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アニメ 「響け!ユーフォニアム2」 監督:石原立也 中編(第5話) 星5つ

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響け!ユーフォニアム2
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1. 響け!ユーフォニアム2 中編(第5話)

高校吹奏楽アニメ「響けユーフォニアム2」の感想、前編に続き中編です。

といっても第5話だけを取り上げるのですが、関西大会本番での演奏を描いたこの話は前後の「吹奏楽部の猛練習と繊細な人間関係という日常」とは別の角度からも語るべき題材で、前編の内容と混ぜるのは良くないと思い分けました。

近年のアニメシーンの中でも傑出したいわゆる「神回」と形容すべき話で、これ以降TV放映の30分アニメを作成するにあたっては必ず参照されるべき作品に「響け!ユーフォニアム」を押し上げた話だといえるでしょう。

黒沢ともよ (出演), 石原立也 (監督) 形式: Blu-ray

2. あらすじ

関西大会まであと1日と迫った北宇治高校吹奏楽部。
夏休み中に指導にあたった橋本真博(はしもと まさひろ)と新山聡美(にいやま さとみ)の退任が発表されるとともに練習は終わり、ついに本番を迎える。
本番当日、副部長である田中あすかが大会にかける思いを部員の前で話し、部長である小笠原晴香(おがさわら はるか)の掛け声で気合を入れる部員一同。舞台裏でも、思い思いの方法で演奏へと精神を昂らせてゆく。
そしてついに、北宇治高校の演奏順が訪れる。
顧問である滝昇(たき のぼる)の腕が振られ、始まった演奏。
北宇治高校の熱い夏。果たして全国大会へと進むことはできるのか……。

3. 感想

なんといっても現実のコンクール演奏時間12分間をそのまま再現した後半部が傑出しています。

これまで作中で北宇治高校吹奏楽がずっと練習に取り組んできた「三日月の舞」と「プロヴァンスの風」の二曲。

断片的にしか聞くことのできなかった演奏がここにきて視聴者の前でフル演奏で披露されるという構成は素晴らしいとしか言いようがなく、全く台詞のないシーンが12分間続くにも関わらず聞き入ってしまいます。

もちろん、その聞き入ってしまう理由は単に演奏の上手さだけではありません。

演奏の間には各部員の動きや真剣な表情が巧みな光の描写の中で活き活きと映し出され、想い出の写真と激励の言葉に溢れた譜面を映したカットが挿入されるなど、現実で演奏会に足を運んだのでは得られない視覚的な情報が入ることで聞き入るだけでなく見入るような演出になっています。

これまでのストーリーで部員たちの練習風景や仲たがいと仲直りを見てきた視聴者にとって、最終的に部員たちが一つに纏まって演奏している姿、それまでの「紆余曲折」が詰まったような写真・激励の言葉、真剣で切迫した表情などは真に迫るものがあるでしょう。

多くの「部活もの」のアニメやドラマにおいて、こうした「本番」や「試合」のシーンは適当にカットされ、いわゆる「山場」だけがクローズアップして描かれます。その間は「~だった」のようなナレーションで埋めるか、スコアボードを映したりして視聴者に理解を求めるわけです。

確かに、現実のプロの試合ですら観客は途中で退席して食べ物を買ったり雑談を行ったりするわけですし、演奏会でもずっと集中できている人はそれほど多くないでしょう。

それを考えれば、たかだかフィクションの、アニメやドラマにおいて試合や本番をフルで描いてしまえば冗長もいいところ、それが一般的な見方なのかもしれません。

しかし、アニメやドラマには現実における一般人が見るプロの試合や演奏とは違うものがあります。

視聴者はそれまで部員たちが歩んできた軌跡を知っていますし、それに共感し、心を揺さぶられているからこそその作品を見続けているわけです。

例えば、高校野球や高校サッカーの試合でも、自分にとって馴染みのある学校であったり、親戚・友人が出場していたりすると見る目が違うと思います。典型的な「ずっと応援し続けてきた親」であれば、たとえルールをよく知らなくとも「ストーリーを共にした」子供の試合をじっと祈るような気持ちで見ているでしょう。

そんなとき、選手の一挙手一投足が気にかかり、心を動かされるはずです。

つまり、「本番回」以前の段階で一定以上の感情移入が為されていれば、視聴者も試合・演奏の全編を見たいと思うのではないでしょうか。その意味で、「演奏を全て聞かせる本番回」を為したこの「響け!ユーフォニアム」の功績は大きいと思います。

そもそものストーリーの骨子や展開がしっかりしていれば、「本番」を1秒でも削ることは悪影響を与え、むしろ「フル演奏」が評価される。劇的な展開や山場など「本番」には必要なく、ただ「本番」の1秒1秒が緊張感を生み出せるはずです。

野球でいえばツーアウト満塁で「ない」場面、サッカーで言えば同点のロスタイムでは「ない」場面でさえ、ここからどうなるのかと見入ってしまうはず。それこそが、高品質の作品である証左となるはずなのです。

さらに言えば、「一挙手一投足に注目した視覚的演出」はアニメならではであると思います。

ドラマでは演技を俳優が行っており、俳優はプロのスポーツ選手でも音楽家でもありません。そもそも「フルでその道の専門の人々の動きをする」ことはできないのです。

野球でも、サッカーでも、吹奏楽でもそうです。

もちろん、その道の専門家の人々は肝心の「演技」ができないため、俳優として日常場面を演じさせることが困難であります。実写ドラマでは素人試合・素人演奏をするしかなく、それをずっと見させられるのは苦痛で、そこまでの感動も一気に冷めてしまうでしょう。

それでは、アニメではどうでしょうか。

この「響け!ユーフォニアム」では、運指や楽器の扱い方などもかなり現実的に再現しており、演奏そのものはプロに近い方々(洗足学園音楽大学フレッシュマン・ウィンド・アンサンブル)が行っているので一般的な高校生より遥かに高いレベルを出すことが可能です(さらに、絶妙な手抜きによって作中人物や北宇治高校吹奏楽部全体のレベルアップが表現されています)。

これは登場人物が「絵」で描かれ、音楽が「挿入されるもの」であるアニメでしかできないことであり、「アニメ」であるにも関わらず、それまでのストーリーによる登場人物への共感と、決してしらけない、むしろ動きや音が現実に忠実な演奏により生々しく迫真にせまる「フル本番」シーンは実現されています。

こうした意味で、「アニメが他の表現技法より優れている」こと、「アニメでしかできないこと」をやりきった作品だと言えるでしょう。

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