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「新築がお好きですか? 日本における住宅と政治」砂原庸介 評価:4点|過度な新築持家推奨政策がもたらした住宅市場の不効率【政治学】

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新築がお好きですか 日本における住宅と政治
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ここでも、「そりゃあ、外から人が来るんだから『都市が広がる』のは当たり前じゃないか」と思う人もいるかもしれせんが、諸外国はなかなか「都市計画通りの都市をつくる」ことを重視しているらしく、開発規制が非常に強いため、東京のようにだらだらとどこまでも都市が広がる姿は結構珍しいそうです。

実は「全体の利益・計画」よりも「個別の地域利益」を重視するインセンティブを生み出す中選挙区制の影響がここでも見られるという解説がこの章の最後に挟まっていて、「住宅と政治」らしい章になっております。

第4章はやや毛色の違った話題となっており、分譲マンションや賃貸住宅などにおける問題が論じられております。

最近は都心部を中心に分譲マンションが急増しておりますが、例えば「日照権」の問題を起こしたり、地域コミュニティに溶け込まないなど「迷惑施設」的な側面があったり、あるいは、日本では例外的に中古市場が形成されていたり、一部が賃貸として貸されたりということが少なからずあるという特異な面が紹介されます。

しかし、本書で特に問題視されるのは「住民同士の合意形成の難しさ」です。

分譲マンションは法律上、「区分所有」という、それぞれの部屋をそれぞれが所有しているという建前になっており、マンション全体に関する決定は多数決や特別多数決に拠らなければならないことになっています。

普段の生活ではあまり困らないかもしれませんが、いざ設備の故障や建物の老朽化などが問題になると、修理や建て替えについての合意形成が問題になるわけです。

マンションに永住する予定で、まだ中年くらいの人物/家族は積極的に修繕や建て替えに賛成するでしょうが、高齢者や移住予定者にとっては「あとちょっともってくれればよい」のであって、「今後何十年のためにお金を出したくない」わけです。

同じような世代の家族が一斉入居する初期の分譲マンションならいざ知らず、時間が経ち、さらに中古売り出しや一部賃貸化による住民の入れ替わりが起きればさらに合意は困難になります。

全く手入れされず朽ち果てていく分譲マンション。

いま、「限界アパート」で起きていることがそのまま起きてしまうかもしれません。

さて、長々と本書の内容を追ってきたわけですが、冒頭で述べたように、第5章でようやく「空き家」と「災害復興」というホットな話題に本書の焦点が当てられます。

これも冒頭でも述べたことですが、日本の住宅市場・住宅政策における問題点とはつまり、新築持家や低級賃貸住宅が大量にばら撒かれ、それらがろくな更新もされずにボロボロになっていく、という現象です。

既に総住宅数が総世帯数を優に超えており、地方を中心に「空き家」は深刻な問題となっておりますし、都市部に近い場所でも歯抜けになっているアパートなどが大量に存在しています。

人口減少の中、これからも「不便な場所」を中心にそういった空き家は増えていくでしょう。

住居を立てておいた方が更地よりも固定資産税が小さくなる仕組みがこれを助長していることは有名です。

空き家カフェから行政代執行まで、様々な手段を駆使して自治体は対応しようとしていますが、上手くいっている事例は少なく、ただでも余裕がない地域の自治体の負担は増すばかりです。

また、新築持家大量供給使い捨てシステムは「コンパクトシティ」政策とも密接に関わっております。

べらぼうに都市を外延まで広げなければ、そもそも既に「コンパクト」だったはずだということを考えればその影響力も理解できるというものでしょう。

財政難の中、ほとんど人がいない地域に水道や電気などの公共インフラを届けること、病院や教育(学校)を確保することの負担はもはや多くの自治体にとって耐えられないものになりつつあります。

逆に言えば、これまでは水道・電気供給線の延長や病院・学校建設を無限に行って対応してきたわけで、そこには(移住者が自治体に負担させている)見えないコストがあったわけです。

しかも、いまさら中心部に呼び寄せるにしても、既に大量の住宅が中心部にあり、それは更新がろくになされておらず、いまから更新するのも難しいという状況であるわけですから、中心部からの「流出」さえなかなか止まらないでしょう。

そして、災害復興においてもこの問題が浮上します。

被災者の新たな住宅をまた造るのか。

造るとしてどこに造るのか。

人口減少が直撃し、移動できる「資力」と「若さ」を持った人から出ていってしまって高齢者だけが残ってしまう状況。

「みなし仮設」が活用されたりしておりますが、事実上の家賃補助であるこの制度が日本の他の制度に影響を与えるのか。

これから注目していくべき事象でしょう。

「終章」ではこれからの展望として、住宅政策のあるべき姿と現実的な提案が記されておりますが、これは本書を読んだ人の楽しみにしておくべきでしょう。

妄想だらけのバラ色の未来を描くことなく、しかし、悲観しすぎることもなく、地に足の着いた、だからこそ苦しい現状に対する葛藤が滲み出た筆致になっております。

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考察

ここからは純粋に個人的な気持ちなのですが、思うに「住宅」が持つ外部性をあまりにも無視し続けてきたのが日本の住宅政策だったのではないでしょうか。

住宅が都市郊外に建てば自治体はお金をかけて公共インフラの延伸・建設をしなければなりませんが、中心部の住宅が更新され続けていれば、人口が集積することによる商業上のメリットを多く受けられたでしょう。

価値を失った住宅はやがてマイナス価値を持つ(存在が迷惑で負荷となる)負の遺産になって我々をいま苦しめています。

自治体に負わせている負担の大きさを考えれば、「都市」あるいは「郊外」という公共財へのフリーライドを許し続けた結果とも言えるのではないでしょうか。

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