政治制度・統治機構・法学

教養書 「市民政府論」 ジョン・ロック 星3つ

1. 市民政府論 日本国憲法が基本的人権の擁護を柱としていること、政府が存在し様々な活動を通じて国民生活を支えていること。これらは中学校の社会の教科書に載っている内容ではありますが、このような言説の中では基本的人権の存在や政府の存在が自明になっており、なぜ、基本的人権は存在する(べきな)のか、なぜ(民主的な)政府が存在する(べきな)のかといったことはなかなか語られません。 こういった発想は優等生的ではないのかもしれませんが、なぜ基本的人権や民主的な政府の存在が自明に良いとされているのか、疑問に思ったことがある方もいらっしゃるのではないでしょうか。 本書「市民政府論」はそんな疑問に答える著作の一つとなっております。基本的人権や民主的な政府が当たり前ではなかった時代、その存在を論理的に正当化しようとした人々がおりまして、その代表格の一人が本書の著者であるジョン・ロックになります。 なお、「市民政府論」はロックの著作である「統治二論」のうち後編にあたります。現在は岩波文庫から前後編が収録された新訳が出版されておりますので、そちらを手に取るのがいいかもしれません。 ...
☆☆(小説)

小説 「都市と星」 アーサー・C・クラーク 星2つ

1. 都市と星 「2001年宇宙の旅」や「幼年期の終わり」で知られるSFの巨匠、アーサー・C・クラークの作品。1956年に出版された作品ですが、2009年に新訳版が出るなどいまでも根強い人気を誇っております。 そんな本作、SFの人気作品というだけあってSF的な設定や世界観は魅力的で面白いと感じましたが、肝心のストーリーがやや冗長で起伏に欠けていると思いました。序盤では閉じられた世界から新しい世界に主人公が踏み込むまでが長すぎ、終盤では主人公が宇宙に旅立ってその現況を眺めるという展開にしてしまったことで風呂敷が広がり過ぎて展開が拙速かつ大味になっています。 2. あらすじ 物語の舞台は遥か未来の地球。ダイアスパーという都市では人間生活の全てをコンピュータが管理しており、生誕や死さえもその例外ではない。人間のデータは全て「メモリーバンク」に記録されており、人間は両親の身体からではなく「メモリーバンク」から生まれ、そして死にたくなったときには再び「メモリーバンク」へと還り、時間をおいて新しい肉体を得て生まれ変わるというサイクルを繰り返していた。人間の一生は主...
パプリカ

アニメ映画 「パプリカ」 監督:今敏 星1つ

1. パプリカ 2006年公開のアニメ映画で、監督は「PERFECT BLUE」や「千年女優」、「東京ゴッドファーザーズ」を手がけた今敏さん。 筒井康隆さんの同名小説が原作で平沢進さんが主題歌を手がけるなど、この手の作品が好きな人には好まれる面子が揃っているといえるでしょう。 「千年女優」は当ブログでもレビュー済みです。 そんな濃密な面子によって製作された本作ですが、過度にマニア向けだったというのが妥当な評価でだと思います。 映像表現の技術的な面には見るべきものがあるのかもしれませんが、普通の人が普通に見てエンタメとして楽しめるような映像表現にはなっておりません。 さらに、物語という点に目を向けると全体的に稚拙な部分が多く、まるで自意識過剰な学生が急ピッチで撮影しましたとでもいうようなちぐはぐ感が目立っておりました。 2. あらすじ 主人公、千葉敦子(ちば あつこ)はサイコセラピストとして働いている。 「DCミニ」という装置を使って患者の夢の中に入り、精神治療を行うことが彼女の仕事だ。 そんなある日、「D...
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☆☆(漫画)

漫画 「ご近所物語」 矢沢あい 星2つ

1. ご近所物語 「NANA」「天使なんかじゃない」「Paradise Kiss」など多くの代表作を持つ少女漫画家、矢沢あいさんの作品。1990年代の中盤に「りぼん」で連載され、同時期にアニメが放映されていたことから、若手社会人世代にとって懐かしい作品だといえるのではないでしょうか。「天使なんかじゃない」からゲスト出演しているキャラクターがいたり、「Paradise Kiss」が同舞台での数年後の話になっているなど、他の矢沢あい作品とのリンクが楽しめるのも特徴です。「天使なんかじゃない」「Paradise Kiss」に関しては本ブログでも既に記事を書いております。 そんな本作ですが、総合的な評価としては凡作だと感じました。少女漫画の肝である恋愛面、そして、デザイン系の高校を舞台にしているというところから発される夢を追う若者という面。その両面においてやや盛り上がりに欠けてしまった印象です。 2. あらすじ 幸田実果子(こうだ みかこ)は矢沢藝術学院に通う高校一年生。夢はファッションデザイナーとして自分のブランドを立ち上げることで、...
☆☆(新書・教養書)

