詩情豊かな作風で日本文学史に名を残す梶井基次郎の短編集です。
梶井の代表作であり、表題作ともなっている「檸檬」。
人気のライトミステリシリーズのパロディ元にもなるなど引用されることが多い「桜の樹の下には」。
教科書にも採用され、目にしたことのある人も多いであろう「Kの昇天」。
独特な感覚による日常の観察と、清新さと陰翳を併せ持つ文体に酔わされます。
あらすじ
「檸檬」
肺病に苦しみ、借金取りに追われる男は、日常の何もかもを楽しめないでいた。
そんな時、男は果物屋でレモンに魅入られる。
そのレモンを買い、丸善に向かった男がとった行動とは......。
「Kの昇天」
ある日、「私」はK君が溺死したとの手紙を受け取り、かつてK君と過ごした 1ヶ月ほどの期間を思い出す。
K君は砂浜で、下を見ながら行ったり来たりを繰り返していた。
月の夜に自分の影を見ていると、だんだんと影が人格を持ち始め、本当の自分は月へ昇っていくような感覚になるという。
そう、K君はついに月に昇りきったのだ。「私」はそう直感する。
「桜の樹の下には」
桜の樹の下には屍体が埋まっている。
桜が醸し出す幻覚のような神秘的雰囲気を不思議に思っていた主人公はその原因が下に埋まる死体であると考え......。
感想
文学的表現とはまさにこのようなことを言うのだろうと思わせられるような日本語が詰まった短編集です。
心の中のどろどろとした感覚や、突然、奇怪な行動をとってみたくなる衝動。
あるいは、自然に対する繊細かつ大胆な観察。
文章を読んでいるというよりは、むしろ絵画やクラシックを鑑賞している時の気分です。
正直なところ、脚本の妙や人間関係の機微はまるでなく、連続して読むと飽きがくるので小説としては評価2点ですが、小説というより詩歌を愉しむ気持ちで読めばそれなりに楽しめる作品です。
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