自分にもあり得たかもしれない」という妄想が一杯に広がってしまうのです。
リアル志向の学校生活と、挫折と再生のあいだで揺れ動く心理の巧みな描写が美点となっている本作。
普段は一般文芸を読んでいます、という人にこそ刺さるのではないでしょうか。
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