【エンタメ小説】おすすめエンタメ小説ランキングベスト10【オールタイムベスト】
純文学
【古典純文学】おすすめ古典純文学小説ランキングベスト9【オールタイムベスト】
本ブログで紹介した純文学小説のうち、1980年以前に出版された「古典」からベスト9を選んで掲載しています。「純文学」の定義は百家争鳴でありますが、本記事では、社会や人間について深く考えさせられる作品や、人間関係の機微を描いた作品、という緩い定義のもとでランキングを作成いたしました。第9位 「恩讐の彼方に」菊池寛【罪人の贖罪と被害者の復讐心が交錯するそのとき】・あらすじ主人である三郎兵衛の妾、お弓との不義の恋が露見してしまった市九郎は、主人を殺してお弓とともに江戸を脱出する。路銭が尽きた二人は美人局から強請り、果ては強盗殺人まで犯すようになるが、市九郎は罪悪感に堪えかね、お弓との生活から抜け出し、寺へすがって出家する。修行の末、一人前の僧になった市九郎は諸人救済のため諸国を旅してまわり、やがて一年に何人もが滑落する鎖渡しに出会う。人々がそこを通らなくて済むよう、市九郎は一生かけてでも岩山を掘り、別路を切り拓くことを決意する。当初は懐疑的だった村の人々も、十数年も掘り進める市九郎を次第に助けるようになっていく。一方そのころ、三郎兵衛の息子、実之助は剣の修行を終え、父親の仇討ちを果たすべく旅...
【優等生の哀しい青春】小説 「車輪の下」 ヘルマン・ヘッセ 星3つ
1. 車輪の下ノーベル文学賞作家、ヘルマン・ヘッセの作品。短編小説「少年の日の思い出」が中学校の国語教科書に長年掲載されているため、ヘッセという名前を聞いたことがないという日本人はあまりいないのではないでしょうか。そんなヘッセの作品の中でも、「車輪の下」は特に日本で有名な作品になっております。「新潮文庫の100冊」に長年選ばれ続けていることがその理由でしょう。聞いたことがある作家で、本屋でも夏になると平積みされる。だからこそよく売れているのだと思います。そんな本作の内容は、「少年の日の思い出」を想起させるような暗くて救いのない話。思春期特有の感情がもたらす興奮と絶望に苛まれ、一人の優等生が人生という重い車輪にゆっくりと押し潰されていく様子が描かれています。2. あらすじ田舎町の少年ハンス・ギーベンラートは幼少の頃から勉学でその才能を発揮しており、周囲の大人たちから将来を嘱望されていた。その期待に応え、ハンスは神学校の入学試験を2位という好成績で合格する。しかし、神学校で待っていたのはいままで以上に鬱屈な勉強漬けの日々。そんなハンスが神学校で出会ったのは、ヘルマン・ハイルナーという少年。...
小説 「老人と海」 ヘミングウェイ 星4つ
1. 老人と海「武器よさらば」や「誰がために鐘は鳴る」などの作品で知られるアメリカの小説家、アーネスト・ヘミングウェイの代表作で、ノーベル文学賞受賞のきっかけとなった作品だとされています。新潮文庫の100冊に何十回も選出されるほど日本でも親しまれている作品であり、名実ともに人気を博している古典文学だといえるでしょう。「老人を主人公とした武骨な冒険小説」という類例は現代文学に至ってもなかなか類似例がなく、文学界においていまなお稀有な立ち位置を維持しております。そんな「老人と海」ですが、評判に違わず傑作といえる作品でした。広漠とした海を舞台に、人間とカジキマグロが情熱的な大勝負を闘う。その迫力と余韻の素晴らしさに、思わず感嘆のため息が出てしまいました。2. あらすじ舞台はキューバ、主人公は老漁師のサンチャゴ。大型魚の一本釣りで生計を立てていたサンチャゴだったが、ある日を境に数か月もの不漁に陥ってしまう。いつも漁を手伝ってくれていた弟子の青年マノーリンも、両親の指示によって別の漁船に乗ることになってしまい、サンチャゴは一人で漁に出る日々が続いていた。かつては凄腕漁師だったサンチャゴも、さすが...