教養書 「拝啓、本が売ません」 額賀澪 星2つ

1. 拝啓、本が売れません タイトルからは内容が判りづらい本なのですが、出版不況に直面しなかなか部数の伸びない作家が編集者と一緒に「本を売る」ことが得意な人々にインタビューをして回るというもの。そのインタビュー記録とそこから著者が得た気づきが載っている、いわばインタビュー集&著者エッセイのような本です。 そんな本を書く著者のプロフィールなのですが、こんな人が「本が売れない」ことに悩むなんてという経歴を持つ作家さんです。私立の中高一貫校から日芸(日本大学芸術学部)の文芸学科に進学。卒業後の就職先は広告代理店で、在職中に若くして松本清張賞と小学館文庫小説賞という二つの新人賞を別々の作品で受賞してデビュー。翌年発売した「タスキメシ」は高校の課題図書に選ばれるという、まさに文芸の王道を進んできた人物。高校在学中にも全国高等学校文芸コンクール小説部門で優秀賞を受賞しているなど、まさに「野良育ちとは違う」感のある小説家だといえるでしょう。 しかし、こんな黄金ルートを歩んできた作家でも「拝啓、本が売れません」を書かなければならないほどの窮地にあることは本書の序盤で明らかに...
林真理子

小説 「葡萄が目にしみる」 林真理子 星2つ

1. 葡萄が目にしみる 小説家としてはもちろん、エッセイストとしても有名な林真理子さんの作品。女性の心理描写が巧みだという評価が一般的でしょうか。直木賞や吉川英治文学賞といった文芸界の賞はもとより、レジオンドヌール勲章や紫綬褒章といった国家レベルの叙勲もされるなどまさに大作家だといえるでしょう。長らく直木賞の選考委員を務めていることや、「元号に関する懇談会」の有識者委員として「令和」制定にも関わっていることからもその大物ぶりが伺えます。 そんな林さんが手掛けた青春小説が本作「葡萄が目にしみる」。林真理子さんの出身高校を舞台としており、林さん自身の容姿を彷彿とさせる主人公に、明らかなモデルが存在する登場人物など、半ば自伝的な要素がある小説とされています。直木賞候補となり、現代的な表紙の新装版も発売されるなど根強い人気のある作品ですが、個人的には凡庸な青春小説だなという感想です。ありきたり(よりも容姿が少し劣って嫉妬深く自意識過剰な)女子高生の高校生活を良くいえば瑞々しく、悪くいえば淡白でオチなしヤマなしに描いた作品で、これほどまでにイベントが起こらず起伏のない作品でいったい...
☆☆(映像作品)

アニメ映画 「劇場版 SHIROBAKO」 監督:水島努 星2つ

1. 劇場版 SHIROBAKO 2014年から2015年まで放映されたTVアニメ「SHIROBAKO」の続編として制作された映画で、2020年2月の公開です。監督はTVシリーズに引き続き水島努。「クレヨンしんちゃん 嵐を呼ぶ 栄光のヤキニクロード」や「ガールズ&パンツァー」の監督として有名です。 TVシリーズの方は本ブログでも記事を4つ書いてしまうほど珠玉の出来で、近年のテレビアニメ全体の中でも屈指の名作となっております。TVシリーズの感想は以下の通り。 また、主人公たちの高校時代を描いたスピンオフ漫画も発売されており、こちらも中々の出来栄えでした。 これほど質の高い作品の続編映画というだけあって、相当程度の期待をもって劇場に足を運んだのですが、結論としては凡庸な作品に落ち着いていたといわざるを得ません。 アニメ業界の大変さやそれでもアニメを作っていこうとする熱い気持ちを伝えようとしているのは分かるのですが、それを(TVシリーズのように)アニメ業界以外に従事する人々に対して訴求できては...
☆(漫画)

漫画 「数学ガール」 原作:結城浩 作画:日坂水柯 星1つ

1. 数学ガール 数学をテーマにした小説「数学ガール」の漫画版で、原作者はプログラミングの実用書で有名な結城浩さん、作画は後に「白衣のカノジョ」を手がけることになる日坂水柯さんとなっております。 原作の購入も検討したのですが、「数学の面白さを伝える」がメインで文芸的な特徴が薄いのであれば漫画版でも同じだろうと考え、漫画版を購入いたしました。しかし、これが大失敗。(もしかすると原作もこうなのかもしれませんが)数学については理数系に詳しくない人間を楽しませようという意図が一切ないような説明しかされないうえ、恋愛を軸とした物語にも数学が深く関わるわけではなく、かといってラブストーリーは非常に陳腐。一般向け数学本としても漫画としても平凡の水準にさえ達していない作品でした。 2. あらすじ 高校生の「僕」は数学好きで、中学時代は放課後ひとりで数式を展開するほどだった。 そんな「僕」にも高校では数学仲間ができる。同学年のミルカさんと後輩のテトラちゃん。ミルカさんは「僕」よりも数学に長けており、いつも「僕」に問題を出す側。逆に、テトラちゃんは「僕」に数学を教わ...
経済・金融・経営・会計・統計

