1. SHIROBAKO ~上山高校アニメーション同好会~
屈指の名アニメとして本ブログでも複数回取り上げた「SHIROBAKO」。主人公格5人の高校時代を描いた、いわば「第0話」として発売されているのが本作。アニメ版を視聴していることを前提として話が進むファングッズなのですが、それに留まらない「物語」としてのクオリティがあります。アニメ版と同様でもすが、特に「ピンチ」の演出が実に上手いですね。
アニメ版の感想は以下の通りです。
2. あらすじ
舞台は山形県にある県立上山高校。この平凡な高校で、3年生の安原絵麻(やすはら えま)は悩んでいた。アニメが好きで、絵を描くことが好きな絵麻だったが、他人に自分の作品を見られることが怖く、自分に自信が持てずにいた。
そんな中、体育祭用にクラスの応援幕を描いた絵麻。体育祭当日に絵麻に話しかけ、その出来を褒めたのが同じく3年生の宮森あおい(みやもり あおい)。同じくアニメ好きである彼女は、アニメーション制作を絵麻に提案する。仲間を集めてアニメーション同好会を発足させようというのだ。
あおいの積極性もあり、同じくアニメ好きでコンピュータやCGに詳しい藤堂美沙(とうどう みさ)、脚本家志望の今井みどり(いまい みどり)、声優志望の坂木しずか(さかき しずか)を集めて誕生した上山高校アニメーション同好会。文化祭でオリジナルアニメーションを発表することを決め、意気込みも上々。全ては順風満帆かと思われた。
しかし、絵麻にとっては「学校」で居場所を獲得できたに過ぎない。絵麻にとっては大学受験の年、アニメーション作りで「遊び惚ける」絵麻に父の視線は厳しい。
そして、順調だったアニメーションづくりでも事件が起こる。制作途上での上映会を終えたあと、さらに気合を入れた絵麻がPCの配線に足を引っかけてしまい......。
3. 感想
SHIROBAKOの鍵を握る重要設定であった、「主人公格の5人は高校時代にアニメーション同好会で一緒に作品作りをしていた」というエピソード。回想として時おりカットインするだけだった物語が全編にわたって描かれており、原作であるアニメ版のファンとしては「見たかったあの話」が見られて満足という気持ちが素直な感情です。
そのうえ、単なるサブエピソードの寄せ集めではなく「仲間を集めて新しい部活を結成し、目標に向かって努力する」という一つの独立した王道物語としても成り立っているのが本作の良いところ。取り返しのつかない失敗、夢はあるが堅くない業界を目指すことからくる親との対立、時に訪れる仲間内の不和とそれを乗り越えた友情。たった2巻ですが、必要な要素は全て詰め込まれ、しかも原作知識を前提にしているので通常の漫画よりも必要悪的な説明が省かれ、テンポ良く進んでいくため没入できます。
加えて、高校生としての時間と能力の限界から当初の脚本を三分の一に削り、さらに絵麻の失敗からもう三分の一にする、という展開もなかなか胸を締め付けます。一生懸命考えて、想像だけは無限に広がるけれども、現実ではそれをスケールダウンしなくてはいけない。一度トラブルに見舞われれば、さらにそれを削っていかなくてはいけない。決して甘くない「現実」の前に葛藤し、完璧ではないけれどもできることを一生懸命やっていく。思い切った構成が「温くない」物語にしているのが好印象ですね。絵麻の親との和解も部分的で、その歩みの遅さ、人生をかけての関係となる親子関係の難しさが現れています。「漫画やアニメのように」物事が一気に解決することなんてなかなかあるものではありません。けれども、じっくりと取り組めば少しだけ光明が見える。そんなSHIROBAKOの良さはしっかりとこの作品にも出ています。
4. 結論
ファンブック的な商品ながら、しっかりと「中身」のある作品。SHIROBAKOファンならば是非、手に取るべきです。
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