交通事故であったり、生まれつき足が不自由だったり、両親が早世していたりということです。
これらの設定は、確かに主人公たちを「可哀想」だと思わせますが、とても薄い共感に留まるのではないでしょうか。
フィクション作品において「可哀想」感を出すための設定としてはもはやありふれていますので、また「生まれつき~」や「家庭環境が~」パターンかとしか思えません。
そういった設定があるから、こういう苦労をしている、という描写も、しっかり描写されるのは車椅子で動くことに対する世間の冷ややかな態度だけであり、それは「車椅子で生活するのはいかに困難なことか」を視聴者の心に刻むことはできても、「夢を追うこと」や「ラブロマンス」に関わる部分の盛り上がりには貢献しません。
そういった設定を活かした生々しい描写をもっと盛り込んで具体的な同情を誘ったり、あるいは、「設定」によって可哀想感を高めるのではなく、多くの人がやらかしがちな失敗であったり、陥りがちな堕落を登場人物たちに行わせて、それによって苦境が訪れる演出をしなければ共感を得ることは難しいでしょう。
「設定」自体は可哀想だなぁと思えなくもないのですが、恒夫やジョゼの前向きさや人格の高潔さはやや現実離れしていて、自分事として捉えることが困難になっています。
さらには、典型的な「アニメ的演出」も本作の足を引っ張ってしまっているといえるでしょう。
本作が描こうとしている内容は、身体の障害に伴う困難や、夢を叶えるための留学費用捻出といった深刻な課題であり、そしてまた、二人の若い男女の真剣な交際という真面目な主題となっております。
だというのに、演出のほとんどがアニメ的なコミカルさを伴ったものになっており、なおかつ、クリスマスに公開しているうえ、声優の人選でもお笑い芸人を起用するなど、コアなアニメファン以外に受けて欲しいという目論見が剥き出しになっています。
そういった目論見のもとで、本来深刻に取り扱わなければならない事象までもをポップに扱ってしまった結果がこの駄作なのでしょう。
さらには、一般受けを狙っているにしては、アニメの内容がかなり「深夜アニメ」寄りなのも難点に思われました。
ジョゼの高飛車な言葉遣いと、やや男性向けリップサービスがある逆セクハラ発言などはどう考えても深夜アニメ的ですし、24歳という設定にしては幼過ぎる言動(飛行機に感動、五股したことがある等)も深夜アニメ的な文脈を好むアニメファンに対して迎合的です。
恒夫に密かに(無条件で)想いを寄せる当て馬女性を用意したり、誠実な恒夫とは対照的なお調子者を恒夫の友人に配置したり、そのお調子者がヒロインに言い寄って冷たくあしらわれるという小ネタを振りまいてみたり。
全てが子供向けアニメもしくは深夜アニメの「ベタ」であって、なかなか普通の恋愛映画として観るのは難しいと思います。
結論
全体的を通じてどこに良い点を見出すべきか難しい作品でした。
人気俳優による声優と爽やかな青春恋愛ものという題材、クリスマスという公開日、「ジョゼと虎と魚たち」という実績のあるタイトル。
主人公たちが深刻な家庭環境を背負っていたり、夢を追ったり追わなかったり、大怪我をしたり、好きだ嫌いだと叫んだり。
そういった、「世間で受けるだろう」という要素を継ぎ接ぎした結果、「こんな作品をつくりたい」という情熱や「こうやってお客さんを楽しませるんだ」という物語上・演出上の工夫が消失してしまっているように思われます。
実写恋愛映画とアニメ恋愛映画の悪いところ取りをしてしまったような作品で、どちらのファンも掴むことは難しいでしょう。
評価は1点(少し合わなかったかな、という作品。ありていに言えば駄作)です。
余談
最近は「爽やかな青春恋愛アニメ映画」が多く製作されているような気がしますが、「君の名は。」の二番煎じのつもりなのでしょうか。
しかし、「それっぽい要素」だけを取って来ても、「君の名は。」が持っているような趣深さに到達できるとは思えません。
おそらく、よく模倣される「青春恋愛」というジャンルや「俳優の声優起用」、「人気歌手による主題歌」という部分が「君の名は。」の本質ではないからでしょう。
かの作品の心髄は、より切なく後ろ暗いキャラクター造形にあると思われるからです。
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