小説 「悲しみよこんにちは」 フランソワーズ・サガン 星4つ
1. 悲しみよこんにちは20世紀後半に一時代を築いたフランスの小説家、フランソワーズ・サガン。その代表作が処女作である「悲しみよこんにちは」です。1954年に出版されるとたちまち世界的なベストセラーとなり、サガンをしてデビュー作でいきなり一流作家の仲間入りを果たさせた名作となっております。そんな高い前評判に違わず、素晴らしい小説でした。非の打ちどころのない情景描写と心理描写に魅了されます。河野真理子さんの翻訳も絶品で、小説における美しさや切なさ描写の極致を極めた作品の一つと言っても過言ではないでしょう。2. あらすじ主人公のセシルは17歳。父親であるレエモンとの父娘家庭育ちである。といっても、レエモンは実入りの良い職業についていて、もう40歳を超えるというのにパリの社交界で女性をとっかえひっかえしている奔放な男性。そんな父に連れられ、セシルも遊びばかりを覚えてこの年まで育ってきた。17歳の夏、セシルは父とともにコート・ダジュールの別荘を訪れている。父の愛人であるエルザとの仲は良好なうえ、海岸ではシリルという大学生と出会って恋仲になった。何もかもが完璧な夏になる。そんな予感がしたまさにそ...
「他人の顔」安部公房 評価:2点|顔とは他者から自己の内面を覆い隠す蓋であり、他者から見た同一性を保全するための道具である【純文学】
ノーベル文学賞の有力候補だったと言われているほか、芥川賞、谷崎潤一郎賞、さらにはフランス最優秀外国文学賞を受賞するなど、国内外で評価が高かった小説家、安部公房の作品。「砂の女」「燃え尽きた地図」と並んで「失踪三部作」の一つに位置付けられています。このうち「砂の女」は当ブログでもレビュー済みであり、日本文学史上屈指の名作であると結論付けています。圧倒的感動に打ちのめされるという経験をさせてくれた「砂の女」と同系列の作品という評価に期待を寄せて読んだ本作。悪くはありませんでしたが、その高い期待に応えてくれたわけではありませんでした。「砂の女」と同様、都市化・資本主義化していく社会の中で人々の自己認識や他者との関わり方が変化していくというテーマそのものは面白かったのですが、「砂の女」が見せてくれたような冒険的スリルやあっと驚く終盤のどんでん返しがなく、主人公の思弁的で哲学的なモノローグがあまりにも多すぎたという印象。もう少し「物語」としての起伏や展開による面白さがあれば良かったのにと思わされました。あらすじ主人公の「ぼく」は高分子化学研究所の所長代理として研究に取り組む日々を送っていた。そん...
「夏の砦」辻邦生 評価:1点|とあるタペストリーに魅せられた女性の人生を繊細耽美に描く散文芸術【古典純文学】
1960年代から70年代にかけて活躍した小説家、辻邦夫の作品。「初期の最高傑作」と評されることが多いようです。他には毎日芸術賞を獲った「背教者ユリアヌス」、谷崎潤一郎賞を獲った「西行花伝」が有名でしょうか。とはいえ、川端康成や三島由紀夫のようなビッグネームと比べると現代までその名前が残っているとは言い難いかもしれません。さて、肝心の内容ですが、いかにも古い文学作品という様相です。文体や情景としての美しさはあるものの、物語としてはとりとめのない話が続きます。確かに場面場面の読みごたえはあり、文学作品として本作を好む人がいるのは分かりますが、「物語」を楽しむという本ブログの趣旨からすると評価は1点にせざるを得ないといったところです。あらすじデンマークで織物工芸を学んでいた支倉はせくら冬子ふゆこという女性がある日、ヨットで孤島へと旅立ったまま消息を絶ってしまう。彼女の遺品を収集し、整理する「私」。その記録からは、冬子の生い立ちや、彼女の人生転換の契機となる「グスターフ候のタピスリ」という作品との出会い、そしてデンマークで育んだギュルテンクローネ姉妹との友情が伺い知れる。芸術に人生を捧げた女性...
