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【選挙制度改革を検証する】教養書「現代日本の政党政治」濱本真輔 評価:4点【政治学】

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現代日本の政党政治
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第5章 個人中心の選挙区活動、選挙運動の持続

第5章のテーマは、政治制度改革後の選挙運動です。

中選挙区制から小選挙区比例代表制への移行に伴い、理論上、選挙運動の方法が変わっていくであろうと予測されていました。

つまり、中選挙区制のもとでは同一政党から出馬している候補同士の争いがある以上、(ある政党の公認候補であるということだけでなく、複数の同一政党候補のなかでもとりわけ自分が優秀なのだという)候補者個人としての認知が重要であり、選挙区内をくまなく歩いて自分を売り込み支援を求める「どぶ板選挙」が主流となっておりました。

しかし、政党ラベルが重要な小選挙区制のもとでは、選挙は政党支部を中心に政党ラベルをアピールする場となり、そもそも、政党ラベルが重要なのだから、議員は選挙区での個人的活動よりも中央における政党貢献活動を増やすことで政党ラベル自体の魅力を上げに行くだろうと考えられたのです。

しかし、本書では個人中心の選挙区活動が継続しているという結果が示されます。

議員が選挙区入りする日数が目に見えて減少することはなく、利益団体との接触こそ少なくなっているものの、選挙の際に政党ラベルの魅力を積極的に訴えかけるようになっているかといえばそうでもないという分析になっております。

自党への批判が厳しい場合や、若さをアピールできる場合、あるいは日本維新の会など第3党以下の候補者が存在していて対立軸が複雑になっている場合などに、候補者は政党ラベルよりも個人の資質・業績アピールに執心する傾向にあるようです。

第6章 族議員の変容

第6章のテーマは、「族議員」です。

特定分野の利益団体と強く結びつき、特定分野における政治活動を重点的に行う「族議員」的な行動は旧来の自民党において一般的でありました。

学術研究の主流派において、これはまさに中選挙区制がもたらす帰結であると結論付けられております。

つまり、①同一政党の候補者同士の争いになるため、自分自身に投票してもらうためには、ある有権者が自分の所属政党を支持しているうえで、なおかつ、他の自党候補者ではなく自分を選んでもらえるようなプラスアルファが必要であること、②当選に必要な得票率が低く、特定分野の票を掴んでしまえばそれだけで当選できること。

これらの要素が「族議員」化を合理的なものにしていたわけです。

しかし、小選挙区制では「族議員」化へのインセンティブは反転すると考えられます。

同一政党から出馬している候補と争うことはまずないうえ、特定分野に集中するだけでは過半数有権者の心を掴むことはできませんし、それどころか、単一特定の分野に集中している人だと思われてしまうと、その分野以外に利害関係のある人々、つまり多数派の人々から、自分たちの利益を剥ぎ取って単一特定分野へ流すのではないかと訝しまれてしまう恐れすらあります。

そして、本書における検証ではまさにこの通りという結果が出ています。

議員たちは接触する利益団体の種類を増加させ、政党内における部会への参加も特定部会への集中が和らぎ、国会での発言数を増やすことで党執行部や全国利益重視の有権者へアピールしようと試みています。

中選挙区制で見られた典型的な選挙区内での族議員分野住み分け的活動は衰退しつつあり、各議員は小選挙区時代あるいは政党ラベル時代の議員活動へとシフトしているようです。

第7章 分権的政党内制度の変容と持続

第7章のテーマは、自民党における党内制度改革です。

理論上、小選挙区制を導入することで、中選挙区時代よりも派閥による支援の影響が薄れ、政党による公認が重要になります。

すると、政党内でも各派閥よりも中央執行部の力が強くなり、その結果、政党内では中央集権的な制度が確立されていくはずだと予想されます。

しかし、本書による検証ではその進展度合いは微妙といったところです。

特に小泉内閣期を中心に、公募による候補者選定が開始されたり、総務会等の事前審査における全会一致慣行が破られたりと中央集権的な経験がなされたこともありました。

しかし、それらは例外的な位置づけに留まり、候補者選定における現職優先の慣行や事前審査における全会一致の慣行は温存されたままです。

特に、選挙過程を中心とした領域では中央集権化がそれなりに進んだものの、政策決定過程における分権的な制度は温存されたままであると本書は強調しております。

加えて、選挙制度改革直後というよりも小泉内閣期に中央集権化が進展したことから、政治制度改革だけがこれらの中央集権化を後押ししたというよりは、そこに党内基盤の弱い首相/総裁(=小泉首相)の再選戦略という要素が加わったことで、党内制度に楔を打ち込む機会が生まれたと本書は分析しています。

第8章 事後調整型政党政治の持続

第8章では特に政策決定過程に注目し、選挙時に事前決定された政策(選挙公約)が守られる政治が行われているのか、それとも、選挙公約はしばしば反古にされ、選挙後の事後決定的な政治が続いているのかという点が分析されます。

中選挙区制時代においては、まさに事後決定的な政策決定が定着しておりました。

これは選挙制度から導かれる必然であると学術的にも考えられております。

つまり、同一政党から出馬している候補との違いを見せるには、政党が掲げる政策とはまた違う自分ならではの観点・公約が必要となるわけで、そうなると、各候補が各選挙区で選挙中に約束したことの総体は魑魅魍魎な総花的政策集になってしまいます。

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