新書 「リサイクルと世界経済」 小島道一 星2つ

1. リサイクルと世界経済 リサイクルという言葉が人口に膾炙するようになってからずいぶん経ちましたが、資源の制約や環境問題がクローズアップされる中で、その概念は今日においてますます輝きを増しているように感じられます。 そして、より一体化する世界経済の中で、リサイクルという行為もずいぶん前から国際貿易の中で行われるようになっております。日本の中古自動車や中古家電が発展途上国でよく利用されているのは有名な話ですし、紙やプラスチックの再生工場も多くは発展途上国に立地し、先進国から廃棄物を輸入し、原料として使用可能な状態にしてから再び先進国に輸出するというサイクルはもはや当たり前のこととなっているのです。 そのような、国際貿易の中でのリサイクル過程がどのように変化し、どのような問題を孕んでいて、どのように解決しているのかということが本書には記されています。著者はジェトロ・アジア経済研究所の小島道一氏。肩書は研究者ですが、本書の筆致には実務担当者として国際貿易の規制や促進に携わってきた側面が色濃く現れております。 2. 目次 第1章 国境を越えてリユースさ...
パウロ・コエーリョ

小説 「アルケミスト」 パウロ・コエーリョ 星2つ

1. アルケミスト ブラジル出身の作家、パウロ・コエーリョの代表作で、累計発行部数が1億部を超えるという世界的な大ベストセラーです。原著は1993年発行で、日本語版は1997年の発行。当時、書店で大プッシュされていたことを記憶している人もいらっしゃるのではないでしょうか。 そんな偉大な作品に対してやや傲慢な態度になってしまうかもしれませんが、個人的には凡作であると感じました。抽象的で浮ついた言葉がそれっぽい雰囲気を醸し出しているだけで心を動かすような本当の内容というものが存在せず、物語そのものはいたって普通。読んで不快になることはありませんが、読破した直後の気分としては「ふーん」で終わってしまった作品です。 2. あらすじ スペインのアンダルシア地方を拠点に活動する羊飼いの少年サンチャゴはある日、セイラムの王様メルキゼデックだと名乗る老人と出会う。王様は少年が飼っている羊の十分の一を対価に、宝物が眠る場所を教えてくれるという。悩んだ末、少年が羊を連れて王様のもとへ再びやって来ると、宝物はエジプトのピラミッドにあるのだと王様は言い、少年にウリムとトムミム...
ティファニーで朝食を

映画 「ティファニーで朝食を」 監督:ブレイク・エドワーズ 星2つ

1. ティファニーで朝食を オードリー・ヘップバーン主演の有名な古典映画で、1961年に公開されています。監督のブレイク・エドワーズは映画「ピンク・パンサー」シリーズを手がけた人物。原作小説の著者であるトルーマン・カポーティは村上春樹が影響を受けた作家として知られています。 内容は王道のロマンティックラブストーリーですが、個人的にはそのカテゴリにおける凡作以上の作品にはなっていないと感じました。 1961年という時代を考えれば、 田舎出身の美人娼婦と無名作家の都会的で悪戯な恋愛模様という物語はもしかすると当時画期的で、「都会のはぐれもの同士の恋愛」という枠組みをつくったのかもしれません。しかし、さすがに展開が一本調子すぎて退屈な部分がありますし、かっこよさの演出もベタすぎて(もちろん、この古典こそがベタさ(=現在のスタンダード)の先駆者だったのかもしれませんが)今日の視聴においてとりわけ良いと感じることはできないでしょう。 2. あらすじ ホリー・ゴライトリーはニューヨークのアパートに住み、娼婦として生計を立てていた。しかし、いくら稼いでも浪費ばかりで...
☆☆(漫画)

