無償の愛を注いでくれた人の存在とその喪失。
素敵な人を奪っていく世界に対する怒り。
それらの要素が厳しい世界に相対するための自己犠牲精神をシンジの胸に惹起させ、シンジを大人の男にするのです。
両親の不在やコミュニケーションの不在という環境の中で、大人になっていく術を知らないままだった繊細な少年。
その少年が世界を救うパイロットであるとなった瞬間から始まった、彼を大人にして、勇敢なパイロットになってもらうという物語。
周囲が寄ってたかってシンジを大人にするべく奮闘するという、エヴァの純文学的精神物語はここに完結したのではないでしょうか。
「第3村」からシンジが発った瞬間にはもう、「新世紀エヴァンゲリオン」が実質的に完結している。
もう「新世紀エヴァンゲリオン」によって語られるべきことは何もない。
だからこそ、その後は派手な戦闘と散りばめすぎた世界の謎についての伏線を無理やりにでも回収するだけの場面が続くのです。
ついに「大人」となったシンジが敵に負ける姿は想像できないですし(シンジの敗北は常に精神的未熟さに起因していたのです)、逆に「エヴァ」世界の謎や伏線など上手く収められるはずもないので、「第3村」以降の映像はやや惰性で見ていましたし、そういった態度で鑑賞するのが正解なのでしょう。
美しい映像による派手な戦闘があり、謎の抽象的な会話があり、最後は宇宙や精神世界に入って行って、視聴者の理解は置いてきぼりのまま、いつの間にか世界が救われます。
少し意外だったのは、最終的なカップルの組み合わせでしょうか。
シンジは新劇場版からの登場人物である真希波・マリ・イラストリアスと付き合うようになり、アスカはケンスケと、レイはカヲルとペアになります。
恋愛を主軸とした作品でないのならば、最終的なカップルの組み合わせを予想外なものにするのは結構好みだったりするのですが、それが成功するためにはそこに至るまでの説得的な経緯が描かれる必要があります。
しかし、シンジとマリの恋情については作中で全く描写がなく、これでは呆然とせざるを得ません。
大人になり、オトコになったシンジが、トウジの妹に自分からアプローチする、なんて展開のほうがシンジの成長譚としては纏まりが良かったのではないかと思います。
シンジが「大人」になるというテーマにケリをつけつつ、派手な戦闘と意味不明会話によって一応、世界の謎も解いたことにして、最後はカップル成立で終わるという、形式的には素直なところに着地させた本作。
決して良い映画ではありませんが、「第3村」エピソードがまずまず良かったことと、なにより「エヴァ」を完結させた労力に敬意を表して、評価は1点ではなく2点(平均的な作品)とします。
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