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【選挙制度改革を検証する】教養書「現代日本の政党政治」濱本真輔 評価:4点【政治学】

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現代日本の政党政治
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ときに相矛盾する各議員の選挙公約は自民党内における政策決定において事後(選挙後)調整され、各候補者や各有権者にとっては選挙時に言った/聞いたものとは似ても似つかない政策がアウトプットされることも多かったのです。

1990年代の政治改革はこうした有権者にとって不透明な政策決定過程への変更を目論んだものでありました。

選挙前に議員間の調整が済まされ、各政党の議員が統一的な選挙公約を掲げ、選挙後にはそれを忠実に守って実行していく形式が理想とされていたのです。

そして、それを実現する手段こそ、小選挙区制であると考えられていました。

政党ラベルが重要視される選挙戦が予測される中で、各政党の中央執行部は公認権を梃に単一の選挙公約を各議員に普及させ(場合よっては選挙公約に従おうとしない議員を公認せず、選挙公約に従える人物を公募して差し替える)、選挙後においては次回の選挙に向け政党ラベル(政党ブランド)を傷つけないよう、その選挙公約を果たしていくだろうというわけです。

しかし、現実の政策決定過程が事前調整に成功しているかといえば、そうとは言えないというのが本書の結論です。

公募候補であるか否かは政党との政策距離に対して有意とはいえず、現在においても政党の公約と自分の意見とのあいだに隔たりがある場合に公約を優先して対応するという議員は少数にとどまります。

事前調整がまずまず効果を発揮するのは政党/党首の世間的評価が予め高い場合だけであって、個々の議員の中には政策を事前調整するインセンティブはなく、世間的評価の低い自党の世間的評価(政党ラベル価値/政党ブランド)を上昇させようとする動きというよりは、自党と自分とを切り離して評価するよう有権者に訴える傾向が強いようです。

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第9章 執行部主導型党内統治への変容

第9章のテーマは、人事面における党内執行部への集権です。

小選挙区制のもとでは派閥の力が弱まって執行部の力が強まるはずという理論は繰り返し述べている通りですが、そうなれば、人事のおいてもこれまでは首相や執行部が各派閥に配慮していたような側面が後退し、比較的自由な裁量による大胆な人事が展開される可能性が高まるだろうと予測されます。

つまり、派閥単位で選挙を戦っているような状況では「選挙に勝ってくれる派閥に執行部が気を遣う」をしなければなりませんが、政党単位で選挙を戦うとなれば「政党単位での選挙で有利になるよう政党ラベルを高めるような内閣を組む」にシフトするはずというわけです。

本書の検証によると、現実はその通りになっておりまして、政治改革以降、特に小泉内閣期を境にかつての派閥均衡による大臣枠割り振りは必ずしも守られなくなっております。

自身を支える主流派を優遇し、非主流派を派閥自体の人数比以上に冷遇する人事が平然と行われるようになっているのです。

また、民間人の起用や当選回数が少ない議員の抜擢も小渕内閣あたりから増加し始めており、首相や執行部の裁量が強まっていることが伺えます。

しかしながら、その反動なのかは分かりませんが、本書では議員の造反が政治制度改革以降増加しているというデータも提示されます。

そして、かつては造反議員が大臣に就任する確率は造反したことがない議員を遥かに下回っていたところ、いまでは造反したことのある議員の方が大臣に就任する確率が高まっているということです。

この現象には二つの見方があると筆者は述べています。

一つ目は、造反するような非主流派が次期において主流派を奪還した際に、新主流派優遇、旧主流派冷遇人事が行われるために生じるというもの(森内閣期に造反した議員が小泉内閣で大臣に就任しているなど)。

二つ目は、党内融和を図るために首相が造反組を積極的に取り込む場合があるというものです(安倍内閣以降において郵政造反組が登用されている)。

個人的には②は①に内包されている(郵政造反組が主流派にカムバックした)ような気もしますし、なんとなく根底も同じところにあるように思います。

「選挙に勝つ」ということについて派閥が必要なくなり、逆に政党ラベルが必要となった結果、首相や執行部はまさに「選挙に勝つ」ために派閥というものを棚に上げてでも選挙に勝てるような見栄えのする内閣を構築するようになったのでしょう。

ただ、そこで切り捨てれた議員からすれば、指をくわえて見ているだけでは自分の出世の道が閉ざされてしまうわけですから、一か八かの造反に賭けるのだと思います。

個人的補論

さて、以上が本書から得られる知見なわけですが、個人的な感想を述べますと、政治制度改革には誤算があったというか、ちょっと期待し過ぎという面があったのかなと思います。

もちろん、選挙制度が小選挙区比例代表並立制になったことで、様々な変化は起きました。

派閥の力は縮小したのでしょうし、政党ラベルが重要となって政党同士の対決という側面が選挙において濃くはなったのでしょう。

有権者も候補者の所属政党を重視し始めているというデータも直感的に頷けるものです。

そして、政党の側としても派閥にとらわれない人事をしたり、候補者の公募を始めたりと、一定の対応をしてはいるようです。

ただ、そういった動きは、いわゆるゲーム理論的な、小選挙区における1対1対決なら候補者を1人に絞って政党単位でその人をバックアップするのが有利な戦略だという単なる当選戦略上の帰結にすぎず、政治制度改革の大きな目的の一つであった政策重視(あるいは選挙公約重視)の選挙や政治が展開されるところまでは至らなかったし、それも当然だろうという思いです。

というのも、単に選挙制度をいじっただけでは、有権者の側が政策を見るようにはならなかったということだと思います。

おそらく、中選挙区制度のときでさえ「この人ならなんとなく自分の属する地域や団体に良いことをしてくれるだろう」というイメージで投票先を選んでいたのであって、それが小選挙区に変わったところで、「この人」が「この政党」、「地域や団体」が「国」に代わっただけで、なお政策をつぶさに見ようとはしていないのだと思います。

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