漫画 「ピンポン」 松本大洋 星2つ

1. ピンポン 1996年から1997年までビッグコミックスピリッツで連載された卓球漫画です。長年にわたり根強い人気を誇る作品で、メディアミックスでは2002年に実写映画化、2014年にアニメ化、書籍としても2002年に新装版が発売、2012年に文庫版が発売、そして2014年にアニメ化記念の大判が発売されるなど、近年においてもその勢いは衰えておりません。著者の松本大洋さんも漫画好きのあいだでは知られた存在で、本作のほかに「鉄コン筋クリート」が代表作として挙げられることが多いです。 そんな作品なのですが、個人的には巷の高評価ほどの作品には感じられませんでした。確かに、独特な絵のタッチが醸し出す迫力のある試合風景は良いと感じましたが、なんといっても物語がいまいちなうえ、極端すぎるキャラクター造形がせっかくのリアリティ的良さを削いでいます。 2. あらすじ 主人公は"スマイル"こと月本誠(つきもと まこと)と"ペコ"こと星野裕(ほしの ゆたか)。二人は幼馴染であり、県立片瀬高校の1年生として同じ卓球部に所属している。しかし、練習嫌いのペコは部活をサボって遊ん...
☆☆(新書・教養書)

新書 「江戸東京の明治維新」 横山百合子 星2つ

1. 江戸東京の明治維新 帯の煽り文は「150年前の胸に刺さる現実」。明治維新といえば通常、政府高官として新しい日本をつくりあげていく明治の元勲たちに焦点が当たるか、もしくは、幕府側の将軍とその側近であったり、最後まで佐幕派として戦った武士たちに焦点が当たるかの2択になってしまいがちなところ、本書は旧江戸・新東京に生きた庶民たちの生活について説明しようとしているという点で差異化が図られております。 著者は国立歴史民俗博物館教授の横山百合子さん。東大の学部を卒業後、社会科教員として勤めた後に博士課程を経て大学教員としてのキャリアを歩み始めたという人物です。本筋からは逸れますが、リカレント教育の重要性が盛んに言及される中で、今後、日本でもこのような経歴を持つ人が増えるといいな感じます。 そして肝心の中身ですが、題材は新鮮だけれどもやや散漫というイメージ。庶民の生活変化の全体像をとらえるというよりは事例集という形式になっており、下級武士の誰それはこう生きた、遊女の誰それはこう生きた、賤民の誰それはこう生きたというような記述が続きます。その生き様の書かれ方は具体的で面白いの...
武田綾乃

小説 「響け! ユーフォニアム 北宇治高校吹奏楽部、波乱の第二楽章 後編」 武田綾乃 星2つ

1. 響け! ユーフォニアム 北宇治高校吹奏楽部、波乱の第二楽章 全国大会金賞を目指す公立高校、北宇治高等学校吹奏楽部で起こる様々な事件を描いた青春小説シリーズの2年生編。その後編になります。前編の記事はこちら。 また、言うまでもなく本書は京都アニメーションが手掛けるアニメ版の原作として(の方が)有名でしょう。私もアニメ版から入った口です。アニメの感想はこちら。 映画「リズと青い鳥」で描かれたみぞれと希美の関係性についての物語はそこそこ良かったものの、それ以外の群像劇はどこで面白くさせようとしているのか分からないくらいイマイチでした。 2. あらすじ 低音パートの後輩たちが起こした諍いを何とか諫め、パートをまとめ上げることに成功した黄前久美子(おうまえ くみこ)だったが、部全体としての音楽の出来には不安が残っている北宇治高校吹奏楽部。 低音パートでは3年生である中川夏紀(なかがわ なつき)の実力不足は明らかで、トランペットパートでは1年生ながらにして実力十分、特に高音が得意な小日向夢(こひなた ゆめ)が何...
RWBY

アニメ 「RWBY volume4」 監督:ケリー・ショウクロス 星3つ

1. RWBY volume4 本ブログで継続的に取り上げている、アメリカ発の3DCGアニメーションシリーズ「RWBY」。ストーリーやキャラクター、そしてバトルアクションなど、あらゆる側面が日米折衷となっているのが特徴です。 volume3では主人公たちが通っていたハンター養成校ビーコン・アカデミーが敵の襲撃を受けて崩壊するという衝撃的な結末で学園編が終わりました。volume4からは学園の中での切磋琢磨からはうって変わり、文字通り世界を救うため旅をするという新編。期待と不安を抱きながらの視聴でしたが、それなりに面白かったので安心しました。 2. あらすじ グリムとホワイト・ファングの襲撃によりビーコン・アカデミーは陥落。チームRWBYの4人も学業を続けることができなくなり、ビーコン襲撃によって受けた身体的・精神的な衝撃を抱えながらそれぞれの道を歩むことになる。 敵が次に狙っているのはヘイヴン・アカデミーだと聞きつけ、ルビーは亡くなったピュラを除くチームJNPRの3人とともにヘイヴンの所在地である東のミストラル王国を目指す。 父親の...
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