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「涼宮ハルヒの消失」谷川流 評価:3点|素敵な非日常をもたらす存在、それを肯定することの尊さを描くシリーズ屈指の人気作【ライトノベル】

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涼宮ハルヒの消失
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だからこそ、奇抜な言動を連発し、不思議を探しに行くのだ、人生を特別なものにするのだと嘯きながら常に鼻息荒いハルヒに対しても冷笑的な態度を取るのです。

しかしながら、巻を重ねるにつれそんな態度や心境に少しずつ変化が現れていき、むしろ、ハルヒが引き起こすような非日常を楽しんでいるような気配をキョンは見せるようになります。

そんなキョンの心理的変化がまず最初に明示されるのが本作の序盤です。

いつもはSOS団の存在について迷惑千万といった類の言動しか行わないキョンですが、いざSOS団が消失してしまうとその強い動揺を隠すことができず、自分の知っているSOS団員たちの面影を求めて世界を彷徨い始めるのです。

そして、そういった心理的変化が最も端的かつ強烈に現れるのが本作の最終盤です。

SOS団が消失した世界に留まるのか、それとも、元の世界に帰るのか、キョンはその決断に迫られます。

SOS団が消失した世界というのは、よく考えればキョンが高校入学時に望んでいた平穏な日常世界そのものであり、その頃の願望がいまでも残っているならば、キョンは素直にSOS団が消失した世界への残留を選ぶはずです。

ところが、というより当然ながら、キョンは元の世界への帰還を望みます。

平穏で平凡な学校生活が約束されている世界よりも、気苦労が絶えないけれど愉快な仲間たちに囲まれながら様々な冒険に身を投じられるような世界が良い。

そんな想いに駆られながら、キョンは涼宮ハルヒというヒロインに対する感情の変化を自覚していきます。

涼宮ハルヒのような、他人を無理やり無謀な計画へと巻き込んでいく人間など迷惑千万だし、そんな行動の先にさえ彼女が望む突飛な「不思議」など有りはしない。

そうやって彼女のことを冷笑していた自分の態度こそが実は大きな過ちだったのだ。

平凡な日常から脱しようとする人間は希少で、その活動に巻き込んでくれるなんて非常にありがたいことで、たとえ無謀な計画や無茶な冒険の先に望むような非日常や不思議がなくとも、そういった計画を立てて冒険する過程に人生の重要な楽しみがある。

それこそが現実世界に横たわる逆説的な真理であり、人生を充実させている人たちの世界である。

本作の最終盤になってようやく、キョンはその事実に気づき、自分がいかにSOS団の面々に助けられて人生を楽しませてもらっているかを自覚し、SOS団員たちに対する感謝の念を発露するのです。

こうした「○○との出会いが平凡な日常を特別な毎日に変えてくれた」というような気付きを感動ポイントにする物語自体は珍しいものではありません。

ただ、本作の面白い点は、そういった平凡から特別への感動的変遷を、少年漫画でよくあるようなスポーツや芸術との出会いのような形で描くわけでもなければ、少女漫画でよくあるような外見も内面も素晴らしく金持ちで包容力も兼ね備えたヒーローが現れて自分の人生の課題を勝手に解決してくれるというような形で描くわけでもないところでしょう。

確かに、涼宮ハルヒは世界を改変できるくらいの特別な能力を保持しており、その要素こそが「涼宮ハルヒ」シリーズにおけるエンタメ的側面の根幹となっております。

しかし、涼宮ハルヒ自身にはその特別な能力に対する自覚がない、という設定が本作の非常に巧妙なところなのです。

涼宮ハルヒ自身には自分の特別な能力に対する自覚がないからこそ、ハルヒという人物の言動からは、ハルヒ本人が等身大の人間として持っている魅力が感じられるのです。

自分は一介の無力な高校生だけれども、それでも、凡百な高校生たちのように単調で平凡でつまらない毎日を甘受しようとは思わない。

いつだって「不思議」を探して行動し続ける。

そのために、非公認の部活を組織することだって厭わないし、この人だと思った人には臆せず声をかけて仲間にするし、独力で不思議を見つけに行こうとするのはもちろんのこと、ありとあらゆるイベントごとに全力で参加してその楽しさを享受してみせる。

彼女がそのように行動し続けることそのものが、彼女の人生をずば抜けて素敵で充実したものにしているということ。

これはむしろ、高校生以下の読者ではなく、大学生・社会人の読者にこそ理解できることなのではないでしょうか。

世界を改変してしまえるような「特別な能力」などなくたって、涼宮ハルヒは十分に、人生の主人公としての「涼宮ハルヒ」を幸福にしつつ、日々を本質的に楽しいものにしているのだろうことは容易に想像できます。

そして、そんな人物がその「不思議探し」に自分を巻き込んでくれているということの素晴らしさに、おもしろおかしく一生懸命に生きる人生の共同作業者に選んでくれていることの価値に、キョンはようやくここで気づくのです。

こういった点に、古典的なジュブナイルが持っていたような教育性や、あるいは、純文学という分野が持っている人生の本質を探るような側面を見出すことができるでしょう。

そういった、単なるエンタメ一本槍のライトノベルを超えた文学的魅力を放っていたからこそ、「涼宮ハルヒ」シリーズが歴史に残るライトノベルの金字塔となったに違いないと私は考えております。

さて、そんな本作ですが、それでも評価を5点(人生で何度も読み返したくなる名作中の名作)や4点(概ねどの要素をとっても魅力的な、名作・名著に値する作品)にせず3点(全体のレベルが一定以上、なおかつ胸を揺さぶる要素が一つ以上ある佳作)なのにはそれなりの理由があります。

まず第一の減点ポイントは、改変後世界の涼宮ハルヒと出会うまでが長すぎるということ。

本作の構成は、昨日までの世界と一変してしまった世界に放り込まれた主人公の混乱過程が序盤において読者を物語に惹き込む装置となり、そこから一縷の望みを辿って改変後世界のハルヒに出会い、世界を元に戻す方法にまで辿り着くまでが中盤の山場、そこから世界を元に戻す「方法」を実行する過程が終盤の展開となっております。

しかし、全251ページの中でハルヒと出会うのはようやく115ページ目であって、さすがに混乱期が長すぎて読書への飽きを途中で感じてしまいました。

それこそ、全体が250ページ程度ならば混乱期は50ページ程度でよかったのではないかと思った次第です。

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