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小説 「ビブリア古書堂の事件手帖 ~栞子さんと不思議な客人たち~」 三上延 星1つ

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ビブリア古書堂の事件手帖
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1. ビブリア古書堂の事件手帖 ~栞子さんと不思議な客人たち~

シリーズ累計600万部超。     本屋に足を運ぶ人なら目にしたことがあるはずの人気作となっておりますが、私の肌には合いませんでした。


2. あらすじ

無職で大学卒業後もふらふらしている五浦大輔は、祖母の一周忌をきっかけに祖母の遺した漱石のサイン入り「漱石全集」の鑑定をビブリア古書堂に依頼することになった。

ビブリア古書堂の店主、篠川栞子はそのサインが偽物であることを見抜くが、「本の虫」であるところの彼女は古本に秘められた物語を紐解くのも得意で......。

古本にまつわる日常の謎を栞子さんが鮮やかに解き明かす、流行のライトミステリー。

3. 感想

人気シリーズの第1作であり、剛力彩芽さんが主演でドラマ化され色んな意味で話題となった本作ですが、あまり面白いとは思えませんでした。

まず登場人物たちのご都合主義的な容姿、性格、行動です。

主人公の大輔はある理由から(その理由も一般的に考えれば「そんなわけないやろ」というものなのですが)読書ができない体質になっています。そのおかけで勉強でも苦労し、なんとか適当な大学を出たはいいものの就職の機会には恵まれなかった、という設定です。

しかし、トラウマ的体験がないにも関わらず本を読まない人がかなり多い中で、どうして彼が(それこそ「本の虫」である栞子さんに付き合っていられるくらい)本を好んでいるかまるで分かりません。

また、就職できていないことに焦りや危機感を覚える描写がほとんどなく、そこに劣等感を抱いている様子もないというのはかなり不可解なことです。

実際、体格が良く大学では柔道をしていたことから、周囲の人間の中には「自衛隊や警察はどうか」と勧める人もいるのですが、「向いていないから」とどこ吹く風です。

とはいえ、彼自身が極めて楽観的か、あるいは、就職や人生に対して新しい価値観を持った人間か(例えば最近ではブロガーやユーチューバーとして生計を立てる人もいますし、いくつかのバイトを掛け持ちするなどして「自由」を謳歌する人もいます。世界一周バックパック旅行に行く人もいれば、シェアハウスの運営などを楽しむ人もいるでしょう。他にも、ベンチャー企業の立ち上げ、就農するなど、既存の枠にとらわれていない人々はたくさんいます)といえばそうではなく、どちらかというと作中では「まとも」で「普通」な感性を持った人物として描かれます。

都合のいいときだけ危機感を抱き、そうでないときは無関心という、物語を強引にでも成立させるために作られたような、あまりに作為的人物なのです。

そして、ヒロインかつ探偵役の篠川栞子もご都合主義的なキャラクターです。

美人で巨乳で本の話をするときは夢中になるけれど、それ以外の場面では極端に引っ込み思案になって「信頼している」人の背中に隠れて袖をつまんでおどおどしている。

そんな妄想の権化のような女性を登場させ、あたかも「珍しいけど存在はしているだろう」くらいのスタンスで書かれても呆然とするだけで何ら作品に感情移入できません。

わざとやっているなら相当悪趣味でしょう。女性の非現実性を強調した作品(深夜アニメやライトノベルにありがちな作品です)において、「これはあくまでも壮大な冗談なんだ」という前提で登場する女性とは異なるものにしなければならなかったはずです。

彼女が本作で読み解くのは非常に繊細な問題で、大人の女性の不倫であったり、妻に前科を隠し続けてきた男の話であったりするわけですから、もう少し達者な面が欲しいわけで、さすがに設定上の性格は無理があります。それに、美人であることも物語に何の影響も及ぼしません。それでも、作中で何度もそのことが示され、ちょっとしたお色気シーンもあります。

他の登場人物についても不可解な点が多すぎます。ホームレスのおっちゃんと女子高生があまりに軽い経緯で仲良くなりますし、教室でハブられたくらいで男子高校生は放火を画策しますし、何百万の古本を手に入れたい犯人は非常に稚拙な手段しか使いません。

ですます調で話して三段論法を理解しているだけで「非常に頭がよく論理的な」人物であると評され、その奥さんはまるで年相応には喋らない。

「こんなやつおらんやろ」という人物たちが、アクションやギャグやちょっと奇妙な日常系の雰囲気を一切排し、あくまでしっとりとしたサスペンス寄りのミステリーを装ってそれらしい会話をするのですから、下手な演劇を見るより悲しい気分になります。

加えて、ストーリー自身もヤマなしオチなしです。

第一話は不倫の記録を残し続けた話、第二話は恋い焦がれる人に突き放された女子高生の話、第三話は自分を愛してくれる妻に前科を隠す夫の話、第四話は価値ある古本に執着するあまり人を石段から突き落として入院させたり刃物で脅したりする男の話。

字面の上では非常に深刻な話なのですが、なにぶん登場人物が安っぽいうえ、これらの事件を通じて登場人物たちの内面が変化するということもないので、人間ドラマとしても薄いです。肝心のミステリーもトリックが複雑というわけではなく、解決のカギは古書についてのマニアックな知識なので読者には推測しようがありません。逆にそれが使われていない時はすぐに分かってしまいます。というよりも、結局、最序盤から多くの読者が想像するであろう展開になるので、あえてミステリーにする意味もありません。

全体的にほとんど楽しめなかった作品でしたが、私自身がいわゆる「日常ミステリ」ものをどう楽しめばいいのか分かっていない側面も大きかろうと思います。

発行部数から見ればそんじょそこらの作品よりは遥かに多くの読者の心を掴んでいるのは確かなので、いつか、この作品の良さがわかるようになればと思う次第です。

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