「こころ」夏目漱石 評価:3点|若き日の恋愛譚を題材に世代間の価値観相克を描いたベストセラー小説【古典純文学】
日本文学を代表する作家、夏目漱石のそのまた代表作といってもよいでしょう。長年の高校教科書掲載作品としても有名で、書籍を手に取って読んでみたことがないという人でも教科書掲載部分の内容くらいはなんとなく覚えているのではないでしょうか。また、累計発行部数は700万部を超えており、日本で最も売れている小説であることから、書籍として手に取り通読したことがあるという人もそれなりにいるのだと思います。そんな本書は恋愛の三角関係が物語後半の枢要を占めることもあり、殊更に恋愛小説面を強調したプロモーションがかけられることも多いように感じられます。しかし、本書の主題は「時代の趨勢と人々の『こころ』」であり、漱石自身もそれを意識して書いたという解釈が通説となっております。派手なアクションシーンや意外などんでん返しなどがあるわけではなく、ぐいぐい感情を揺さぶられるというわけではありませんが、手堅い面白さのある作品です。あらすじ東京帝国大学の学生である「私」は夏休みに訪れていた鎌倉の海岸で「先生」と出会う。ひょんなことから「先生」との交流を始めた「私」だったが、「先生」にはどこか謎めいたところがあり「私」には「...
小説 「暗夜行路」 志賀直哉 星1つ
1. 暗夜行路「小説の神様」とまで称され、近代日本文学を代表する作家とされている志賀直哉。「城の崎にて」などの中短編で有名ですが、長編も一作だけ書いていて、それが本作「暗夜行路」。日本文学を語るうえで避けては通れない作品ということで期待していたのですが、その期待は見事に裏切られました。典型的な拙い私小説という印象で、近代小説「黎明期」に、比較対象が少なかったから評価された作品なのだと思います。現代にも通じる普遍性はなく、現代の小説技術と比べて明らかに劣後しているため、物好き以外は読まなくてもよい作品でしょう。2. あらすじ主人公、時任健作は東京に住む小説家。といっても執筆にはなかなか気乗りせず、芸者遊びに興じるなど放蕩生活を送っている。そんな暮らしから脱しようと、尾道への転居を決意した謙作。尾道での生活の中で、謙作は自分の気持ちを整理し、これまでずっと東京で身の回りの世話をしてくれていたお栄という女性に結婚を申し込むことを決意する。しかし、兄である信行に結婚申込み依頼を頼んだところ、信行から衝撃的な事実が告げられる。謙作は謙作の祖父と謙作の母のあいだに出来た不義の子であり、お栄はそんな...
小説 「細雪」 谷崎潤一郎 星3つ
1. 細雪戦前から戦後にかけて活躍した小説家、谷崎潤一郎。いまなお評価が高く、ファンの多い彼の代表作ともいえる作品が「細雪」です。新潮文庫版は上中下巻の構成で出版されておりまして、執筆に4年を費やしたという大作。映画化3回、テレビドラマ化6回という数字が文学の古典ながら世俗にも通じる魅力をもった作品であることを表していますね。やや冗長な表現や本筋から外れたエピソードなどが多いながら、やはり読みごたえのある作品だったというのが感想です。もちろん、そういった冗長さや寄り道部分を評価する人もいるでしょうから、私の星3つという評価が低すぎると感じる人はいても高すぎると思う人は少ないのではないのでしょうか。凋落しつつある旧家の娘が結婚相手を探すというストーリーは婚活全盛の今日においてむしろ示唆的ですらありますし、人物の描かれ方の今日との対比という点でも深く読み込んでいける作品だと感じました。2. あらすじ(上巻)時代は1930年代、蒔岡家の次女幸子は芦屋に暮らしていた。同居するのは夫であり婿養子でもある貞之助と、一人娘の悦子、そして蒔岡家の三女である雪子に、四女の妙子。幸子の祖父の代には大阪の船...
「絵草紙 源氏物語」田辺聖子 評価:3点|美貌の貴公子に篭絡されていく女性たちを描いた平安女流文学【古典文学】
芥川賞作家である田辺聖子さんが訳し、絵草子画家として著名な岡田嘉夫さんの美麗な挿絵が多数掲載された作品。ダイジェスト版の源氏物語が読みやすい訳で収録されており、手に取りやすい日本文学の古典となっております。1984年の出版ですが、むしろ現代語訳としても全く古びておらず、近年の過度に崩した訳などよりはよほど読書に値するもので、源氏物語の耽美な世界を気軽に堪能するにはうってつけでしょう。あらすじ帝は妻の一人である桐壺更衣を溺愛するが、更衣がそれほど高い身分の出身でなかったために、生まれてきた息子は臣籍降下させられてしまう。その息子の名前は光源氏。世の人が賛美するほど美しい青年に育った源氏だが、妻として迎えた葵の上は堅物の貴婦人で満足できない。世の魅力的な女性たちへの恋心を抑えられない源氏は、今日も閨へと忍び込む......。感想古文の授業では文法を理解する必要があって小難しい印象がある作品ですが、小説家が現代語訳しただけあって、本書はさらさらと読みやすく楽しめる商品になっております。いかにも「平安時代」な挿絵もふんだんに収録されており、時代の雰囲気を味わうことができます。ライトノベル感覚で...
