「ブルシット・ジョブ」デヴィッド・クレーバー 評価:3点|無意味な仕事ばかりが増大していく背景を社会学的に分析 【社会学】

ブルシット・ジョブ

イェール大学准教授やロンドン大学教授を歴任した社会人類学者、デヴィッド・グレーバー氏の著書。

社会人類学者としてはもちろん左派アナキストの活動家としても知られている人物であり、“Occupy Wall Street ”[ウォール街を占拠せよ](※)運動でも主導的な役割を果たしたことで一躍有名になりました。

※リーマンショックの直後、金融機関の救済にのみ奔走し、若者の高い失業率等に対して有効な対策を打てなかったアメリカ政府に対する抗議運動。

本書の他にも「負債論──貨幣と暴力の5000年」や「官僚制のユートピア──テクノロジー、構造的愚かさ、リベラリズムの鉄則」といった著作があり、刺激的な理論を通じてアカデミズムと現実社会を積極的に繋ごうとしていた学者でもあります。

そんなグレーバー教授が2018年に著したのが、本作「ブルシット・ジョブ クソどうでもいい仕事の理論」。

原題は“Bullshit Jobs”のみですが、邦題では「クソどうでもいい仕事の理論」という副題が付されています。

さて、この「クソどうでもいい仕事」ですが、事務職の労働者であれば誰もがピンとくる一節なのではないでしょうか。

あまりにも無駄で無意味な仕事が山積しており、そのせいで「本当の」「意味のある」仕事が妨げられているという思いを抱いたことのある事務職員は多いはずです。

自分が普段行っている仕事の全てが100%無意味な仕事である、あまつさえ、同僚や他者、社会全体に対して害を為す仕事である。

そのように感じている人だっているかもしれません。

本書はまさに、そういった類の「クソどうでもいい仕事」について分析を行った本になっております。

世界にはどんな「クソどうでもいい仕事」が存在しているのか、なぜ「クソどうでもいい仕事」は近年世界的な拡大を見せているのか、どうして「本当に大事な仕事」を行う人々(エッセンシャルワーカー!?)は得てして薄給で軽んじられているのか、どうすれば「クソどうでもいい仕事」は消滅するのか。

そんな疑問への解答を試みるという、まさに現代的な著作です。

デヴィッド・グレーバー (著), 酒井 隆史 (翻訳), 芳賀 達彦 (翻訳), 森田 和樹 (翻訳)
スポンサーリンク

目次

序章 ブルシット・ジョブ現象について
第1章 ブルシット・ジョブとはなにか?
第2章 どんな種類のブルシット・ジョブがあるのか?
第3章 なぜ、ブルシット・ジョブをしている人間はきまって自分が不幸だと述べるのか?
第4章 ブルシット・ジョブに就いているとはどのようなことか?
第5章 なぜブルシット・ジョブが増殖しているのか?
第6章 なぜ、ひとつの社会としてのわたしたちは、無意味な雇用の増大に反対しないのか?
第7章 ブルシット・ジョブの政治的影響とはどのようなものか、そしてこの状況に対してなにをなしうるのか?

全体の構成

目次の各章タイトルからも推測できることかもしれませんが、本書は3つの部分に大別することができます。

まず、序章から第4章では「ブルシット・ジョブ」つまり「クソどうでもいい仕事」とは何かをグレーバー教授が定義し、読者の思考と歩調を合わせながらその認識を共有していく部分にあたります。

様々な「ブルシット・ジョブ」を紹介しながらそれらの共通点を探り、「ブルシット・ジョブ」の存在が個々人や社会全体に与えている影響についての一般化が図られます。

世の中「ブルシット・ジョブ」だらけだよね、俺の仕事もそうだよ、という日常レベルの問題意識から一歩進んで、「ブルシット・ジョブ」が普遍的な社会問題であるというレベルにまで読者の思考を引っ張っていく段階だといえるでしょう。

次に、第5章ではそんな重要社会問題である「ブルシット・ジョブ」がなぜ増えているのかという要因が語られます。

「ブルシット・ジョブ」に悩まされる現代事務職員全員の素朴な疑問への解答でもあり、「ブルシット・ジョブ」という社会問題解決のための準備でもあります。

そして、第6章以降が解決策を提示する部分になっております。

本書をソリューション提供の著作として見て欲しくない、問題意識共有のための著作として見て欲しい、と前置きしながらも、グレーバー教授は一応の解決策としてUBS(ユニバーサル・ベーシック・インカム)を提示し、それが良い解決策である理由をここで述べております。

というわけで、まずは定義編(序章〜第4章)から語っていきたいと思います。

定義編

本書でまず着目したいのは、第1章で示される2016年から2017年にかけての「企業労働の実態報告」アメリカ版から引用されるデータです。

オフィスワーカーへのアンケートによると、労働時間のうち本来の職務に費やしていると申告した時間は2015年の46%から2016年の39%に低下しており、残りはEメール対応や会議、管理業務、付随的業務に費やされているとのこと。

会議の中には「有益で生産的な会議」も含まれておりますが、これも労働時間全体の10%程度に過ぎず、アメリカの事務職員はいまや全労働時間の半分以上をブルシット・ジョブに費やしているわけです。

こういった類のデータを引用ながら、グレーバー教授はブルシット・ジョブを巡る議論の中で特に重要な点があるということを述べます。

コメント