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アニメ映画 「きみと、波にのれたら」 監督: 湯浅政明 星2つ

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きみと、波にのれたら
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1. きみと、波にのれたら

今月(2019年6月)公開されたばかりのアニメ映画で、監督は湯浅政明。初期の「クレヨンしんちゃん」や「ちびまる子ちゃん」における特徴的な作画で知られ、近年はアニメ映画の監督として精力的に作品を発表しています。当ブログでも「夜は短し歩けよ乙女」と「夜明け告げるルーの歌」の記事を書いています。

「夜は短し歩けよ乙女」湯浅政明 評価:3点|夜の京都を舞台にした不思議で楽しい幻想恋愛エンターテイメント【アニメ映画】
森見登美彦さんの人気小説を原作に、湯浅政明監督が映画化。「夜明け告げるルーのうた」でアヌシー賞を受賞された監督です。小気味よいファンタジー展開に加え締りの良いラストシーンは印象に残ります。エンターテイメントとしてはこういう作品がもっと世に出て欲しいですね。あらすじ冴えない大学生である「私」は美しき後輩、黒髪の乙女に恋をしていた。そんな「私」が乙女との距離を埋めるために執っていた作戦、その名も「ナカメ作戦」。「ナるべくカのじょのメにとまる」の略であり、要は付け回して偶然を装いすれ違うだけの行動である。サークルOB・OGの結婚式の二次会に参加している今日も、二次会で乙女に近づくチャンス。しかし、乙女の行先はいつも気まぐれ。夜の先斗町で飲み歩いたり、幼き日に読んだ絵本を探して古本市を訪ねてみたり、文化祭のゲリラ演劇で代役ヒロインを務めたり、風邪のお見舞いに京都じゅうを駆け巡ったり。そんな乙女に(勝手に)振り回される「私」と、幻想的なほどに可愛らしい「乙女」。そして、主人公を取り巻く愉快な大学生と大人たちが織り成す、一夜限りのファンタジックエンターテイメント。感想湯浅監督らしい、現在の日本にお...
【音楽の映える青春アニメ】映画「夜明け告げるルーの唄」湯浅政明 評価3点【アニメ映画】
あらすじ舞台は田舎の港町、日無町。主人公のカイは音楽以外にハマるものはなく、無気力な生活を送っていた。そんなある日、動画投稿サイトに自らが打ち込んだ音楽をアップしたことをきっかけに、カイは同級生である遊歩と国夫のバンド「セイレーン」に誘われる。バンドの練習の帰り道、密漁を行う青年二人に襲われかけたところを、カイたちは人魚の少女ルーに助けられる。音楽を通じた交流により打ち解け合っていくカイとルー。町の人々にも好意的の受け入れられていくルーの存在だが、ある日、町おこしのためにルーを使うことが企画され……。悩みを抱える少年少女と小さな人魚の、町を巻き込んだひと夏の物語。感想序盤からこんなにもぐいぐいと引き込まれる映画は久しぶりでした。フラッシュアニメーションによる独特の絵柄がかえってリアル感を増していて、いわゆる「アニメ絵」とは一線を画す表現に生々しさがあります。テンポもたいへん良いものながら展開にも無理がなく、ルーがクーラーボックスを飛び出して砂浜で踊るシーンあたりまでは傑作だと信じて疑いませんでした。しかし、その後はやや冗長。人間の「恐ろしさ」を感じたルーの混乱と、それを助けようと町に乗...

ヒーロー及びヒロインの声優にGENERATIONS from EXILE TRIBEの片寄涼太と元AKB48の川栄李奈を起用し、湯浅監督としては珍しいストレートな恋愛ものという触れ込みだった本作。ストーリーは凡庸で、台詞回しとファンタジー設定はちょっと無茶という印象を受けました。

2. あらすじ

大学入学を機に引っ越した向水ひな子(むかいみず ひなこ)。サーフィンが大好きで、マンションも海の見える場所を選んでいた。しかし、引っ越し早々、マンションは火事に遭ってしまう。