【猥雑だった昭和の日本】小説「恋人たち」立原正秋 評価:2点【純文学】
1960~70年代にかけて一世を風靡した作家、立原正秋さんの作品です。1966年に直木賞を獲っておりますが、それまでに芥川賞の候補にもなるなど、純文学も大衆文学もこなす万能の作家でした。本作は根津甚八さんと大竹しのぶさんの主演でテレビドラマにもなっています。感想としては、現代の感覚からすれば「ありえない」作品です。一般的に考えれば、この21世紀に純粋な娯楽作品として読んで楽しい作品ではないでしょう。ただ、この作品・作家が「人気だった」ということを踏まえて読めば昭和という時代への洞察を得られるのではないかと思います。あらすじ1960年代前半、鎌倉の街に、三つ子の男兄弟が別々に暮らしていた。彼らの父、中町周太郎には妻である初子がいたが、彼ら三兄弟は周太郎が結婚する前に交際していた笹本澄子という女性の子供だった。初子が石女だったため周太郎には三人以外の子供はなく、中町家は三兄弟の長男である周太郎が継ぐことになっている。そんな道太郎だったが、大学を中退して以来、家庭教師と賭博で生計を立てていた。酒場で娼婦を買い、病気を貰って悪態をつくような日々。周太郎の妹である久子の娘であり、道太郎から見ると...
「斜陽」太宰治 評価:2点|終戦によって訪れた旧道徳の没落と新しい価値観の勃興が退廃的かつ情熱的に描かれる【古典純文学】
1947年の初版発売以降、日本文学の古典としての地位を不動のものとしている作品。名実ともに太宰治の代表作でしょう。ピースの又吉さんやオードリーの若林さんなど、本好きのお笑い芸人も太宰を好きな作家として挙げるほどで、人気は今日になって勢いを増しているのかもしれません。とはいえ、この作品を好むことができるのは、ヒロイックな登場人物たちに自己投影できるような根っからの読書好きではないでしょうか。旧道徳の退廃と新しい時代の到来の中で流行小説として人気を博したのは分かりますが、今日の日本や世界における、道徳的経済的な没落・凋落の深い部分を捕らえていると言えるほど普遍的な作品ではないように思われました。あらすじ舞台は戦後すぐの日本。かず子とその母は戦前に貴族であったが、父を亡くし、財産も残り僅かという状況に追い込まれた結果、東京の邸宅を売って伊豆での生活を始めていた。慣れない田舎での生活。収入もないのに働かないかず子の「貴族」的な態度にやっかみを覚える住民もいる。当然、財産はどんどん減っていく。そんな中で戦地から帰ってきたのは、かず子の弟である直治だった。阿片中毒の直治は狂人そのもので、お金を持ち...
【たおやかなインド系アメリカ文学】小説「停電の夜に」ジュンパ・ラヒリ 評価:2点【海外文学】
インド系アメリカ人の作家、ジュンパ・ラヒリさんの小説。「インド系アメリカ人」という点がこの作家の特徴を端的に表しておりまして、アメリカに住むインド移民を主人公とした作品でアメリカ及びインドでも著名な作家となっております。優れた筆致は確かで、評価は3点をつけようとも思ったのですが、そこに至るにはやはり、小説(=フィクション)としての面白さがやや欠けているように思われました。描写や題材の選択は巧みなのですが、あくまで人生や日常の印象的な一場面を切り取った以上のものがなく、優れたノンフィクション(伝記・ドキュメンタリー・エッセイ)で代替できてしまう印象です。あらすじ・「停電の夜に」シュクマールとショーバは夫婦であるものの、その間にはすきま風は吹いている。激しく対立するのではなく、お互いに不穏な空気を抱えながらも、それを口に出さず、上滑りするような会話と日常を過ごしていた。そんなある日、計画停電の通知が二人の住む家に届く。電気のない、暗い夜。二人はテーブルを挟み、少しだけ踏み込んだ会話をする。ささやかな隠し事を打ち明けあう二人。少しだけ近づいた距離感で、それぞれが最後に明かすこととは........