第3位 「聲の形」山田尚子
【「いじめ・再生・聴覚障がい」異色の青春物語】
・あらすじ
石田将也は活発な性格の小学6年生。
日常をそこそこ面白く過ごしていたが、どこか退屈でもあった。
そんなある日、将也のクラスに西宮硝子という転校生がやってくる。
彼女は重い先天性の聴覚障がいを抱えており、声によるコミュニケーションを上手くとることができない人物だった。
将也のクラスでは硝子へのイジメが始まり、イジメの強度は次第に深刻化していく。
そして、硝子が不登校になってしまった日、クラスで学級裁判が行われることになる。
学級裁判の中で、将也はクラスメイト全員から裏切られ、唯一の主犯へと祭り上げられてしまうのだった。
翌日からイジメの新しいターゲットになってしまった将也は、過酷な状況に耐えながら小学校生活を過ごすことになる。
そして、将也は孤独なまま中学校も卒業し、高校生となっていた。
学校では孤立しつつも、日々アルバイトに励んでいた将也だったが、ある日突然、自宅に貯めたバイト代を残して姿を消してしまう。
将也は小学生時代の行いを強く悔いており、母親に養育費を返してから自殺しようとしていたのだ。
そんな将也は、自殺する前に一度だけ硝子に会おうと考えていた。
なぜなら、硝子に謝罪をしなければならないから。
硝子が通う手話サークルを突き止め、硝子と再会を果たした将也。
しかし、硝子の反応は予想と全く違っていて......。
・短評
聴覚障がいを抱えた少女がヒロイン格であることに着目しがちな映画ではありますが、そればかりが本作の特徴ではありません。
本作最大の魅力は「挫折と再生」という普遍的なテーマに正面から挑んでいることであり、その挑戦に見事成功して王道本格青春映画となっている点です。
まず、序盤において惹き込まれるのはその生々しく凄惨ないじめ描写でしょう。
アニメやドラマ、映画における「いじめ」シーンはどこか「つくりもの感」があってしらけたものになりがちですが、本作は小学校という場所やそこで起こる「いじめ」が持つ独特の抑揚や空気感を上手く醸し出しています。
「いじめ」シーンを単なる本編への誘導として描くのではなく、それなりの時間をかけてじっくりと描写し、ただひたすらにヒロインがいじめられていく演出で視聴者を作品の世界に惹き込んでいく手腕は見事です。
将也がクラスメイトたちに裏切られ、学級裁判で主犯格へと祭り上げられるところまでを描いた短編映画であったとしても、それなりの映画だったと納得して映画館を出たことでしょう。
過去に「いじめ」があった、ということを物語上の単なる設定として扱う作品が多い中、これほどまでに視聴者の胸へと強く刻み込まれる「いじめ」シーンの作り込みは見事だとしか言いようがありません。
そして、高校生になった将也が硝子と一緒に過ごすようになり、小学校時代のクラスメイトたちとの復縁や再会を果たしながら過去に向き合っていく中盤以降の流れも胸をずきずきさせ続けます。
ようやく結ばれたと思った瞬間には脆くも崩れ去るような、濃密なのに壊れやすい関係性が描かれ、親愛と憎悪のあいだを行ったり来たりする登場人物たちの感情の動きについ見入ってしまいます。
登場人物全員が繊細な10代を必死に生きているのだということを感じさせるような盛り上がりが全ての場面に用意されていて、あっという間に時間が過ぎてしまうような映画です。
将也と硝子の恋愛とも友情とも表現しがたい特別な関係性、少しずつ成長しながらも、強い自責の念ゆえに自分を強く傷つけてしまうほど極端な行動に走りがちな二人。
そんな二人の魅力に惹かれながらも、最後まで自分に対して素直にはなりきれず、思春期の麻疹に囚われたままの友人たち。
そんな登場人物たちが、ラストシーンで見せるそれぞれの表情。
ほんの少しだけ、何かが根本的に変わる予感。
爽快感と寂寥感が同時に襲い掛かってくるような、胸が疼くのを止められないような名作青春映画になっております。
コメント