純文学

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ヘンリー・ジェイムズ

「ねじの回転」ヘンリー・ジェイムス 評価:2点|幼い兄妹を襲う幽霊、その正体に迫る家庭教師の奮闘【ホラーサスペンス】

アメリカ生まれながらヨーロッパでも長い時間を過ごし、米欧双方の視点や文化が入り混じった小説を書いたことで有名なヘンリー・ジェイムスの作品。日本では「デイジー・ミラー」と並んで容易に入手できるのがこの「ねじの回転」です。文学作品と言うだけあって、技巧を凝らした心理描写は優れていました。ただ、技巧ばかりで、なにか普遍的な人間真理を衝くような、そんな迫真性にかなり欠けていた作品でもありました。あらすじイギリスのとあるお屋敷に家庭教師として雇われた「私」。面倒を見るように頼まれたのは幼い兄妹。両親を失った兄妹は叔父のもとに身を寄せているのだが、お屋敷の主人でもある叔父は二人の教育に全く関心がない。使用人たちには学がないため、「私」が勉強を教えることになったのだ。そんな「私」は当初、この職に就けたことを喜んでいた。品行方正で見目麗しい兄妹と触れ合う時間は楽しく、立派なお屋敷での生活は身に余るほど。しかし、しばらくすると、「私」の生活に文字通り影が差す出来事が起こる。なんと、このお屋敷には幽霊が出るのだ。その幽霊はただその辺りに浮かんでいるだけではなく、子供たちに影響を与え、悪の道に引きずり込もう...
小川洋子

小説 「猫を抱いて象と泳ぐ」 小川洋子 星2つ

1. 猫を抱いて象と泳ぐ不思議な世界観と優しく繊細な文体で人気を博す純文学作家、小川洋子さんの作品。小川さんの個性が前面に押し出されており、ファンの間で評価が高いことも頷けます。しかし、そこが却って普遍性を損なっているような、万民への説得力に欠けているような作品だったと思います。2. あらすじ生まれつき唇の上下がくっついていたために、手術により切開し、脛の皮膚を唇に移植した少年。そのため、少年の唇には成長と共に産毛が生えてくるようになってきていた。学校にも上手く馴染めない少年を惹きつけたのはチェスという競技。廃バスの中で生活するマスターにチェスを教わり、少年はぐんぐんと腕前を上げていく。そんな少年を変えたのはマスターの死だった。肥満しきった不健康な身体でバスの中を狭苦しそうに生活していたマスター。それは、少年が幼少期に出会ったインディラという象を思い出させる。デパートの屋上で見世物となっていたインディラは成長とともに身体が大きくなり、デパートの屋上から降ろすことができなくなってしまっていたのだ。少年は「大きくなること」に絶望し、身体の成長を止めてしまう。それは、チェス盤の下に籠って思考...
綿矢りさ

「蹴りたい背中」綿矢りさ 評価:4点|スクールカーストを題材に青春の焦燥を描いた現代学園小説の古典【青春純文学】

高校在学中にデビューし、史上最年少で芥川賞を獲った超有名女性作家、綿矢りささん。その芥川賞の受賞作が、印象深いタイトルの本作品です。感想を一言で表しますと、「常にクライマックス」。名作を読み終えるときの、あのふわふわした興奮。最後まで読みたい、でも終わらないでという気持ちが常に胸の内から湧きおこってきます。青春時代に、少しでも疎外感や孤独を感じた、あるいは、そのようなことについて思考を巡らせたことのある人にはぜひ手に取ってもらいたい作品です。あらすじ「今日は実験だから、適当に座って五人で一班つくれ」そんな号令が飛ぶと、「余り物」になってしまう高校一年生。名前は長谷川初実、通称ハツ。そしてハツのクラスにはもう一人「余り物」がいる。オリチャンというアイドルのファンである「にな川」だ。いや、にな川のオリチャンに対する執着は「ファン」を超えている。ハツがそう評するくらい、にな川は熱狂的だ。「オリちゃんと喋ったことがある」ハツがそう言ったことをきっかけに、ハツはにな川の家に誘われるのだが......。他人と交わって「薄まる」ことを拒絶するハツと、交わらないことにさえなにも感じていないにな川。孤独...
トルストイ

