小説 「葡萄が目にしみる」 林真理子 星2つ

葡萄が目にしみる
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1. 葡萄が目にしみる

小説家としてはもちろん、エッセイストとしても有名な林真理子さんの作品。

女性の心理描写が巧みだという評価が一般的でしょうか。

直木賞や吉川英治文学賞といった文芸界の賞はもとより、レジオンドヌール勲章や紫綬褒章といった国家レベルの叙勲もされるなどまさに大作家だといえるでしょう。

長らく直木賞の選考委員を務めていることや、「元号に関する懇談会」の有識者委員として「令和」制定にも関わっていることからもその大物ぶりが伺えます。

そんな林さんが手掛けた青春小説が本作、「葡萄が目にしみる」。

林真理子さんの出身高校を舞台としており、林さん自身の容姿を彷彿とさせる主人公と、明らかなモデルが存在する登場人物など、半ば自伝的な要素がある小説とされています。

直木賞候補となり、現代的な表紙の新装版も発売されるなど根強い人気のある作品ですが、個人的には凡庸な青春小説だなという感想でした。

ありきたり(よりも容姿が少し劣って嫉妬深く自意識過剰な)女子高生の高校生活を良くいえば瑞々しく、悪くいえば淡白でオチなしヤマなしに描いた作品で、これほどまでにイベントが起こらず起伏のない作品でいったい何を楽しめばよいのだろうと感じてしまった次第です。

確かに、あっさりとしていながらも印象的な心理描写のおかげですいすいと読み進めてはいけるのですが、それでは、物語の設定や展開、構成のどこが上手く、どこに感動できるかというとそういう魅力は見当たらないなと言わざるを得ません。

2. あらすじ

舞台はブドウ園が広がる山梨県の田舎町。

容姿に自信がなく、垢ぬけた見た目や振る舞いの男子女子に嫉妬と劣等感を抱いていた中学生の岡崎乃里子(おかざき のりこ)は、ふとしたきっかけから進学校である弘明館高校を志望校に定める。

女子の優等生は女子校である牧里高校に行くのが普通という風潮があり、弘明館は極端に女子が少ない高校にも関わらずだ。

そんな乃里子は無事弘明館高校に合格し、おてんばな菊代(きくよ)やおとなしくて可愛げのある祐子(ゆうこ)と友情を深めながら、生徒会役員でウエイトリフティング部でも活躍する保坂(ほさか)に対して恋心を抱く。

誰かが誰かに恋したり、スポーツで活躍したり、そうかと思えば何気ない日常のお喋りが楽しかったりする青春の日々。

容姿端麗な女子生徒に嫉妬心を感じたり、活発でときに威張り散らす男子生徒たちへの羨望と憎しみを感じてしまう自分自身と対峙しながらも、乃里子は身の丈に合ったささやかな学校生活を過ごしていく。

そんな乃里子と対照的な存在だったのが、弘明館高校入学時よりラグビー部で活躍し、全国紙にも取り上げられるほどのスター選手になっていく岩永健男(いわなが たけお)。

乃里子は岩永に、恋心とはまた違う特別な感情を寄せていた。

ふたりは同じ中学校の出身。

いくつかの印象的な出来事から、乃里子は岩永こそ乃里子を何らかの形で特別視していると考えていたのである。

様々な形で青春を謳歌する同級生たちに乃里子が向ける視線、保坂への片想い、岩永への何ともいえない感情。

その意外な結末に対峙するとき、乃里子は何を想うのか.......。

3. 感想

1984年刊行だけあって、町の雰囲気や高校生たちの仕草には濃厚な時代感が漂っています。

「昭和」的な暑苦しさのある部活動や生徒会活動、さざめくように恋の話をする女子高生など、決して現代の高校では現実/フィクションともに見られない光景ですね。

バブルの兆しの中で先祖代々の土地を売ったり、それを担保にしてさらに不動産を購入したりする農家なんてのも味があってよいです。

こういった、そこはかとない時代の雰囲気みたいなものはよく描けていると思いました。

また、あまり容姿に恵まれていない女子高生が、殊更この時代で感じたのであろう劣等感の心理描写も巧みです。

息苦しいのにどこか高尚な青春の薫り漂う筆致は学校生活独特の雰囲気を感じさせて心惹かれるものがあり、しかも、字数をかけてねちっこく表現するのではなく、テンポの良い短文の中で描写されるので速度感も損なわれていない点に技術が光ります。

男子生徒の不潔さに対する忌避感と没入感の併存、恋を叶えるために書く手紙のくすぐったい内容などの時代の空気がよく伝わってきます。

スポーツに秀でた生徒が子分を従えて威張り散らすとか、美貌を持っているが高慢な学年のマドンナがいるなんてのも昭和の高校といった感じですね。

ある意味、いまでは「浄化」されてしまった社会の断片といえるでしょう。

平成後期から令和にかけて、他者に対して明示的に威圧的だったり尊大な態度を取ることの地位は急速に低下し、マウントの取り合いはより密やかに、だからこそ巧妙に行われるようになっています。

とはいえ、水泳の授業で自分の体型や運動能力への羞恥心が殊更に煽られるなど、今昔変わらない点もあって面白いですね。

もちろん、昨今のスクール水着はより体型の差が目立たない仕様になっているでしょうし、体育の授業で運動神経が悪い子供に対して見せしめのような醜態をさらさせるような手法を執る教師は少なくなっているのだとも思いますが。

そして、ここまでは描写についての褒め言葉が多く連ねましたが、実のところ、本書の良い点はそういった描写の良さに留まります。

基本的にこれといったストーリーがなく、読者をワクワクさせたりドキドキさせたり、あるいは切なくさせたりするような仕掛けが終盤の手前まで全くありません。

つまり、全体的に起伏がないのです。このあたりは「昔の小説はこれでもよかったんだなぁ」と思わされます。

現代で出版されても、芥川賞はともかく直木賞の候補になることは難しいでしょう。

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