ゼロ年代を代表するライトノベルシリーズ、「涼宮ハルヒ」シリーズの第3巻です。
第1巻が主人公の高校入学直後を描いた話だったのに対して、第2巻は半年飛んで文化祭の話、そしてこの第3巻になってようやく、時間は第1巻の直後に戻ってきます。
構成としても4編が収められた中短編集となっており、あの伝説的第1巻の後にSOS団員たちがどう過ごしていたのかを描いた日常譚を4編収録、そのうち1編が今後の展開への布石となるヒロインの過去話になっております。
その意味では、第2巻ではなく、この第3巻こそが第1巻の正統な続編だと言えるでしょう。
第1巻及び第2巻の感想はこちら。
さて、そんな本作の感想ですが、率直に言えば可もなく不可もなくといったところ。
第1巻のような、エンタメと文学を高いレベルで両立する物語性こそありませんが、第2巻のようにひたすら退屈で、醜悪であるとまで評価できるような駄文が書かれているということもありません。
第1巻を読んで「涼宮ハルヒ」シリーズのキャラクターが好きになった人にとっては、そんなキャラクターたちの日常を楽しむという限りにおいて、それなりに満足できる作品であると思います。
上述の通り、次なる長編であり、ファンからの評価も高い「涼宮ハルヒの消失」に対する伏線的なエピソードも収録されておりますので、過度な期待をせず、シリーズ全体を楽しむための脇役的な位置づけであるという前提を置いたうえで、肩の力を抜いて読むのがよいでしょう。
あらすじ
・涼宮ハルヒの退屈
暇を持て余す六月のSOS団員たちに、涼宮ハルヒが持ち込んできたのは地元の野球大会に出るという企画。
ハルヒの勢いに逆らえず出場することになるものの、素人チームでは当然、経験者が集うまともなチームの相手にならず......。
・笹の葉ラプソディ
七夕だからという理由で部室に竹を持ち込んで短冊を吊るしだすという、いつも通り奇行少女な涼宮ハルヒ。
とはいえ、短冊を吊るした後はなぜかテンションが低めな涼宮ハルヒなのだった。
そんなハルヒを脇目に見ていたキョンだったが、未来人であるSOS団員、朝比奈みくるに部活後も部室に残るよう促され......。
・ミステリックサイン
1学期の期末試験期間中という時期、キョンは涼宮ハルヒから自作のSOS団エンブレムをホームページに掲示するよう頼まれる。
ところが、エンブレムをホームページにアップロードした数日後、ハルヒとキョンはホームページがクラッシュしていることに気づいてしまう。
その同日、SOS団の部室を唐突な「相談者」が訪れてきて......。
・孤島症候群
夏休みということで、SOS団員ある超能力者、古泉一樹の親類が住む孤島の別荘へと合宿に行くことになったSOS団の面々。
特段不思議なことなど起きそうもない、何の変哲もない別荘に思われたのも束の間、合宿二日目の朝に殺人事件が発生してしまい......。
感想
連作ではない4編が1冊に収められているという構成のため、エピソードごとに分けて感想を記していきます。
・涼宮ハルヒの退屈
SOS団員たちが地元の野球大会に臨むという、完全な日常編です。
野球のルールを知らなければ試合描写の理解に苦しむのでしょうが、2000年代前半くらいですとまだギリギリ野球が国民的スポーツだった時代ですので(最近はもう、特に若い人は野球に興味ないですよね)、むしろ多くの読者に訴求できる題材として選ばれたのではないかと思います。
ハルヒが無謀な企画を発案し、その無謀さがたたって自業自得的にハルヒが不満を溜め、それをSOS団員の超常的な力で解決するという「お約束」的な流れの短編であり、物語として特筆すべき魅力はありませんが、キャラクター同士の日常的な掛け合いを楽しみたい人にはそれなりに楽しめる短編だと思います。
・笹の葉ラプソディ
シリーズ屈指の人気作である第4巻「涼宮ハルヒの消失」に繋がるエピソードとなっております。
キョンがタイムトラベルを行って中学生のハルヒに会い、ハルヒが世界改変の能力を得たり、北高への進学を決意するきっかけとなる事件を起こすという内容。
ヒロインの過去を掘り下げつつ、未来人である朝比奈さんがタイムトラベルを通じてようやく未来人的な役割を果たし、「涼宮ハルヒの消失」において主要な役割を果たす長門有希の、辛くて厳しい宇宙人としての境遇の一端が明らかになります。
こちらも物語としての面白さは微妙ですが、「涼宮ハルヒ」シリーズがシリーズとしての下地を整えた短編であり、第1巻ぶりのSFらしさがある作品となっております。
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