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「グッバイ・コロンバス」フィリップ・ロス 評価:2点|1950年代のユダヤ系アメリカ人コミュニティにおける若者の恋愛と家庭や世代による価値観の相克について【海外純文学】

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グッバイ・コロンバス
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そして、これだけで終わらせず、ここからもう一歩踏み込んだ表現を取るのが本書がエンタメ本というよりは純文学的な書籍だと形容できる所以ではないでしょうか。

ある日、一人の老人がこの美術書を貸し出して欲しいと正規の手続きを踏んでニールに頼むのですが、ニールはこの本が「取り置き」中であると嘘を言って貸し出しを阻むのです。

これはもちろん、毎日美術書を読みに来る黒人少年のための嘘なのですが、こうして正規の法的手続きを踏みにじってでも黒人少年のために美術書を確保する行為は果たして正義に適うと言えるのでしょうか。

読者の意見は百家争鳴かもしれませんが、ニールの主観からすれば、まさにこの態度こそ正義そのものだというわけでしょう。

いつだって侮蔑的に取り扱われ、文化的な事物への接触機会を極端に奪われている境遇の少年。

そんな彼のために、嘘をついてまで美術書へアクセスする機会を守るということ。

その心意気は、さながら貧者の勇気、持たざる者の優しさなのだと言えるのかもしれません。 

彼は信仰心が強くないけれど、それでも、あるいはそれゆえに 正統な信仰を持つ中産階級以上な家庭に育ったのでは持ちえない道徳心も持っている。

その道徳心の内容は、手放しで賞賛できるようなものではないかもしれないけれど、彼のような人がいない世界では差別されている黒人少年のような人間はどう生きていけばよいのかという問いも突きつける。

ブレンダとの関係の中において、ニールという人物はブレンダの母親に蔑まれるくらい信仰心が薄くて「常識」のない人間であり、上流階級の振る舞いの中で浮いてしまうような人物ですし、ブレンダが嫌がっても避妊具を強要して性行為を心行くまで楽しもうとする彼氏という存在ではあります。

しかしその一方で、黒人少年と文化的事物の触れ合いに対する心意気ある取り計らいができる人物であり、しかも、こういったニールの性格は貧しく信仰心の薄いユダヤ系アメリカ人家庭で育ったという同根から生じている。

ここに本作が表現している世間や人生というものの割り切れなさが如実に表れているのではないかと思います。

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結論

というわけで、若者の恋愛を端正な筆致で描いている側面や、解釈の幅が大きく一意に単純化できない文学的な側面において良い部分のある作品ではありますが、肝心の筋書きそのものが面白いかと言われればそれは微妙な作品です。

避妊具に纏わるエピソードも、現代の日本人が読んだところでそれがかつて持っていたような劇的な効果を感じることは難しいでしょう。

心理描写が巧みだったり、伏線を上手く使ったサプライズがあるというわけでもないので、やはり、いま読んで純粋に面白い、深いと思える作品か否かという観点で評価すれば、評価2点(平均かそれ以下の、凡庸な作品)という結果が妥当なのではないでしょうか。

1950年代から60年代くらいのアメリカ人文学の薫風を敢えて感じてみたい、それを積極的に解釈していきたいという意欲のある方にはお薦めできるかもしれません。

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