第2位 「アナと雪の女王」クリス・バック
【愛の形を問う、ディズニーの「新しい」名作】
・あらすじ
舞台はアレンデール王国。
主人公は二人の王女アナとエルサ。
姉であるエルサは幼少の頃から氷の魔法に長け、その魔法を使ってアナと一緒に遊ぶことも多かった。
しかしある日、エルサは誤って氷の魔法をアナに命中させてしまう。
アナを傷つけてしまった自分に衝撃を受けたエルサは自室に引きこもってしまい、アナは豹変したエルサの気持ちが分からないまま一人で王女としての生活を送っていた。
そんな状況も、二人の両親が事故死したことで一変する。
姉であるエルサが王位を継ぐことになり、エルサとアナは十三年ぶりの再会を果たしたのだ。
すぐに打ち解け合った二人だが、エルサは再び力を暴走させてしまい、今度はアレンデール王国じゅうを雪と氷の世界にしてしまう。
そして、今度は雪山に引きこもってしまったエルサ。
そんなエルサを救出しようと、アナは単身でノースマウンテンへと向かうのだが......。
・短評
言わずと知れた大ヒットディズニー映画です。
イケメンで献身的な態度の王子様(ハンス王子)が実は悪役で、物語中で主人公のアナを助けてくれる男(クリストフ)ですらアナの「お相手」ではなく、最後には姉妹愛が描かれ、その愛の力によって問題が解決するという構成はいかにも現代的だとして称賛と同時に批判も浴びた作品になっております。
とはいえ、世界的に大ヒットしたわけですし、血沸き肉躍る冒険と絆がもたらす感動的なエンディングによって強い希望を感じられるような作品、という評価が本作の基本線ではあると思います。
魅力的な要素の方が圧倒的に上回っていたからこそ「子供から大人まで」の大ヒットとなったことは、本作の筋書きに一定程度の反発を覚える方々にも否定しがたい事実でしょう。
そんな本作の中でも、「真の愛」とは何かという問いが作中で幾度もなく繰り返される点に私は注目しています。
一般的な映画鑑賞者からすれば、「真の愛」なんていうものはフィクション作品におけるベタなテーマだなといったくらいのものでしょう。
「ポリティカル・コレクトネス」あるいは「リベラル社会」の文脈とディズニーとを結びつけるくらい考え込む人でしたら、例えば「反・王子様に助けられるだけのヒロイン」や「同性愛」といったテーマを中心に思考するのだと思います。
もちろん、わたしも後者であり、その部分の考察をし始めればキリがありません。
ただ敢えて、本作が「真の愛」と現代社会の関係性に最も意外な形で切り込んだ場面を挙げるとすれば、最終盤にオラフ(アナを助けてくれる雪だるま型の魔法生物)が発する一言、
「愛とは自分よりも誰かを優先すること」になるでしょう。
この台詞がアナにとっての「答え」となり、ラストシーンにおける大逆転を生み出しますので、この台詞こそ本作が視聴者に提示しようとしている「真の愛」についての「回答」だと解釈するのは自然なことだと思います。
そう考えますと、「極端にリベラル寄り」「ポリコレに浸っている」と保守派からは批判されがちな近年のディズニー作品において、本作はかなり思い切ったことを行っているのかなと思いました。
「愛とは自分よりも誰かを優先すること」
当たり前のような台詞に聞こえますが「自己犠牲」を通じて隣人を助けよ、というのは明らかにキリスト教保守主義的な価値観ですし、個人の幸福を至上のものとみなしがちな現代社会の風潮に真っ向から挑む価値観でもあります。
なにより「権利ばかり要求して......」という保守派からリベラル派への定番批判に乗っかった形でもありますよね。
「自分よりも誰かを優先すること」
そんな「漢気」や「母性愛」のような価値観を「回答」にしてきたという側面に注目しながら見ると、本作はかなり興味深く楽しめる作品になると思います。
もちろん、冒険活劇としても素晴らしい作品ではありますので、頭を空っぽにしていたって十分に楽しめるエキサイティングな映画でもあります。
表面をなぞるように鑑賞していても興奮することができて、それでいて、この映画が持つ文脈や思想について考えれば考えるほど味わい深さが増していく。
エンタメであり純文学でもあり、その両側面において極めてハイレベルな名作です。
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