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「戦争の世界史 下巻」ウィリアム・H・マクニール 評価:3点|戦争と軍需産業と政府部門の関係から読み解く世界史【歴史本】

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戦争の世界史 下巻
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たった一人で通史を描き出した「世界史」という本で有名なマクニール教授が、今度は「戦争」という観点から世界史を描き出した本作。

「その2」から続いて下巻の内容を紹介していきます。

「戦争の産業化」が始まる1840年代から、「国家総力戦体制」での戦争となる第一次及び第二次世界大戦まで、いよいよ舞台は近代戦争へと移っていきます。

・前編「上巻 その2」はこちら。

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目次

・上巻
第1章 古代および中世初期の戦争と社会
第2章 中国優位の時代 1000~1500年
第3章 ヨーロッパにおける戦争というビジネス 1000~1600年
第4章 ヨーロッパの戦争のアートの進歩 1600~1750年
第5章 ヨーロッパにおける官僚化した暴力は試練のときを迎える 1700~1789年
第6章 フランス政治革命とイギリス産業革命が軍事におよぼした影響 1789~1840年

・下巻
第7章 戦争の産業化の始まり 1840~1884年
第8章 軍事・産業間の相互作用の強化 1884~1914年
第9章 二十世紀の二つの世界大戦
第10章 一九四五年以降の軍備競争と指令経済の時代

第7章 戦争の産業化の始まり 1840~1884年

第7章では、蒸気船と鉄道、そして工作機械の普及がもたらした武器開発や軍事作戦の変化が語られます。

1840年以降、商業的利益のインセンティブをもとに民間企業・発明家のあいだでは蒸気機関の発明・改良が急速に進展していきます。

蒸気船の性能向上は目覚ましく、貿易の舞台に次々と蒸気船が登場していきました。

保守的な各国海軍は当初、蒸気船の採用に慎重だったのですが、その方針を転換させたのがクリミア戦争。

火薬炸裂によって破片を飛び散らせる「榴弾」砲を搭載したロシア艦隊がトルコ艦隊を完膚なきまでに撃破したのです。

榴弾砲の前に木造船はあまりに脆い。

そう感じたイギリス・フランスの海軍は軍艦に鉄板を張るという決断を下します。

そして、鉄板が張られて重くなった船を動かす方法は蒸気機関しかありませんでした。

このようにして蒸気機関搭載の軍艦建造が次々と進み、イギリス・フランスの戦列艦へと加わっていきます。

さらに、蒸気機関改良の影響は鉄道にも及びます。

蒸気機関車の登場と鉄道の普及はこれまでの部隊運用でつねに制約として働いてきた兵員輸送・食糧輸送の限界を大幅に更新したのです。

これにより、国内の成人男性全てを軍隊に加入させても持て余すほどの兵員輸送力が実現され、また、それほどの大部隊を展開するための食糧輸送能力も実現します。

そして、鉄道の普及に有線電信機の発明が加わることで、参謀たちによる事前の緻密な作戦計画と遠隔指示が戦争の趨勢を握る要素として重要になっていきました。

それを象徴する戦いが普仏戦争です。

参謀本部の能力と権限を強化していたプロイセンが「士気」を重視する猪突猛進型の将軍たち主導のフランス軍を打ち破り、鉄道輸送や部隊の布陣・展開の緻密な計画力に勝るプロイセン軍の優位を全ヨーロッパに響かせました。

一方、1840~1884年という期間は武器製造の世界にも劇的な変化をもたらしました。

アメリカで工作機械(フライス盤)を使ったライフル銃の生産が始まると、イギリスがそれを模倣したのを契機に、工作機械による武器製造がヨーロッパに普及していきます。

これにより、職人技に頼らず武器の大量生産が可能になったのはもちろんのこと、次第に工作機械の性能が上がってくると、新設計の武器でも職人の熟練を待たずに大量生産ができるようになり、武器の設計改良が各地で促されました。

こうした大量生産基盤が整った結果、武器製造に規模の経済が働くようになり、ごく一握りの巨大企業が世界市場全ての武器需要を満たせるようになっていきます。

ホイットワース社やアームストロング社といったイギリスの武器製造会社が世界的企業として台頭し、有り余る武器製造の能力を活かして欧州の小国や日本、南米諸国を相手に武器販売を始めます。

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