「イワンのばか」トルストイ 評価:1点|ロシアの文豪が著したシンプルな勧善懲悪寓話【海外文学】

「戦争と平和」「アンナ・カレーリナ」等の作品で有名なロシアの文豪トルストイが著した寓話。富を求めることや暴力による解決に疑義を呈し、素朴な信仰に基づく生活がよいという直截なメッセージが印象的な作品です。しかし、物語の内容があまりにも単純な勧善懲悪に過ぎ、もうすこし工夫がないと楽しみようがないと思ってしまう作品でした。あらすじとある国のとある場所には、軍人の長男セミョーン、商人の次男タラース、ばかの三男イワン、啞の妹マルタがいた。ある日、悪魔が遣わした二匹の小悪魔のために、セミョーンとタラースは軍隊と財産を失い、イワンのもとへ身を寄せることになった。一方、イワンに遣わされた小悪魔は、腹痛中でも農作業を続けるイワンの真面目さに太刀打ちできずたイワンを不幸にしてしまう目論見が破綻。それどころか、三匹の悪魔はイワンの純真さのために捕らえられ、イワンに贈り物をして消えていく。兄たちはイワンにその贈り物を使って軍隊や財産をつくるように要求し、そのおかげで王様となる。しかし、イワンだけは農民として朴訥とした生活を送るのだった。やがて、イワンたちが住む国の王女が病気だという噂が立ち......。感想純...
川端康成

小説 「雪国」 川端康成 星2つ

1. 雪国「国境の長いトンネルを抜けると雪国であった」非常に有名な一文から始まる、川端康成の長編代表作です。繊細で心震える省略美、たおやかな視点と形容。それらの評価が高いのは分かりますが、ストーリーが微妙ということもあり読後の感動はそこまで強くありませんでした。雪国 (新潮文庫 (か-1-1))posted with ヨメレバ川端 康成 新潮社 2006-05AmazonKindle楽天ブックス
カフカ

【変身】ある朝、目覚めると、自分の身体が巨大な虫に「変身」していた 評価:2点【フランツ・カフカ】

「審判」「城」などでも有名なフランツ・カフカの作品です。降りかかる不条理に対して主人公が何を思い、どう行動するか。そして、それを取り巻く家族の反応とその悲しい結末。そのような描写は鋭くかつユーモアに富んでおり、文学界に新風をもたらしたのは理解できるのですが、物語の展開が「当然の結末」だらけで意外性がなく、その点の面白さが欠ける小説でした。あらすじある朝目覚めると、グレゴール・ザムザは一匹の巨大な虫に変身していた。真面目な勤め人だったグレゴール。失業中の父の代わりに一家を支え、妹を音楽学校へと進学させるべく辛い仕事に耐えていた。しかし、変身してしまった彼を家族は恐れるようになる。妹のグレーテだけがかろうじて世話をしてくれるものの、虫になってしまったグレゴールの人間性は次第に失われていく。一家の生活も困窮していき、金策として、家の一部を客人へと間借りさせることにしたザムザ一家。ある日、間借り人をグレーテがバイオリンでもてなしていると、そこにグレーゴルが降りてきて.......。感想読む人によって様々な比喩を想起させる作品です。突然、大病を患って要介護になってしまった人や、働き過ぎて精神病に...
川上弘美

「センセイの鞄」川上弘美 評価:2点|穏やかな大人の恋愛小説【純文学】

芥川賞作家、川上弘美さんのベストセラー小説です。谷崎潤一郎賞を受賞した「純文学」なのですが、異例なほど売れた作品。小泉今日子さん主演で映画化もされています。大人の恋のなかにある淡くて切ない心境に感動できる一方、登場人物の現実感や物語の起伏という点ではイマイチな作品でした。あらすじ37歳独身のOL、大町月子は居酒屋で高校の恩師と再会する。「センセイ」こと松本春綱は月子の30歳年上。奥さんを亡くしているセンセイと、彼氏のいない月子。二人は居酒屋で、あるいはキノコ狩りで、徐々に打ち解けあってゆく。そんな中、高校の同級生である小島孝が月子にアプローチする。月子はその誘いを断り、自分の中での先生への想いを明確にしていく。それでも、なかなか決定的なところまで踏み出せない。しかし、小島孝に旅行に誘われたことをセンセイに打ち明けると、意外にもセンセイが「島に行きませんか」と誘ってきて......。感想紳士的で穏やかなセンセイとの、大人の恋愛。センセイに惹かれていく月子の内面が抒情的に描かれ、こちらにまで切ない気持ちが伝わってきます。ただ、この小説の良いところはその一点のみ。センセイにも月子にも、まるで...
カミュ

