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「SHIROBAKO」水島努 評価:5点|アニメ業界で働くことのリアルな苦難、その先にあるのは青春の友情を彩った夢の実現【お仕事アニメ】

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SHIROBAKO
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容姿が並み以上でコミュニケーション力のある彼女が声優の仕事を獲れない。

しかも、中盤以降は作中で製作されるアニメ「第三飛行少女隊」に関わっていないのが彼女だけとなる。

自分だけが約束の地である「一緒にアニメ制作」の現場にいないことが明らかになり、坂木しずかの惨めさが露わになる場面の気まずさだったりを逃さず描写するのがこの作品の良いところです。

暗い部屋で一人、安いプライベートブランドのお酒を飲みながら、テレビに映る女子高生アイドル声優に対して坂木しずかが不穏な言葉を投げかけるシーン。

あのシーンをコメディにしない(布団の上でじたばたするなどの描写を入れない)ところ、真剣に上を目指しているからこそ感じる葛藤と屈辱を表現しようとする真摯さは深夜アニメでそう見られるものではありません。

しかし、そんな場面においてさえ、坂木しずかは自らの貧しさを嘆いたりしませんし、他の登場人物もそのことに言及して慰めたり、気を遣わせたりはしない。

偶然なのか、意識して徹底されているのか、いずれにせよこの作品を傑作に仕立てています。

さて、このアニメ業界一直線な二人+迷いながらも武蔵野アニメーションに就職した宮森あおい以外の、藤堂美沙と今井みどり。

5人で同じアニメを作る、が最終目的の作品であるからには、当然この2人も物語中盤からアニメづくりに関わるようになってきます。

藤堂美沙はスーパーメディア・クリエイションズを辞め、スタジオカナブンに移籍するという形で。

今井みどりは、宮森あおいが作品設定についてのちょっとした調べものを今井みどりに頼んでいたことが社内で発覚し、武蔵野アニメーション全体としても今井みどりに頼ろうということになるのが契機となって作品づくりに参画します。

藤堂美沙も待遇だけでスーパーメディア・クリエイションズに入社したのではなく、アニメのことが頭に残っていて、このスーパーメディア・クリエイションズの社長が元々有名な3DCGアニメに関わっていたことを知っての入社という設定になっています。

その社長に「もうアニメは作らないんですか?」と問い、「自動車関連の仕事を受け続けているから安定していて給与も良い」と返される。

社長の言葉を聞き、藤堂美沙は覚悟を決めてアニメの仕事を請けている会社に入るのです。

藤堂美沙は5人の中でも描かれるエピソードが比較的少ないのですが、良くも悪くも「最も常識人に近い」からなのでしょう。

手に職がつけられる3DCGの専門学校に進学、いったんは安定した職場に就職するも、アニメ制作という夢を叶えられないことについて思い悩む。

アニメ一直線の安原絵麻や坂木しずか(+この作品に出てくるアニメ業界の人々の多数)や、アニメ業界志望ではあるものの、大手に就職できなかったからという理由で武蔵野アニメーションにやって来た宮森あおい、まだ大学生で社会を知らない今井みどり。

藤堂美沙の「安定した業界を辞めてまでアニメ業界に関わる」という決断はこのような人々の人生とは対照的であり、藤堂美沙のような視点・エピソードが挟まるからこそ、アニメ業界が本当に「夢を追うだけの業界」であることが際立ちます。

声優を目指すということがアイドルやお笑い芸人を目指すのと同じとことなのだ、ということくらいは素人でも想像がつきますが、3DCGの技術者でさえアニメ業界に入ると不安定で博打な人生になってしまうというのはなかなか驚きですね。

そして、今井みどりは「武蔵境の駅にディーゼル車が通っているかどうか」というアニメ設定上の調査を宮森あおいの代わりに行ったことがきっかけで武蔵野アニメーションでアルバイトを始めることになり、ここから「五人でアニメをつくる」という夢の舞台へ登壇してくることになります。

この展開にリアリティがあるか否かはアニメ業界に詳しくないのでどうとも言い難く、判断しかねるところです。

普通の会社であれば外部の大学生に調査を手伝って貰うなどあり得ないことですが、コネ(それも積極的に作ったものではなく、「知り合いだから」程度で)や偶然によって制作に関わるようになる、というのがいかにもありそうな業界なので、そういった他の業界にはあまりない慣行を反映した立ち位置のキャラクターとしてアニメ業界の側面を描写しているのなら素晴らしい脚本・設定構成だと思います。

彼女自身は非常に押しが強く、シナリオライターに自分を弟子にしてもらうように頼みこんだり、独特の個性で職場に素早く馴染んだりと、こういう人が成功するんだろうなという要素が詰め合わされていて、「コネ」業界で活躍する要素とは、という点でも、こんなものなのだろうなと思わされます。

ちなみに今井みどりは大学生ながら宮森あおいと同じアパートに住んでおり、「3DCG業界>大学生(仕送り有)≧零細アニメ会社の制作進行>アルバイトをしている売れない声優>専業アニメーター」という生活格差をしっかり描き出しているのは、繰り返しになりますが生々しくて良いところです。

このような、現実的で微妙な職業間格差をコミカルあるいは大雑把に描ったりせず、淡々と背景描写として挿入できる作品は意外と少ないものです。

宮森あおいが大手アニメーション制作会社に面接で落とされ、「しょぼいけどアニメ業界だから」という理由で面接を受けに来るのが安原絵麻の所属する武蔵野アニメーションであるというのもさらりと描かれますが、友情という観点からは緊迫感のある状況ですし、アニメについて学んだわけでもない短大新卒の宮森あおいの方が、高卒3年目で既に職業人としてのキャリアを積んでいるアニメーターの安原絵麻より待遇が良い、というのも異様な慣行を上手く表していて好みです。

あおい入社直後の二人の会話なんかを聞きたいですね。

そして、宮森あおい、安原絵麻、藤堂美沙、今井みどり、と次々に元アニメーション同好会員が同じアニメ(第3飛行少女隊)の制作に参画していく中で、一人取り残される坂木しずか。

しかし、第3飛行少女隊最終話の脚本が土壇場で変わり、新しく投入されるキャラクター、ルーシーの声優としてしずかが抜擢される、というクライマックス(最終回の一つ前の話なのですが、実質これがこのSHIROBAKOのクライマックスです)を迎えます。

この展開に至るまでには数多くの、なかには見え見えの伏線まで大量に敷き詰められるのですが、それでも感動はひとしおでした。

22話分、みっちりと「坂木しずかの屈辱的な日々」を様々な角度から描いたこその感動でしょう。

「声優を目指している友人がちょい役を当てる」ことを最後の盛り上がり要素にするという脚本で、ここまでの熱い盛り上がりを持ってくる水島監督の力量には驚かされるばかりです。

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