迫る火の手から命からがら屋上へと向かったひな子を救ったのが消防士の雛罌粟港(ひなげし みなと)。惹かれ合い、恋人なった二人だが、ある日、港は海難救助で命を落としてしまう。

意気消沈するひな子。しかし、ひな子が港との思い出の歌、"Brand new story"を口ずさむと、水の中に港の姿が見えるようになって......。

3. 感想

導入は悪くない、と当初は思いました。偶然に出会った二人が趣味を通じて惹かれ合っていく、恋人として関係を発展させていく様子を描く、というのはありがちですが、まっすぐな恋愛を主軸に据える作品が少ない中で個人的には好きな展開です。ヒーローとヒロインが「素敵すぎる」人間であり、やや普通の人間にとって感情移入しづらいのがネックというくらいでしょうか。

しかし、港が亡くなってからのファンタジー展開は微妙。歌をうたうと水の中に港が現れ、会話もできる。港は水になっているので、自分(=水)を操ることができるという代物なのですが、だからどうしたという感じがしてしまいます。水になった彼氏を水筒や水で膨らませるイルカの人形に入れて一緒にデートに行く風景はおぞましいだけで、それを見た周囲の反応も彼女を訝しむものなのですが、それでも足りないくらいだと思います。しかも、港が水になっている、というギミックが物語に上手く活かされることはなく、そのファンタジー設定は必要なのかと思ってしまいます。「頭の中で声が聞こえる」とか「幽霊になって現れる」との差別化がなく、そもそも水になる必然性もほとんど説明されないので物語への没入が冷めてしまいます。

加えて、謎の抽象的会話が若者同士の恋愛ドラマという興趣を削いでます。「波に乗れなくなった」という台詞を挑戦する気持ちや将来を見通せなくなってしまうことの比喩としてひな子と港が当たり前のように使ったりするのはあまりに現実味のない、「アニメ的」会話になっていて、リアル路線の恋愛ものには似つかわしくありません。

また、サブキャラの性格や同士の関係も薄っぺらいものです。港の妹である洋子はブラコンで他人にはツンデレ気質といういかにもなアニメキャラ、港の後輩の川村山葵も「頼りになる先輩を頼る情けなくも可愛い後輩キャラ」の造形そのままで、テンプレが過ぎます。山葵が洋子に「洋子ちゃんは洋子ちゃんのままでいい」と言ってくれたことをきっかけに洋子が山葵を好きになる、というのもアイデアとしてはありなのですが、一切の掘り下げをせずにそれだけで洋子と山葵を付き合わせるのは性急な印象を与えます。所詮、フィクションの恋愛なのだという心境になり、決してロマンチックでドラマチックな物語として受け取ることはできないでしょう。

最後、水になった港が大火事をファンタジー的な力で消火するのですが、これも結局、港が単独で奇跡を起こすのであって、ひな子や他の面子が何か主体的な役割を果たすことはありません。水を操れる港が火事を消せるのは当然であって、これほど苦労なく、ファンタジー設定だけで問題を解決してしまっては拍子抜けです。現実にはそんなファンタジーがないから苦労しているというのに。

結局のところ、主人公たちが(ファンタジー的な能力以外の面で)どんな努力や苦労をしたのか、主人公たちの気持ちがどれほど深いものなのか、という根幹が薄かったという感想になってしまいます。そこで最初の恋愛が進行する展開に戻りますと、ここで恋の障害を乗り越えたり、なにか欠点が露出するもそれを許し合う、というような捻りがなかったのも良くなかったのかなと思ってしまいます。やはり、ひな子と港のあいだにある関係の深さ、ここが上手く表現されていなければ、ひな子が港を過度に想う気持ちや、港がファンタジー設定でひな子を救うシーンも感情移入しきれません。

4. 結論

鑑賞が苦しい、というほどではないですが、この時世にストレートな恋愛を描こうとしてみたという以上の良い点がない作品。「君の名は。」の悪質な二番煎じに見えないこともなく、ただアニメでファンタジーorSFで恋愛をすればいいというものではないのだなと思わせてしまう作品です。

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