【共感は欺瞞】小説「異邦人」カミュ 評価:3点【海外文学】

ノーベル賞作家、アルベール・カミュの代表作です。面白いと思う人とつまらないと思う人が分かれる作品ですが、私は好みです。「共感」ばかりが重要視され、真実を客観的に見る視点を失った現代社会。「誰もがそう思っている」に過ぎない「常識」が、まるで「道徳・正義」のように扱われる今日。そのような風潮に疑問を投げかけ続ける古典の佳作です。あらすじ主人公、ムルソーの母が養老院で亡くなるところから物語は始まる。葬儀に参加するために養老院へ向かうも、涙一つ見せず、母の死体も見ず、ミルクコーヒーを楽しむムルソー。その翌日には恋人のマリィと海水浴に行き、映画を見て笑う。何事にも動じず、淡々と過ごす彼だが、頼まれれば友人を助け、話を聞き、遊びに誘われればついてゆく。その理由は「それをしない理由がないから」だとムルソーは言う。理性・感情を持ちながら、一切の「人間らしさ」がないように見えるムルソー。ある日、彼はビーチでアラビア人を殺し、裁判にかけられることになったのだが......。感想味のある良い作品だと思います。母の死に涙を流し、我を忘れるほど思いつめること、その後しばらくは立ち直れないこと。そんな人物を、我々...
山田詠美

小説 「ぼくは勉強ができない」 山田詠美 星2つ 

1. ぼくは勉強ができない「新潮文庫の100冊」の常連であることからも知っている人が多いのではないでしょうか。文藝賞でのデビュー以来、直木賞、谷崎潤一郎賞、川端康成賞などを受賞し、純文学とエンターテイメントの両方で活躍する作家、 山田詠美さんの作品です。コミカルな語り口と勉強一辺倒に対する爽やかな反論が面白い一方で、勉強のやり過ぎは悪、恋することこそ善といった二項対立で物事を語ることができた時代に取り残されてしまった作品でもあるように思いました。ぼくは勉強ができない (新潮文庫)posted with ヨメレバ山田 詠美 新潮社 1996-03-01AmazonKindle楽天ブックス
梶井基次郎

「檸檬」梶井基次郎 評価:2点|詩情溢れる耽美で大胆な短編集【純文学】

詩情豊かな作風で日本文学史に名を残す梶井基次郎の短編集です。梶井の代表作であり、表題作ともなっている「檸檬」。人気のライトミステリシリーズのパロディ元にもなるなど引用されることが多い「桜の樹の下には」。教科書にも採用され、目にしたことのある人も多いであろう「Kの昇天」。独特な感覚による日常の観察と、清新さと陰翳を併せ持つ文体に酔わされます。あらすじ「檸檬」肺病に苦しみ、借金取りに追われる男は、日常の何もかもを楽しめないでいた。そんな時、男は果物屋でレモンに魅入られる。そのレモンを買い、丸善に向かった男がとった行動とは......。「Kの昇天」ある日、「私」はK君が溺死したとの手紙を受け取り、かつてK君と過ごした 1ヶ月ほどの期間を思い出す。K君は砂浜で、下を見ながら行ったり来たりを繰り返していた。月の夜に自分の影を見ていると、だんだんと影が人格を持ち始め、本当の自分は月へ昇っていくような感覚になるという。そう、K君はついに月に昇りきったのだ。「私」はそう直感する。「桜の樹の下には」桜の樹の下には屍体が埋まっている。桜が醸し出す幻覚のような神秘的雰囲気を不思議に思っていた主人公はその原因...
小川洋子

【心温まる純文学】小説 「博士の愛した数式」 小川洋子 星3つ

1. 博士の愛した数式第1回本屋大賞を受賞したミリオンセラーです。数々の文学賞を受賞されている小川洋子さんの作品の中でも、間違いなく最も知名度が高い作品でしょう。温かさ、柔らかさの中に、人間の哀しみをほんの一滴だけ混ぜたような、決して明るい設定ではないながらも読者を素直にさせてくれるような、そんな佳作に仕上がっています。2. あらすじ「あけぼの家政婦紹介組合」で働く「私」は組合の紹介を受け、ある家庭に派遣されることになる。義弟の世話をして欲しい、依頼主の老婦人はそう言って、離れに住む老人のところで働くよう「私」に要請する。その老人こそ、数学の天才である「博士」であった。「博士」のところへ派遣されるのは「私」で九人目。多くの家政婦が続かなかったのには訳がある。それは、「博士」の記憶が80分しか維持されないから。記憶は80分しか維持されず、常に数学に熱をあげている。そんな変わり者の「博士」に最初は戸惑う「私」だったが、「私」の息子である「ルート」と「博士」との交流をきっかけに、「私」は博士の優しさと数学の魅力に気づいていく。ささやかだけれど、かけがえのない幸福に満ちた日常。しかし、博士が記...
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