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【政治経済】「平成の通信簿」 吉野太喜 星2つ

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平成の通信簿
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家賃はこの間に上昇(4万8300円→6万1600円)していますから、「手取り」はさらに減少しているわけです。

長時間のアルバイトに身も心も削られ、なのに教科書を買うのもままならず、勉強するための時間も体力も奪われている大学生。

そう考えれば、仕送りの減少も実質的な「教育費」の減少だといえるでしょう。

日々の生活が苦しいようでは勉強という意味で「濃密」な学生活はままなりません。

もちろん、資金の投入量だけが教育の質を左右するわけではありませんが、それでも、子供・若者たちが極めて「薄い」教育をだらだらと22年間受け続けているのが日本の実態であるようです。

「21. 先進国の貧困」では、昨今(政策界隈では)言及されることの多い貧困問題について特集的に取り上げられています。

貧困率(等価可処分所得の中央値の半分以下で暮らす世帯の全世帯に対する比率)は平成年間で上昇し続け、現在15.4%。

基準となっている等価可処分所得の中央値の半分は「貧困線」と呼ばれていますが、これは1997年の149万円をピークに2015年度では122万円まで下がり、貧困の基準が切り下がっていくという事態さえ起こっているのです。

15.4%が高いか低いかについては本書のデータがイマイチだったので自力で調べてみたのですが、OECD( https://data.oecd.org/inequality/poverty-rate.htm)によると2014-2017年のデータで日本はOECD加盟35か国中27位。

日本より下はチリ、メキシコ、ラトビア、リトアニア、トルコ、韓国、アメリカ、イスラエルが並びます。

相対的貧困において日本がこのグループにいるということは意識しておいた方がよいでしょう。

また、より深刻なのは、政府が貧困に対して上手くアプローチできていないということだと思います。

日本はOECDで唯一、社会保障を通じた再配分後の方が再配分前よりもジニ係数が高くなるのです。

再配分による貧困の緩和をどの程度するべきか、という点には議論があり、各国でその程度が違うのは頷けますが、わざわざ再配分システムを用意しておいて再配分の結果相対的貧困を悪化させるという、どうしようもない愚かしさを日本政府は抱えている、ここに甚大な行政の不効率があります。

そしてもちろん、貧困は「特別な貧困層」の問題かといえばそうではありません。

「17. 消費」では、家計支出に占める支出項目のうち、2017年では1989年対比で「被服及び履物」や「教養娯楽」が減少していることも示されます。

全体が少しずつ貧困化している、それは紛れもない事実です。

「23. メディア」 では、平成年間における人々がアクセスするメディアの変化が示されます。

端的に言えば「インターネット」の章なのですが、若者への浸透度合いは相当なもので(逆に高齢者層には驚くほど浸透しておらず)、一日の間にテレビ/ネットを一度でも見た割合を見ると、20代では64%/95%に対して、60代では64%/46%となっています。

テレビの視聴時間、というデータでも、若者ほど短く、高齢者ほど長くなっていて、若者は高齢者と比べて1~2時間ほどテレビ視聴時間の短い傾向にあります。

また、新聞は退潮が著しく、2015年度では1995年度対比で新聞を読む人の割合が全世代で低下しており、2015年度には50代や60代でも半分ほどしか読んでおらず、10代、20代では10%未満という有様。

このようなデータから、著者は世論形成の在り方が異なってくることを指摘していますが、それ以上に、というより、より身近な現象として、世代ごとの「話の合わなさ」が顕著になってくるでしょう。

それが家族だろうと職場だろうと地域だろうと、共同体を形成するうえで最も重要なのは私的コミュニケーションの分野です。

私たちがお互いを共同体の一員として情を感じ続けるためには、これまでの「テレビの話題」中心文化から円滑に移行し、全く新しい話題形成をしていく必要があるのだと思います。

第4章のタイトルは「身体・健康から見る30年」。

高齢化、医療費、体格及び身体能力、そして死に方といった、成熟社会・高齢化社会で課題となっている諸事項が取り上げられています。

その中でも、本記事で取り上げるのは「24. 高齢化」「25. 医療費」「26 身体」「27. 死」です。

逼迫している一方で繊細な問題のため、普段は目をつぶりがちな日本の課題。

それがデータとして赤裸々に表れている章になっています。

「24. 高齢化」と「25. 医療費」では、平成年間における寿命と高齢化率の伸長度合い、そして増え続ける医療費についてのデータが示されます。

2016年では1990年対比で男女とも平均寿命が5歳延び、女性は87.1歳、男性81.0歳になりました。

65歳以上が人口に占める高齢化率については、1990年に11.9%だったのが2017年には27%と人口の四分の一を超え、これは世界第1位の水準です。

年齢の中央値は46.3歳と、既に人口の半分以上が45歳になっております。

そして、医療費の伸びも顕著です。

公的保険給付と自己負担分を足した国民医療費は1989年に20兆円だったのが2017年には42兆円となり、GDP比でも5%から8%を占めるまでになっています。

こう書きますと高齢化が医療費の増加に拍車をかけているように感じられますが、高齢化の後に医療費をもってくる構成をとりつつ、そうではないんだと主張するのが本書の面白いところ。

2015年度の医療費の伸び3.8%要因別に分解すると、高齢化の影響は1.2%、残りは純粋な医療費の伸びであり、その真因は高額な薬の増加による薬価の上昇だと述べられます。

効用ではなく原価に基づいて薬価が決まる制度のもとでは、ごく僅かな効果しかないのに開発費が高い薬をつくるインセンティブを製薬会社に与えてしまい、無暗に医療費を伸ばしてしまう点が指摘されています。

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